見出し画像

第11回 上咽頭擦過療法

2024年3月11日

健康と美容、栄養、ウェルエイジングを専門としている内科美容皮膚科医 中島由美です。

上咽頭は鼻腔の奥の壁にあり、アーンと口を大きく開けてものどちんこの裏、その更に上方にあるので見えないところになります。インフルエンザやコロナの検査で鼻から長い綿棒を入れてこする、あの敏感な場所です。この部分に炎症が慢性的に起きると、慢性的な喉の痛み、長引く咳、鼻づまり、後鼻漏(鼻水が喉の方に流れ込む)、のどのへばりつきなどの症状が出てきます。上咽頭に炎症が慢性的に起きている状態を「慢性上咽頭炎」といいます。
上咽頭の粘膜表面にはリンパ球が多く存在し免疫に関わる重要な場所で、また、上咽頭近くには迷走神経が走っているため、この部分に炎症があると自己免疫疾患や自律神経失調症までも引き起こしてしまいます。
原因不明の不調や、頭痛、肩こり、めまいなどが続くときも慢性上咽頭炎を疑うべきだと考えています。

では炎症のある上咽頭に対してどのようにアプローチしていくか?
今までの経験上、抗生剤や抗炎症剤では上咽頭の慢性炎症をとることができませんでした。
当院では、鼻腔と口から長い綿棒を入れて上咽頭をこすりながら粘膜に塩化亜鉛というお薬を塗っていく方法をとっています。「上咽頭擦過療法」や「EAT」または「Bスポット療法」と呼ばれる治療法です。1960年代から始まったこの治療法は現代では使用されることが少なくなり、私の大学時代でも習うことはありませんでしたし、勤めた病院でも勉強会でも耳にすることはありませんでした。新型コロナ感染が流行し始めて、昔の治療法である上咽頭擦過療法が再び注目されるようになったのです。私は新型コロナ感染後の後遺症で悩んでいる患者さんを多く目の当たりにして、何か治療法はないかと調べて行きあたったのが上咽頭擦過療法でした。聞いたことも見た事もないその治療法を更に調べていくと、コロナウイルスが上咽頭に付着してウイルスが死滅した後も上咽頭の炎症が続くと色々な後遺症を引き起こすことがわかりました。その後すぐにコロナ後遺症外来を立ち上げ、上咽頭擦過療法を始めたのですが、後遺症の代表である味覚障害、嗅覚障害、頭痛、めまい、頭がぼーっとする、などの症状が回数を重ねるごとに確実に取れていったのです。全身倦怠感や不眠など、上咽頭とは一見離れた全身の症状にも改善が見られていきました。

最近ではコロナ感染が減ったとはいえ、コロナに感染して後遺症で通院されている方もいらっしゃいます。また、コロナ感染とは関係なく、慢性鼻炎、慢性の鼻づまり、長引く咳などにも治療を行っています。自分の症状をネットで調べて、上咽頭擦過療法をしてほしいと希望される方も増えてきました。

慢性上咽頭炎が関係する症状には以下のものがあります。

○頭頚部の症状
・咽頭違和感
・後鼻漏
・咳喘息
・痰
・首こり、肩こり
・頭痛
・耳鳴り、耳管開放症
・舌痛

○全身の症状
・全身倦怠感
・めまい
・睡眠障害(不眠、過眠)
・起立性調節障害
・記憶力、集中力の低下
・過敏性腸症候群
・むずむず脚症候群
・慢性疲労症候群
・線維筋痛症
・アトピー性皮膚炎
・IgA腎症
・掌蹠膿疱症
・乾癬
・慢性湿疹

このように非常に多岐にわたる症状が、慢性上咽頭炎と関連している可能性があります。
気になる症状があれば、根本治療で体質改善にもなる上咽頭擦過療法も念頭に置かれると良いかと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?