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【医療従事者向け】N95/DS2マスク枯渇対策:どうしてもN95/DS2マスクを再使用しなくちゃいけない時にみるnote&YouTube

このnoteの想定読者

このnoteは以下のことをご理解いただける方を対象に書いています。また、慶應大学理工学部の奥田知明先生が作成してくださったYouTube【医療従事者向け】N95/DS2マスク枯渇対策としての滅菌再利用後の粒子捕集公立の変化も、同様です。

この記事の読者に理解しておいて欲しいこと

1.本来、使用後のマスクは、医療機関で破棄すべきもので、自宅に持ち帰るべきではない。自宅に持って帰る行為そのものが、感染拡大のリスクを高める

2.厚労省が示す5日ローテートand/or過酸化水素プラズマ滅菌器か過酸化水素滅菌器が使えるのなら、そっち優先するべき

3.ここでは厚労省の5日ローテート、過酸化水素プラズマ滅菌器、過酸化水素水滅菌器以外の方法として、「スチーム除染」を挙げているが、スチーム除染によって除染できたというエビデンスがあるのはH1N1インフルエンザウイルスであって、コロナウイルスに対しては何の証拠もない

4.CDCもFDAも家庭にN95を持ち帰るな/持ち帰らせるな、あってはならないことだと言っている(大切なことなので1.と重複するけどもう一回!)

5.N95/DS2は使い捨てを想定して作られたもので、除染後の再利用の際に本来の機能が発揮できない可能性がある

はじめに

みなさん、noteでは初めまして。隠居した元産業医のカステラ👑女王様です。医学知識は殆ど残ってないし、色々血迷って女子大生になったりして、人生迷子状態です。

人生迷子の私にアレコレ言われても困るでしょうが、N95/DS2マスクが枯渇しまくって、困りぬいた挙句に、マスクを石鹸水にちゃっぽん…してしまう方もあると聞いて、謎の使命感!

うおー、それやっちゃアカンやつ! これはお伝えせねば。

コレだけは抑えて! やっちゃアカンことリスト

N95DECONという工学者や臨床家たちによるボランティア団体が発行している Unsuitable Decontamination Methods によると、やっちゃダメなのは以下の4つ。日本では、職業感染制御研究会がその情報を一箇所に集め、翻訳等を行っています。

やっちゃダメ1:石鹸水ちゃっぽん

やっちゃダメ2:アルコールにちゃっぽん

やっちゃダメ3:漂白剤にちゃっぽん(適切な濃度でもダメ)

やっちゃダメ4:一晩休ませて翌日使う

やっちゃダメ1〜3は、除染はできますが、肝心のマスクの粒子捕集効率を落としてしまい、せっかくのN95/DS2マスクを夜店の射的でゲットした仮面ライダーのマスク状態にしてしまいます。

やっちゃダメ4は、一晩では、N95表面に付着したSARS-CoV-2が十分失活しないから。

厚生労働省の事務連絡:「N95 マスクの例外的取扱いについて」

みなさんご存知の通り、N95/DS2は本来使い捨てで、再使用するようには作られていません。メーカーとしても、使い捨てのつもりで作ってるのに再使用されてしまうことになってしまって、きっと困惑しているはず。

それでも、どうしても再使用しなくてはならない場合、厚労省の「N95 マスクの例外的取扱いについて」に紹介されている方法で除染の上、再使用してください。

厚労省で紹介されている方法とは、ざっくり以下の3つ。
1.過酸化水素水プラズマ滅菌器を用いた再利用 
 3回の再利用でN95 マスクの換気能が低下するため、再利用は 2 回まで
 *マスクのメーカーや型番によって早く使えなくなる場合もある

2.過酸化水素水滅菌器を用いた再利用法
 10 回までの再利用が可能
 *マスクのメーカーや型番によって早く使えなくなる場合がある

3.1人に5枚のN95 マスクを配布し、5 日間のサイクルで毎日取り替える
 *ウイルスの除染はできるが細菌やカビは除染できない

職場には過酸化水素水プラズマ滅菌器も過酸化水素水滅菌器もないし、配られたマスクは1枚…の時どうする?

正直いうと、元産業医としての私からのアドバイスは、そんな職場やめてしまえ!です。強い信念を持って言いますが、どのような職種であっても自分の危険を顧みずに誰かを助けるべきではありません。目の前に、急げば間に合いそうな患者さんがいたら、うっかり防護衣もマスクもつけずに助けようとする医療従事者はいそうだし、そうするべきと思っている医療従事者もいるかもしれません…が、私はこの考えに、ものすごく反対です。どうしてもそうしたい方本人の邪魔まではしませんが、それを自分以外の人に押し付ける人に対しては、相手が誰であろうと邪魔しまくる気満々ですので、そこのとこヨロシコ。

70℃湿度85%以上での30分スチーム除染はマスク機能を低下させないで除染できる「かもしれない」

で、本当は、そんな職場やめてしまえ! と、思っている私ですが、血迷ってN95をアルコールにちゃっぽんするよりはマシな方法として、70℃湿度85%以上での30分スチーム除染を挙げます。後からご紹介するYouTubeで、慶應大学理工学部の奥田知明先生にご協力いただいて、どうやら、スチーム除染はマスクのマスクとしての機能を低下させないらしいこともわかりました。N95/DS2マスクには何百種類もあり、そのうちのたった1種類を調べただけなので、そこまでいうと言い過ぎですが、少なくともアルコールや漂白剤に漬けるよりはマシです。

本当は、厚労省のオススメする方法使って欲しいのよ? でも、アルコールにちゃっぽんよりは遥かにマシだから、本当に😱

70℃湿度85%以上での30分スチーム除染で、コロナウイルスの除染ができたという報告はまだありません。この方法を使った根拠は、CDCさまのこのお言葉 と

"Based on the limited research available, as of April 2020, ultraviolet germicidal irradiation, vaporous hydrogen peroxide, and moist heat have shown the most promise as potential methods to decontaminate FFRs"

Cited from: Centre for Disease Control and Prevention; https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/ppe-strategy/decontamination-reuse-respirators.html  

70℃湿度85%でH1N1インフルエンザウイルス(コロナウイルスじゃなくて残念だけど)を除染するという論文2つ。

CDCのDecontamination and Reuse of Filtering Facepiece Respirators中https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/ppe-strategy/decontamination-reuse-respirators.html のReferences 14 → Heimbuch, B.K., et al., "use of energetic methods to decontaminate filtering facepiece respirators contaminated with H1N1 aerosols and droplets."  American Journal of Infection Control 39(1) (2011): e1-e9. https://doi.org/10.1016/j.ajic.2010.07.004

N95DECONのHeat & HUMIDITY の Reference 6 & 7. (6 はCDC reference 14 と同じ) → Lore, M. B., Heimbuch, B. K., Brown, T. L., Wander, J. D., & Hinrichs, S. H.,  Effectiveness of Three Decontamination Treatments against Influenza Virus Applied to Filtering Facepiece Respirators. The Annals of Occupational Hygiene, 56(1) (2012): 92–101. https://doi.org/10.1093/annhyg/mer054

スチーム除染の動画

慶應大学理工学部 奥田知明先生にお願いして、70℃湿度85%以上のスチームを30分以上を3回繰り返した後のマスクの粒子捕集機能について調べていただきました。

YouTube動画:【医療従事者向け】N95/DS2マスク枯渇対策としての滅菌再利用前後の粒子捕集効率の変化 N95/DS2 particle collection before/after sterilization

カステラ家のお鍋と私の声もちょこっとだけ出演していますw

くどいようですが、コレで本当に除染ができてるのかはわかりません。エビデンスがあるのはコロナウイルスではなくてH1N1インフルエンザのみ。しかも、N95/DS2マスクは何百種類もあり、この実験で調べたのは1種類だけです。さらには、家庭でしかも調理器具で除染するなんて、本当はダメでしょう。

ですから、本当は厚労省の紹介する方法で除染行ってほしいし、本当の本当は使い捨てのものは使い捨てで使って欲しいのです。けれども、どうしてもどうにもならなくなったら、漂白剤やアルコールや石鹸水にマスクを漬け込んで、その性能を台無しにしてしまうよりはマシだと割り切って、スチーム除染を試みてください。

おまけ:オゾン除染について

上のYouTube 動画のオゾン除染については、私は関与していないのですが、CDCの報告書には、確認できていないが、期待度大であると書いてありました。

また、こちらに、YouTube でオゾン除染のプロセスについて紹介していらっしゃる生馬医院の小山博史先生のブログを紹介します。すごく詳しく書いてあるので、N95をどうしても除染して再利用しなくてはならない医療従事者は必読です。
http://www.ikomaiin.com/?QBlog-20200505-1

謝辞

マスク性能の検討を快く引き受けてくださった、
慶應義塾大学 理工学部 奥田知明 教授に深く感謝いたします。


Bibliography 

Centre for Disease Control and Prevention, "Decontamination and Reuse of Filtering Facepiece Respirators". Accessed May 7, 2020. 
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/ppe-strategy/decontamination-reuse-respirators.html  

Heimbuch, B.K., et al., "use of energetic methods to decontaminate filtering facepiece respirators contaminated with H1N1 aerosols and droplets."  American Journal of Infection Control 39(1) (2011): e1-e9. https://doi.org/10.1016/j.ajic.2010.07.004

Lore, M. B., Heimbuch, B. K., Brown, T. L., Wander, J. D., & Hinrichs, S. H.,  Effectiveness of Three Decontamination Treatments against Influenza Virus Applied to Filtering Facepiece Respirators. The Annals of Occupational Hygiene, 56(1) (2012): 92–101. https://doi.org/10.1093/annhyg/mer054

N95DECON, "Unsuitable Decontamination Methods". Accessed May 7, 2020. https://static1.squarespace.com/static/5e8126f89327941b9453eeef/t/5e8e64c94955f72efb38ba27/1586390217773/200408_N95DECON_cautionsheet_v1.2_final.pdf

小山博史, "N95マスクのオゾン滅菌による再利用",  May 5, 2020. http://www.ikomaiin.com/?QBlog-20200505-1

奥田知明, "【医療従事者向け】N95/DS2マスク枯渇対策としての滅菌再利用前後の粒子捕集効率の変化 N95/DS2 particle collection before/after sterilization", May 6, 2020. https://www.youtube.com/watch?v=1curbb_aNds&feature=youtu.be

厚生労働省, "N95 マスクの例外的取り扱いについて” April  10, 2020.  https://www.mhlw.go.jp/content/000621007.pdf

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