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生成AIと法律問題 -vol.3-著作権法①

こんにちは!
生成AIを使う際に生じる法律問題を、自分の頭の整理も兼ねて簡単に説明しています。

1. はじめに

2023年12月20日に、文化庁の著作権分科会法制度小委員会から、「AIと著作権に関する考え方について(素案)」が発表されました。

文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第5回)

AI と著作権に関する考え方について(素案)

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r05_05/pdf/93980701_01.pdf

素案の冒頭に書いてあるように、上記素案は、あくまで公開時点のものであり、今後の議論を踏まえて変更される可能性がありますが、
今まで問題とされてきた様々な論点に対し、一定の回答をまとめたものだと思います。思いました。偉そうに。

今後は以下のとおりのスケジュールで進むようです。
•       2024年1月中旬~2月上旬 パブリックコメントの実施
•       2月下旬 パブリックコメントの結果発表
•       3月 文化審議会著作権分科会において報告

パブコメはもう公示されております。
「AIと著作権に関する考え方について(素案)」に関する意見募集の実施について

このように、著作権と生成AIが今アツいみたいなので、
今回は生成AIと著作権法の関わりを整理していきます。

2. 論点

以前にも載せましたが、下図は、経済産業省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン―AI編」(平成30年6月)に私が著作権法上の論点を追記したものです。

経済産業省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン―AI編」(平成30年6月)を加工

生成AIと関連する著作権法上の論点は以下のとおりです。
上記の図とは少し異なる表現を使いますが、言ってることは同じです。
2が一番重いと思いますが、がんばって整理していきたいですね。

1 著作者・著作権者性
2 著作物性
・プロンプトの著作物性
・ 生成物の著作物性
3 著作物の利用
・学習モデル構築における著作物の利用(著作権法30条の4)
・生成物による既存の著作物の著作権侵害
4 著作者人格権

3. 解説

1 著作者・著作権者性

(1) 生成AIを利用した場合の著作者性
「著作者」とは、「著作物を創作する者」をいいます(著作権法(以下「法」といいます。)2条1項2号)。
著作権法制定当初は当然のことながら生成AIなどなかったので、「創作」というのは、事実行為としての創作、すなわち人の精神的作業が前提となっています(中山信弘『著作権法〔第3版〕』268頁)。
しかし、AIを使ってコンテンツを生成する場合、この「創作する者」が誰なのかが問題となります。
これについて、文化庁著作権課は、「人が思想・感情を創作的に表現するための道具としてAIを使用したと認められれば、AI生成物は著作物に該当し、AI利用者が著作物となる」としており、
「人がAIを道具として使用した」と評価できるか否かは、人の「創作意図」があるか、および人が「創作的寄与」と認められる行為を行ったかによって判断されることになる、としています(文化庁著作権課「AIと著作権」NBL1246号)。

この画家が、この絵で言う「筆」としてAIを利用したと言えるかが問題となる、ということです。簡単~

(2) 創作意図
思想感情をコンピュータシステムを使用してある結果物として表現しようとする創作意図が存在することをいいます。
「AIを使用して自らの個性の表れとみられる何らかの表現を有する結果物を作る」という程度の意図があれば足りると考えられており、それほど厳しい要件というものではないとされています(文化庁著作権課「AIと著作権」NBL1246号)。

生成AIを使う際、意図しない表現が生成されることはあり、このような偶然の結果に対して創作意図は認められないのではないかと思いますが、実際には、成果物それ自体だけを見て創作意図があったかどうかを判断するのは困難なので、結局は後述する創作的寄与の考慮要素や、作品自体の独自性から、創作意図が推認されるのだと思います。

(3) 創作的寄与
創作過程において、人が具体的な結果物を得るための創作的寄与と認めるに足る行為を行ったことをいいます。
ここで、共同著作物(複数の者が共同して創作したものであって、各人の寄与を分離して個別的に利用することができないもの(法2条1項12号))は、各著作者に創作的寄与があることが求められ、単に誤字・脱字の指摘、不適切な表現の修正、アイデアの提供に過ぎないような寄与は、創作的寄与とは認められず、当該著作物は単独著作となります(東京地判平成2.6.13、東京地判平成16.3.19等)。
生成AIとAI利用者の関係もこの共同著作者の関係とパラレルに考えることができます。
「AIと著作権に関する考え方について(素案)」(以下「素案」といいます。)では、以下のとおり整理されています(素案5.(3)イ)。長いので、適宜省略します。

・生成AIに対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、当該AI生成物に著作物性は認められないと考えられる。
・また、生成物の著作物性は、個々の生成物について個別具体的な事例に応じて判断されるものであり、単なる労力にとどまらず、創作的寄与があるといえるものがどの程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断されるものと考えられる。例として、著作物性の判断するに当たっては、以下の①~④に示すような要素があると考えられる(※素案には①~④について説明が記載されています。)。
① 指示・入力(プロンプト等)の分量・内容
② 生成の試行回数
③ 複数の生成物からの選択
④ 生成後の加筆・修正

「AIと著作権に関する考え方について(素案)」5.(3)イ

上記①~③については、生成物そのものを生み出す際の関与の仕方であり、上記④は生成物ができた後の加筆修正の論点であるため、場面が違うことは認識しておくべきかと思います。
以下、上記①~④について少し解説します。

① 指示・入力(プロンプト等)の分量・内容
表現と同程度の詳細な指示であれば、創作的寄与が高まります(素案5.(3)イ①)。
例えば、(私見ですが)自分で一定程度の分量の小説を書いて、「この続きを考えてください」という指示をした場合、創作的寄与が認められる可能性があります。

② 生成の試行回数
①と似ていますが、試行錯誤を繰り返して修正したりといった回数が多ければ、創作的寄与が認められる可能性があります。

③ 複数の生成物からの選択
単なる選択行為自体は創作的寄与の判断に影響しないと考えられます(素案5.(3)イ③)。
例えば「ピンクの猫が散歩しているイラスト」という指示のもと、画像生成AIが5枚程のイラストを生成し、ここから好きなものを選ぶ、という程度では創作的寄与は認められません(奥邨弘司「Alによる生成表現の「著作物性」」(ビジネス法務2023.11))。

④ 生成後の加筆・修正
これについては、既存の素材を用いた創作と同じなので、その加筆修正部分及びその一体不可分と認められる部分について創作的寄与が認められると考えられます。

(4) まとめ
というわけで、生成AIを使用して作品をつくる場合の著作者性について整理しました。

一般的に遊び感覚で行う生成AIの利用としては、
「ブログタイトルを考えて」とか「ピンクの猫が散歩しているイラストを書いて」といったようなごく短いプロンプトの入力で文章なり画像を生成するようなものかなと思いますが、
このような利用方法ですと、プロンプトを入力した者に著作者性は認められないということです。

次回は、著作物性について整理していきます。
それでは今日はこの辺で🐑
めえめえ

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