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世界の最新宇宙活動と宇宙法政策-日本編

 国連COPUOS(宇宙空間平和利用委員会)では、「宇宙空間の平和利用のための方法と手段」「宇宙と持続可能な開発」「宇宙と水」「宇宙と気候変動」など様々な議題について議論されています。

 今回は、2021年に開催された国連COPUOS本委員会と同法律小委員会における日本の見解のポイントを交えながら、日本の最新の宇宙活動と宇宙法政策をご紹介します。

1.キーワードは「宇宙の安全、安心、持続可能性、安定性の確保」と「国際協力」

 日本は、COPUOSで自国の見解を発表する際、「宇宙の安全、安心、持続可能性、安定性の確保」とのキーワードを頻繁に用いていました。

 そして、2021年最大のアピールポイントは「国際協力」、特に、日本が主導したアジア・太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)の成果である国内宇宙法制イニシアティブ(NSLI)による報告書でした。
 これにより、宇宙空間における「法の支配」の確立に対する日本の貢献が世界に示されることになりました。

2.最新の宇宙活動

(1)打上げ

 2019年6月以降、日本は、H-IIBロケットにより宇宙ステーション補給機8号機(2019年9月)と9号機(2020年5月)を打ち上げました。
 また、H-IIAロケットによるアラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド・ビン・ラシード宇宙センターが開発したエミレーツ・マーズ・ミッション(EMM)UAE初の火星探査機「HOPE」の打上げ(2020年7月)、S-520 31号機の観測ロケットの打上げ(2021年7月)など、2021年末までに合計9回の打上げに成功しました。

(2)有人宇宙飛行

 日本人の野口聡一宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)での長期滞在を終え、2021年5月に帰還しました。
 野口宇宙飛行士は、ISSで生物・材料研究を含む様々な微小重力研究を行い、船外活動(EVA)を実施したほか、ISSの新しいシステムである太陽電池架台の取り付けなどのISSの改修にも貢献しました。

 2021年4月には、日本人の星出彰彦宇宙飛行士がISSに向かい、ISS船長(コマンダー)としての任務を開始しました。

 野口宇宙飛行士と星出宇宙飛行士はISSに一時期同時に滞在したのですが、日本人が二人同時にISSに滞在したのは11年ぶりとされています。

(3)月・火星探査

ア 月探査
 日本は、米国のアルテミス計画の一環としての月周回有人拠点(Gateway)計画にも参加しています。

 日本は、ISSや宇宙科学ミッションで得た知識や技術を提供して、Gatewayの居住能力の基盤的機能と物流の補給について協力する予定です。

 2022年には、月面にピンポイントで着陸する能力を実証するSLIM(Smart Lander for Investigating Moon)の打上げも予定しています。

 国内の大学と協力した探査ミッションも進めています。JAXAと東京大学が開発した2つのCubeSat(OMOTENASHIとEQUULEUS)が、2022年2月にNASAのArtemis I(SLSロケット)によって打ち上げられる予定です。
 これらのCubeSatは、将来の探査のために、超小型探査機の技術を実証し、月近傍や上空で科学的なミッションを遂行します。

 加えて、JAXAはインド宇宙研究機関(ISRO)と共同で、月の極域における水の存在や資源利用の可能性を調査する月極域探査ミッションを開発中です。

イ 火星探査
 小惑星探査機「はやぶさ2」のサンプルリターン技術を応用した火星月探査機(MMX)について、2024年の打上げを目指しています。
 このミッションでは、火星の2つの月(衛星)を探査し、そのうちの1つであるフォボスからサンプルを採取して地球に持ち帰る計画です。

3.国際協力

 COPUOSで、日本は、宇宙の平和利用を目的とした様々な宇宙協力プロジェクトに積極的に参加しているとした上で、国際協力は、相互理解を促進し、透明性を高め、国家間の信頼を構築するものだとの見解を示しました。

 この記事では、日本の国際協力の例として、APRSAFのNSLI報告書とISSの日本実験棟「きぼう」の活用についてご紹介します。

(1)アジア・太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)の国内宇宙法制イニシアティブ(NSLI)

 日本は、2021年の第60会期COPUOS法律小委員会に、オーストラリア、インド、インドネシア、マレーシア、フィリピン、韓国、タイ、ベトナムと共同で、APRSAFのNSLI参加国により国内宇宙法制の状況を分析した報告書を提出しました(A/AC.105/C.2/L.318)。
 同会期の初日には、日本は、他のNSLI参加国の協力を得て、国連宇宙部やAPRSAFと共催で関連するサイドイベントを開催しました。

 NSLIは、2019年11月に名古屋で開催された第26回APRSAFの会合で発足しました。
 NSLIの目的の一つは、アジア・太平洋地域における各国の法律や政策の実践に関する情報共有と相互学習を促進することにあります。

 NSLI報告書は、アジア・太平洋地域の9カ国(日本、オーストラリア、インド、インドネシア、マレーシア、フィリピン、韓国、タイ、ベトナム)から、40名以上の宇宙政策・宇宙法の専門家が参加したNSLI研究会が共同で調査を行い、各国の宇宙法制の状況について分析して作成されたものです。

 ちなみに、APRSAFには、30カ国以上の様々な地域の宇宙機関、政府機関、国連などの国際機関、民間企業、大学、研究機関などが参加しています。

 COPUOSで、日本は、宇宙の安全、安心、持続可能性、安定性の確保のための国際協力の重要性を認識しているとし、条約やその他の国際規範に基づく宇宙活動を強化するためには、各国の宇宙法制に関する情報共有と交流が不可欠だと主張しました。
 同様に、NSLIは効果的な国際協力の地域モデルを提供し、持続可能な宇宙活動の促進に貢献するとして、NSLIは日本が主導する地域的な平和協力の成功例であると紹介しました。

(2)ISSの日本実験棟「きぼう」の活用

 ISSの日本実験棟「きぼう」は、エアロックシステムとロボットアームというユニークな機能を持ち、現在、超小型衛星を展開できる唯一のモジュールとなっています。

 2012年10月、日本は「きぼう」からのCubeSatの初展開に成功しました。
 その後も、日本を始め、世界各国の教育・研究機関の超小型衛星が「きぼう」から展開されています。
 ISSから超小型衛星を展開することは、ロケットによる直接の打上げに比べて、打上げ時の振動が少ないため打上げ条件が緩和され、宇宙活動の敷居が低くなるというメリットがあります。

 JAXAは、2015年9月から国連宇宙部と協力してISSで開始した「きぼうCUBE」プログラムを推進しています。
 このプログラムは、開発途上国の教育・研究機関等に「きぼう」日本実験棟からCubeSatを展開する機会を提供するものです。開発途上国や宇宙新興国の能力開発にも貢献し、宇宙へのアクセスの支援になっています。

 これまでに、ケニアとグアテマラのチームが開発したCubeSatが「きぼう」から展開されました。これらのCubeSatの開発で得られた経験や技術が両国の将来の衛星開発に生かされることが期待されます。

 2021年6月には、第3回「きぼうCUBE」大会で優勝したモーリシャスのチームが開発したCubeSat「MIR-SAT1」の「きぼう」からの展開に成功しました。モーリシャス初の超小型衛星(MIR-SAT1)の画像取得や通信実証などの開発・運用経験は、今後のモーリシャスの宇宙活動に役立つことが期待されます。

 また、日本はアジア・太平洋地域の学生に教育の機会も提供しています。 
 
 2019年、JAXAはNASAと共同で「『きぼう』ロボットプログラミングチャレンジ」という新しい教育プログラムを開始しました。
 これは、JAXAとNASAがISSに搭載している船内ドローンロボットを使って、様々な問題を解決する教育用プログラミング競技会です。
 第1回大会には、アジア太平洋地域の7カ国から1,168名が参加しました。

4.最新の宇宙法政策

(1)宇宙基本計画の改訂

 日本は、2008年に宇宙空間の平和的な探査と利用に関連する法律として、宇宙基本法(平成20年法律第43号)を制定しました。
 同法は、日本の宇宙開発利用に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、国民生活の向上及び経済社会の発展に寄与するとともに、世界の平和及び人類の福祉の向上に貢献することを目的としています。

 同法に基づき、政府の宇宙戦略開発本部が、日本の総合的な宇宙政策として宇宙基本計画を策定・公表しています。

 2020年6月には、宇宙は最先端の科学技術のフロンティアとして、また経済成長の原動力として重要性を増していることなどを理由に、宇宙基本計画を改訂し、国際協力の推進も盛り込みました。

(2)アルテミス合意への署名と宇宙資源法の制定

 COPUOSで、日本は、宇宙空間の平和目的での探査・利用の進展が人類共通の関心事であることを認識しており、宇宙資源の探査・利用活動は、人類の宇宙活動のさらなる発展と地球の持続可能な発展にとって大きな潜在的意義を持つとの見解を示しました。

 その上で、宇宙資源の探査と利用に関する活動のルールと規範に関する議論は、現在の技術、産業界の経済的な現実とニーズ、および各国の宇宙探査計画を反映した形で展開されるべきであると主張しました。

ア アルテミス合意とGatewayへの参画
 
2020年10月、日本はアルテミス合意に署名しました。

 同年12月には、日本政府は、NASAと「民生用月周回有人拠点のための協力に関する日本国政府とアメリカ合衆国航空宇宙局との間の了解覚書」に署名しました。

 COPUOSで、日本は、アルテミス合意やその他関連する国際規範に沿って、宇宙資源の利用を進めることを約束すると表明しました。

イ 宇宙資源法の制定
 
2021年6月、「宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の促進に関する法律(令和3年法律第83号)」(宇宙資源法)が議員立法で成立しました。
 国内宇宙資源法としては、米国、ルクセンブルク、UAEに続き、世界で4番目になります。

 2021年のCOPUOS法律小委員会では、宇宙諸条約と宇宙資源開発の関係などを巡って、各国による白熱した議論が繰り広げられました。

 COPUOSで、日本は、宇宙資源法の制定について、宇宙資源を利用した商業活動への期待が高まっていることから、特に民間企業による活動を促進する目的だと説明しました。

 同法の内容については、宇宙資源の探査・開発を行うための許可を申請する際の義務、宇宙資源の所有権を取得する際の義務、国際協力を確保するための義務などを定めていると紹介しました。

 また、日本が締結した条約やその他の国際協定の実施を妨げず、他国が宇宙空間の探査・利用の自由を行使する際の利益を不当に阻害しないようにするためのルールを定めているとも説明しました。

 そして、この法律の施行により、国際的な規範と枠組みに沿って、宇宙資源の探査と利用を進めていくことになるとまとめました。

(3)スペース・デブリ問題への諸対策

 日本は、他国に先行して、国内政策、法制度、技術基準、研究開発などを通じて、スペース・デブリの問題に具体的に取り組んでいます。
 
 COPUOSで、日本は、現在、スペース・デブリの低減やSTM(宇宙交通管理)全般について議論しており、近い将来の日本の民間企業による関連活動に備えていると説明しました。

 具体例としては、JAXAと日本の産業界が協力して、大型のスペース・デブリを除去する技術を開発する「商業デブリ除去実証プログラム」や、ADR(Active Debris Removal)の研究開発が挙げられます。

 他にも、スペース・デブリの低減や改善に関する技術の研究開発をしており、衛星事業者の衝突回避運用を支援するためのオープンツール“Risk Avoidance Support Tool Based on Debris Approach Collision Probability”(RABBIT)があります。
 RABBITは、現在、世界50機関、100機の衛星の安全な飛行をサポートしています。     

 さらに、軌道上サービス(OOS:On-orbit satellite servicing)の許可には透明性が求められることから、専門家によるワーキンググループが提出した技術的・法的要件に基づき、OOSを行うために設計された宇宙機の運用許可に関するガイドライン(「軌道上サービスを実施する人工衛星の管理に係る許可に関するガイドライン」)を作成しています(2021年11月制定)。

 COPUOSで、日本は、このガイドラインの実施により、将来のOOSミッションが、宇宙条約や宇宙物体登録条約などの国際ルールを遵守し、安全で透明性の高い方法で行われるよう確保すると説明していました。

 そして、宇宙活動の安全、安心、持続可能性、安定性を確保するために、法的文書、技術基準、研究開発を通じて、スペース・デブリ問題にしっかりと取り組んでいくと強調していました。

5.おわりに

 日本は、法的な制約がある中で、地道に研究開発を進め、宇宙活動先進国となりました。

 同時に、キャパシティビルディングを始めとした国際協力も積み重ね、国際的な信用を得てきました。
 JAXAや民間NPO法人のUNISEC(大学宇宙工学コンソーシアム)は宇宙新興国や開発途上国の学生支援にも尽力してきました。日本の宇宙技術を学んだ海外の若者は世界中に広がり、今では各国の宇宙機関などで活躍しています。
 国際的な信用は、日本が築いた貴重な無形資産といえます。

 現在、国内の民間・商業宇宙活動も急速に活性化し、宇宙ビジネスバブルとも評される状況にあります。

 宇宙技術が発展し、宇宙のアクターが増え、多様化する中で、宇宙の持続可能性を考え、宇宙活動の安全性を図り、国家間の信頼を醸成することは、国際社会における喫緊の課題でもあります。 

 2021年12月28日、政府の宇宙開発戦略本部は、宇宙基本計画の工程表について6回目の改訂を行いました。

 今後、国内外で宇宙法の重要性がますます高まっていくと共に、ルールメーキングにおいて日本が果たす役割も大きくなることでしょう。