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世界の最新宇宙活動と宇宙法政策-カナダ編

 今回は、2021年に開催された国連COPUOS(宇宙空間平和利用委員会)本委員会と各小委員会に加え、2022年2月7日から同月18日まで開催された第59会期国連COPUOS科学技術小委員会(STSC)におけるカナダの見解のポイントを交えながら、カナダの最新の宇宙活動と宇宙法政策をご紹介します。

1.キーワードは「対話、国際協力、キャパシティビルディングの強化」

 カナダは、宇宙空間の長期的な安全性と持続可能性を重視しています。

 COPUOSで、カナダは、「宇宙条約では、宇宙空間の探査と利用は、経済や科学の発展の度合いにかかわらず、すべての国の利益となるように行わなければならないとされています。もし我々が、すべての人の利益のために、宇宙空間の長期的な安全性と持続可能性を確保するために協力することができなければ、この言葉はほとんど意味を持たないでしょう。」と主張しました。

 また、既存のガイドラインを各国が実施することにより、宇宙の平和利用と探査における実際的な協力を進めるための最も効果的な多国間フォーラムとしてのCOPUOS の役割が強化され、すべての人々の利益になるとも主張しました。
 
 その上で、解決策を見つけて、ベストプラクティスを共有することで、対話、国際協力、キャパシティビルディングを強化できると考えていると表明しています。

 カナダ宇宙庁(CSA)は、NASAと強い協力関係を構築しており、対話や国際協力は、カナダの発言を理解する上で、重要なポイントといえます。

2.最新の宇宙活動

(1)国際宇宙ステーション(ISS)

 カナダはISSのパートナーとして積極的に活動しています。

 カナダは、Canadarm2、Dextre、Mobile Base Systemで構成される「Mobile Servicing System」によって、ISSの運用に不可欠な物資の補給、メンテナンス、サービス作業を担っています。
 COPUOSで、カナダは、これらのシステムが2021年にスペース・デブリの影響を受けたものの、順調に運用を続けていると明かしていました。

 また、カナダは、人間の健康科学をISSの利用における優先事項としています。
 例えば、2019年にISSに配備されたライフサイエンス研究システム(LSRS)など、有人宇宙飛行に伴うリスクに対処するための新しい多目的医療・研究プラットフォームの開発を進めています。
 LSRSは、宇宙飛行士の宇宙環境に関連するリスクの特定、特徴づけ、緩和を支援するために設計されています。

 さらに、ISSのための生物学的サンプル調製技術「MicroPrep」に着手し、ISSでの健康に関連する7つの科学的研究(T-Bone、At Home in Space、Vascular Echo、Vascular Aging Wayfinding、Vection、Radi-N2)を推進しました。

(2)月探査

 カナダは、米国主導の国際月探査計画「アルテミス計画」に基づく「アルテミス合意」の原署名国(8カ国、2020年10月署名)です。NASAとCSAの間で「ルナ・ゲートウェイ」に関する協力も合意しています(2020年12月)。

 ただし、カナダは、「アルテミス合意」は宇宙条約の下での既存の義務に合致しており、重要な第一歩であると評しつつも、カナダの宇宙活動にとってはこの合意が目的地ではなく、むしろ活動の基礎となるものであると位置づけています。この考えの下で、CSAは、2021年3月末にかけて、カナダ国民との間で、宇宙探査活動の枠組みに関する公開の協議(意見聴取)を行いました。この結果は、CSAのホームページで公開されています(What We Heard report: Consultation on a framework for future space exploration activities| Canadian Space Agency (asc-csa-gc.ca))。

 COPUOSで、カナダは、深宇宙探査活動の枠組みをさらに強固なものにするために、COPUOSにおいて、さらなる取組みが必要だとも強調していました。

 そして、カナダは、スマート・ロボット・システム「Canadarm3」を「ルナ・ゲートウェイ」に提供することなどの代わりに、月の科学、技術実証、商業活動のための機会、月への2回の宇宙飛行士の飛行機会を獲得しています。

 「Canadarm3」は高度な自律型ロボットシステムで、最先端のソフトウェアを使用し、人間の介入なしに月周辺での作業を行う予定です。

 また、CSAの宇宙飛行士は、1972年以来初めて有人月探査を行うNASAの「Artemis II」ミッションに参加する予定です。

 カナダは、月探査加速プログラム(Lunar Exploration Accelerator Program:LEAP)のもと、今後5年間にカナダの技術を月に送るためのいくつかの取組みも開始しています。例えば、月面を目指すローバー・ミッションのため、カナダと米国のチームに2つの契約が結ばれました。このミッションは、米国とカナダの機器を搭載したカナダのローバーを、2025年から2026年にかけてNASA商業月ペイロード・サービス・デリバリー便で送り出すものです。

(3)地球観測

 世界で2番目に大きな国土を持つカナダは、重要な情報源として地球観測に力を入れています。

 2021年のカナダの宇宙活動には、RADARSATコンステレーション、SCISAT(オゾンやオゾン層破壊物質を測定するカナダの衛星)、NEOSSat(宇宙望遠鏡)の運用があります。

 その中でも、注目しているのは、「暗黒船発見プロジェクト」に利用されているRADARSATコンステレーション・ミッション(RCM)です。

 カナダは、大西洋、太平洋、北極海のいずれであっても、世界で最も長いカナダの海岸線と海洋の健全性と保護は、カナダの環境、経済、すべてのカナダ国民にとって不可欠と主張しています。
 
 カナダでは2019年に海洋保護計画が開始されており、現在、カナダは、世界をリードする海洋安全・海洋保護国家の一つといえます。
 
 カナダは、違法、無報告、無規制(Illegal、Unreported、Unregulated:IUU)漁業と戦う一環として、NGO、民間企業、パートナー国と共同で、宇宙ベースのデータを活用してIUU漁業を明らかにし、その影響への対応をサポートする2つのイニシアチブに取り組んでいます。

 カナダが開始した「暗黒船発見プロジェクト」は、カナダのRADARSATコンステレーション・ミッション(RCM)を含む複数の宇宙由来のデータを活用し、漁業当局を支援するために船舶の活動状況をリアルタイムで把握するものです。

 RCMは、気候変動の影響の監視、環境保護と持続可能な開発の促進、天然資源の管理、災害救援の支援という任務を担うカナダ政府を継続的にサポートしています。

 加えて、カナダは、自国のみならず、IUU漁業が問題となっているエクアドルや太平洋諸島の国々と提携して、ウェブベースのシステムを提供し、これらの当局が自国の水域で懸念される問題に対応できるよう国際協力も行っています。

(4)宇宙状況把握(SSA)

 カナダ国防省(DND)のSSAセンサー「Sapphire」は、米国が主導する宇宙監視ネットワーク(SSN)に深宇宙天体のデータを提供し、地球軌道上の宇宙物体の安全の維持に貢献しています。
 
 また、NEOSSat(宇宙望遠鏡)は現在も稼働中で、接近する天体の追跡データを収集しています。

 現在、カナダは、低軌道で先進的なSSAの研究、開発、能力実証を継続する「Redwing」と名付けられた新しいSSA研究用超小型衛星の開発を計画中です。

3.最新の宇宙法政策

 カナダの国内宇宙政策としては、2019年に「2019宇宙戦略」を策定しています。NASAや他のISSパートナーとの「ルナ・ゲートウェイ」での提携や、カナダのLEAP(月探査加速プログラム)による月面探査のためのカナダの宇宙部門の準備など、重要な要素が含まれています。

 COPUOSで、カナダは、国内の枠組みは複数の既存のガイドラインに準拠しているものの、完全な準拠を達成するために、まだやるべきことがあると認識しているとして、COPUOS加盟国と協力し、ベストプラクティスを共有・検討した上で努力する旨表明していました。

4.おわりに

 COPUOSでの議論の際、議長や第三国から、「Vienna spirit(ウィーンの精神)」や「COPUOS spirit」との言葉が用いられることがあります。

 最初に聞いたときは即座に意味が理解できなかったのですが、カナダが、COPUOS加盟国に対し、政治的な相違を脇に置いて、コンセンサスの橋渡しをするために協力して前進させようと「Vienna spirit」を用いて妥結を求めたことで理解できました。

 2021年のCOPUOS法律小委員会(LSC)では、議論が先鋭化する場面が幾度もあり、青木節子議長からこれらの言葉を用いた呼びかけがあったことでコンセンサスに至った場面が複数回ありました。

 続く、2022年のSTSC(科学技術小委員会)で印象的だったのは、2021年11月にロシアが突如行ったASAT実験に関し、主にスペース・デブリ問題の文脈において、意図的な宇宙物体の破壊は有人宇宙飛行の安全や宇宙活動に対する脅威となるなどとして、米国だけでなく、カナダ、ニュージーランドも非難の声をあげていたことでした。

 2022年3月28日から、2022年のLSCが始まります。

 引き続き、カナダの発言に注目しています。