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2022年開催国連宇宙空間平和利用委員会と国連宇宙部の動向


 2022年6月1日から6月10日まで、オーストリアのウィーンで、第65会期国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)本委員会がオンライン併用にて開催されました。
 これに先立つ2022年2月7日から2月18日までは第59会期国連COPUOS科学技術小委員会が、2022年3月28日から4月8日までは第61会期国連COPUOS法律小委員会が開催されました。
 私はパーマネント・オブザーバのUNISEC‐Globalの代表団として、川島レイ事務総長と共にいずれもオンラインで出席しました。

 今回は、2022年のCOPUOSと国連宇宙部(UNOOSA)の動向を取り上げます。

1.100カ国まで増加した加盟国

 今会期は、COPUOSの加盟国が100カ国になり、節目の年となりました。また、新たに3団体(私法統一国際協会( International Institute for the Unification of Private Law )、 スクエア ・ キロメートル ・ アレイ観測所 、 Open Lunar Foundation )がオブザーバとして加わり、オブザーバの数は約50となりました。
 
 第59会期国連COPUOS科学技術小委員会において、国連宇宙部DirectorのSimonetta Di Pippo氏は、COPUOS本委員会と2つの小委員会の活動への関心が高まっており、ここ数年間でCOPUOSの加盟国数が急増したことは、COPUOSが宇宙活動における国際協力と多国間主義の強化のためのユニークなプラットフォームとしてますます重要になっていることを示していると評しました。

 また、同氏は、加盟申請やオブザーバステータスの申請が絶え間なく続いていることから、宇宙活動の政治的、社会経済的、文化的意義が国や他のステークホルダーにとって高まっているとし、本委員会と小委員会の各議題で新しいテーマが増加していることは、宇宙ソリューションの価値と、長期的な宇宙の持続可能性を第一に考えて責任ある方法で実現しようとする関係者の強い意欲の両方を示すものであるとも評していました。

2.国連宇宙部によるオンライン登録ポータル開発

 第61会期国連COPUOS法律小委員会では、国連宇宙部から、2021年に登録された宇宙物体の数は2020年の約1.5倍との報告があり、宇宙物体の登録数の大幅な増加と、今後打ち上げられて登録される宇宙物体数が増加し続けることは明らかだとの見解が示されました。

 その上で、国連宇宙部は、大量の登録事務処理に伴い、登録の遅れが生じており、この課題解決のために複数年に亘るオンライン登録ポータルの開発に取り組んでいると紹介しました。

 このオンライン登録ポータルが各国政府による登録の向上に繋がるのか否か、システムの利便性と共に、「打上げ国」の責任との関係でも注目しています。

3.複数の政治的問題に関する反論権(right of reply)の行使と議長・国連宇宙部の役割
 

 第61会期国連COPUOS法律小委員会では、ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、EUを皮切りに、フィンランド、イタリア、フランス、ウクライナ、スペイン、ドイツ、日本、ルクセンブルク、カナダ、イスラエル、オーストリア、オランダ、ルーマニア、オーストラリア、ポルトガル、コロンビア、コスタリカ、米国、チェコ共和国、スロベニア等が、連日、各ステートメントで、ロシアのウクライナ侵攻に対する非難やウクライナ支持を表明しました。

 これらに対し、ロシアは、反論権(right of reply)を数回行使し、とりわけ、EUとの間では激論になりました。

 この反論権の行使は、COPUOSでは歴史的にも極めて珍しかったようですが、ロシアによるウクライナ侵攻といった政治的問題のみならず、トルコとキプロスの間における「北キプロス・トルコ共和国」問題を巡っても用いられました。
 
 このように、2022年のCOPUOSは、議題外の政治的問題の議論により、本来の議題の議論が止まってしまい、時間不足に陥る事態が度々発生しました。

 南アフリカ等の加盟国から新たな議題が提案され、その趣旨説明を受けて、私自身、COPUOSで話し合うことがふさわしいのではないかと思う場面もありましたが、その多くが米国等西側から既に議題が多い等の異議が出て採択されない一方で、議題外の政治的問題の議論に多くの時間が費やされてしまった結果、議題のステートメントの発表時間が削られる場面も目の当たりにしました。
 
 議長の技量や議長を支える国連宇宙部の役割がさらに重要になると感じました。

4.国連宇宙部の幹部の退任
 

 2022年は国連宇宙部の人員体制にとって大きな変化の年になります。

 まず、第59会期国連COPUOS科学技術小委員会で、8年間務められたDirector のSimonetta Di Pippo氏が3月をもって退任されることが明かされ、続く第65会期COPUOS本委員会において、16年間勤務されたActing DirectorのNiklas Hedman氏が退任されることが明かされました。 

 第65会期COPUOS本委員会では、ロシア代表団とNiklas Hedman氏との間でも手続きを巡って議論となる場面もありましたが、Niklas Hedman氏による退任挨拶の後、各代表団がチャット欄に続々と書き込んだ感謝の言葉の中に、ロシア代表団からロシア語で「ありがとう、親愛なる友よ」と送られていたことが、COPUOSの議論におけるロシア代表団の頑なな姿勢と比して強く印象に残りました。

 長年尽力された2人の重要幹部の退任と交代が国連宇宙部の今後の動向やCOPUOSに与える影響に注目しています。

5.Dark and Quiet Skies問題やラージ・コンステレーションに関する関心の高まり
 

 COPUOSでは、本委員会と2つの小委員会で様々な議題が話し合われます。

 2022年は、第59会期国連COPUOS科学技術小委員会において、新たな議題としてDark and Quiet Skiesが採択されました。

 背景には、2019年5月にSpaceX社が打ち上げたStarlink衛星初号60機による光の斜め線の列が夜空を横切って見えたことで、天文学会に与えた衝撃を契機とした低軌道の通信衛星ラージ・コンステレーションによる光学天文学、生物環境等に与える「光害」問題があります。

 この問題に対する国連宇宙部の動きは迅速で、2020年10月にはワークショップが開催されました。

 個人的には、Dark and Quiet Skies問題は、今後、スペース・デブリ問題や宇宙交通管理の論点と合わさって、さらに重要な論点となっていくと予測しています。

 また、Dark and Quiet Skiesの文脈ではないものの、第65会期国連COPUOS本委員会で、中国が、低軌道にラージ・コンステレーションを配置することによってもたらされる課題の解決により専念した検討を与えるべきであるとの見解や宇宙環境保護が持続可能な宇宙活動に貢献する等との見解を示したことに注目しています。

6.おわりに
 

 従来からの議題では、2021年11月に行われたロシアによるASAT実験(ロシアが低軌道(高度約485km)にある運用が終了した旧ソ連製の約2000㎏の大型軍事衛星(Cosmos1408)をミサイルで破壊した対衛星破壊実験)を受けたスペース・デブリの議論も白熱し続けました。

 2022年のCOPUOSを通して印象深かったのは、加盟国が増加し、各国の利害の違いや政治的な議論により、ともすれば議題の議論をも錯綜する中で、適時に行われるオランダ代表団による問題点の明確化と、シンガポール代表団とブラジル代表団による的確な妥結案の提示でした。

 宇宙空間やCOPUOSの重要性が増す中にあって、各代表団の事前準備と即応体制が肝要となると感じました。

 全会期オンライン出席であったため、残念ながら、各代表団とのフィジカルな交流はできませんでしたが、2023年こそはウィーンで出席したいと願いつつ、少しずつ準備を開始しています。