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世界の最新宇宙活動と宇宙法政策-ニュージーランド編

 今回は、2021年に開催された国連COPUOS(宇宙空間平和利用委員会)本委員会と同法律小委員会に加え、2022年2月7日から同月18日まで開催された第59会期国連COPUOS科学技術小委員会におけるニュージーランドの見解のポイントを交えながら、ニュージーランドの最新の宇宙活動と宇宙法政策をご紹介します。

1. キーワードは「すべての人に宇宙へのアクセスを開放する」

 ニュージーランドの宇宙活動は、ごく最近の2017年5月、Rocket Lab社による世界初の民間射場からのロケットの試験飛行に伴い、開始しました。

 Rocket Lab社の民間射場は、ニュージーランド北島・マヒア半島先端にあります。
 Rocket Lab社は、2006年にPeter Beck氏によりニュージーランド・オークランドに設立された宇宙ベンチャーで、小型のElectron(エレクトロン)ロケットによる超小型・小型衛星の商業打上げを行っています。
 また、Rocket Lab社は、2013年から米国企業(本社はカリフォルニア州)になりました。

 ニュージーランドには、Rocket Lab社の拠点のほかにも、ニュージーランド発のロケット会社であるDawn Aerospace社もあります。

 現在、ニュージーランドは、「商業打上げサービスのホスト国」として、「すべての人に宇宙へのアクセスを開放する」ことに焦点を当てています。

 ニュージーランドでは、宇宙産業振興を優先した柔軟な国内法政策が講じられており、国を挙げて商業打上げサービスに取り組んでいるといえます。

 ただ、ニュージーランドの宇宙活動や法政策を検討するにあたっては、宇宙産業振興だけでなく、①「商業打上げサービスのホスト国」として「宇宙へのゲートウェイ」としての責任を重視していること、②同国の宇宙活動が3つの包括的原則である安全・責任・持続可能性の原則により導かれていること、③これらの原則の適用が「宇宙活動の長期持続可能性ガイドライン」に基づくものであることに留意する必要があると考えています。

 例えば、ニュージーランドから打ち上げられるすべての宇宙物体は、国際基準を満たす軌道上デブリ低減計画を持つことが要求されます。

 また、宇宙物体の打上げを調達する国によって登録されるか、もしくはニュージーランド自体が登録するとの合意がない限り、ニュージーランドから宇宙物体を打ち上げることはできません。

 さらに、宇宙空間利用の透明性確保のために、効率的かつタイムリーな宇宙物体の登録に加え、ニュージーランド宇宙庁のウェブサイト上で、打ち上げられた宇宙物体のミッションや目的など、より詳細な情報が積極的に公開されています。

 COPUOSおいて、ニュージーランドは、国際協力、情報共有、キャパシティービルディングに加え、産業界の意見を取り入れるよう主張する傾向にあります。

 これらの背景には、宇宙産業振興とニュージーランドの3つの包括的原則(安全・責任・持続可能性)があると考えています。

2. 最新の宇宙活動

(1)打上げ

 2020年3月以降2022年2月末までの間に、Rocket Lab社は13回の打上げを実施しました。
 Rocket Lab社は、2018年1月に初めて、軌道上への打上げに成功して以来、リモートセンシング企業、大学、その他の宇宙機関などの多様な顧客による100機を超える人工衛星を軌道上に打ち上げてきました。
 その中には、複数の日本企業が含まれています。

 また、Dawn Aerospace社は、世界初の試みとして、ニュージーランドの従来の空港から軌道下自律型宇宙機を運用するライセンスを取得しました。
 これにより、1日に複数回の軌道上に向けた打上げが可能となるとされます。
 COPUOSで、ニュージーランドは、頻繁に宇宙にアクセスできる新たな機会がさらに開かれることになると評していました。

(2)アルテミス合意

 ニュージーランドは、米国が主導する国際探査計画「アルテミス計画」の推進を意図した「アルテミス合意」の署名国です。

 アルテミス合意は、2020年10月に8カ国(オーストラリア、カナダ、イタリア、日本、ルクセンブルグ、UAE、英国、米国)が署名した後、2020年11月にウクライナ、2021年5月に韓国、同年6月にニュージーランドとブラジル、同年10月にポーランド、同年12月にメキシコ、2022年1月にイスラエル、同年3月にバーレーンがそれぞれ署名しました。

 2021年のCOPUOS法律小委員会で、ニュージーランドは、宇宙資源の利用について、専用の条約体制はないものの、宇宙資源の探査、開発、利用は、その活動が宇宙条約と国家責任を含む一般国際法のさまざまな義務を満たす限り、既存の国際法の下で許されると主張していました。

 しかし、既存の国際法は、短期的に見ても、この活動を規制するために十分ではないとも強調していました。

 ニュージーランドの立場としては、宇宙資源の長期的な持続可能性を確保し、宇宙の平和利用を強化し、既存の国際的な義務を透明性と明確性を確保する方法で確実に実施し、商業事業者に確実なルールを提供するために、追加の多国間ルール、規範、基準が必要であると表明していました。

 そして、ニュージーランドは、「アルテミス合意」をその第一歩と位置づけ、宇宙資源の探査、開発、利用は既存の国際法と整合的に行われなければならず、この問題の進展には多国間プロセスが必要であると主張していました。

 ポイントは、アルテミス合意署名国ではあるものの、米国とは異なる立場に立っている点です。

(3)ドイツ航空宇宙センター(DLR)との協力強化

 2021年4月、ニュージーランドとドイツは、推進技術、宇宙通信、リモートセンシングという3つの宇宙技術分野での協力を発表しました。
 これらの研究分野は、宇宙状況把握を高めるための継続的な支援に基づいています。

 また、将来の宇宙での通信、推進技術、合成開口レーダーに関する研究をさらに進めるために、8つの共同プロジェクトに資金を提供することも発表しました。
 これにより、気候変動の監視、自然災害への対応、今後数十年にわたる宇宙活動に役立つ技術開発などが可能となるとされます。

(4)宇宙状況把握

 2019年、LeoLabs社のキウイ宇宙レーダーが稼働し、低軌道上の2cmほどのデブリや衛星の測定が可能になりました。

 また、2021年11月、ニュージーランドは、商業的なスペース・デブリ除去に取り組むAstroscale社との間で、宇宙の安全性と持続可能性について協力することで合意し、覚書に調印しました。

3. 最新の宇宙法政策

(1)国内宇宙法

 ニュージーランドの国内宇宙法には、2017年7月に成立し、同年12月に施行された「宇宙・高高度活動法」があります。

 直近において、同法の見直しが開始され、現在も作業中です。

 ニュージーランドは、2016年に、今後Rocket Lab社の打上げが予定されていることで、宇宙活動法の整備に向けた体制を立ち上げました。
 その際、技術的、商業的、国際的な発展に対応した規制体制を確保するため、運用開始から3年後にできるだけ早く実施するよう、見直しプロセスを組み込んでいました。

 法律はまだ施行から4年しか経っていませんが、ニュージーランドによれば、この見直しは、宇宙産業が急速に変化していることや、規制体制が目的に適うよう継続的に見直すことが重要であることを認識したことによるとのことでした。

 ニュージーランドの機動的で柔軟な宇宙法政策と体制が伺われます。

(2)宇宙活動の長期持続可能性

 COPUOSで、ニュージーランドは、宇宙空間へのアクセスと利用を維持するための新しい規範と基準を開発することを重視しているとした上で、「宇宙活動の長期持続可能性に関するガイドライン」は、この点で重要なツールであると考えていると表明していました。

 そして、ニュージーランドは、同ガイドラインをどのように実施しているかについて、非常に興味深い例示をしていました。

 ニュージーランド宇宙庁は、国の宇宙活動の「継続的な監視」(ガイドラインA.3)の義務を果たすため、ニュージーランドから打ち上げられた物体を監視し、安全かつ許可条件に従って運用されていることを確認する方法を探していたとします。

 そして、ニュージーランドは、低軌道上の物体に対する商業レーダー追跡サービスを提供するLeoLabs社と協力し、宇宙規制および持続可能性プラットフォームを構築したと明かしました。

 宇宙機関では初の試みとなるこのプラットフォームにより、ニュージーランド宇宙庁は、LeoLabs社のレーダーネットワークを使って、ニュージーランドから打ち上げられた物体をリアルタイムで追跡・監視すると紹介していました。

4. おわりに

 COPUOSで、ニュージーランドは、宇宙産業が成長を続ける中、宇宙へのアクセスを開放し、革新的な技術を育成し、先駆的で透明性のある政府アプローチをとると表明していました。

 また、ニュージーランドの宇宙分野では、革新的な技術を開発する多くの企業が出現し、最先端の研究が行われているとして、宇宙への持続的なアクセスに不可欠な技術を引き続き支援していくともしていました。

 宇宙大国とはやや異なるアプローチをとるニュージーランド型の宇宙法政策は、日本にとっても親和的で、参考になる点も少なくないと考えています。

 引き続き、ニュージーランドに注目していきます。