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それを「ホスピタリティ」と呼ぶんだぜ

今日、ちょっとした調べものがあり「江戸東京たてもの園」に行ってきました。

調べものは無事に済んだので、新しく買ったカメラレンズ(最近高額な消費が続いてていよいよ頭おかしくなってトドメを刺してしまったお買い物)の撮り心地なんかも試しながら、園内をプラプラしてました。

江戸東京たてもの園を言えば前川國男!やはりいい。こんな家に住みたい!と思ってる人は多いと思いますが、きっと丸パクリで建てた人、全国に3人はいるだろうな。


なんてことを、園内をプラプラしながらちょっと気がつきました。

「あれ、平日にしては人多くない?」と。

もちろん混んでるということはないのですが、写真を撮ろうとすると誰かしら写り込んでしまうくらいには人がいます。天気もよく気候のいい時期ではありますし、インバウンドとか研修と思われる学生団体などもいたのですが、ごく一般のファミリーやご夫婦、学生、カップルなど、意外にいろんな人の姿があります。

私は以前、別の場所で、同じく歴史的建造物を見学できる施設の来場者促進のプロジェクトに関わったことがあるのですが、そこは平日などそれはそれは閑散としていて、ある意味ぜいたくな時間を過ごすことはできました。知名度で言えばやや劣るものの、駅からの距離とか規模感で言えば大きくは負けてなかったはずなのですが。

そう思って園内をあらためて観察していると、いろいろ見えてきたことがありました。

まず、ほぼ全ての施設で建物内に入ることができて、なにかしらの展示や一部の建物では飲食もできたこと。古い建物というのは、タイムスリップしたようなワクワク感があって、ちょっとした小芝居をしてみたくなるような楽しさがあります。そんな気持ちを喚起させるような、家具の配置やお店の再現、当時の広告やポスターまで揃っていて、多くの建物が靴を脱いで中にはいれることに、終始テンションがあがりました。

カルピスを開発した三島海雲氏が暮らしたという「デ・ラランデ邸」内の「武蔵野茶房」では、カルピスを使った限定メニュー「カルピス・シャビアン」。(シャビアンてなに?)


それから、多くの建物で、車椅子もはいれるようになっていたこと。一般用の入口のほかに、車椅子用の動線も設けてあって、スロープやタイヤを拭くためのタオルなども用意されていました。多くの人に文化財を楽しんでもらいたいとはいえ、車椅子のタイヤで貴重な建物の床を動くのは、シンプルに文化財保護の観点としてはなかなか勇気がいることだったのではないかと思います。

他にも、ボランティアガイドによるツアー、ARを使った体験コンテンツやQRコードからのスマホでの作品解説など、ひととおりのサービスが揃っていて、気づけば4時間くらいを過ごしていました。

おそらく、都の関連施設なので、バリアフリーに対する要求もそれなりに厳しいのだろうとは思います。ある程度の行政からの突き上げもあって渋々実行に移った施策や、採算度外視の予算がついている可能性もあります。民間が運営するレジャー施設に比べれば、だいぶのんびりとしていて、旧態依然としているのはたしかなのですが、私が関わったことがある文化施設では、文化財保護を理由にほとんどの建物に立ち入ることができず、当時を再現するような展示もほぼ行われていませんでした。飲食店も簡素な茶店程度しかなく、それも営業していない日も多かった。文化財としての希少性にも差はありますし、裏側にはいろんな事情はあると思うものの、どこかそれだけでは納得しがたいものもあります。

ちょっと驚いてしまったのはこちら。傘の貸し出しに加えて、日傘の貸し出し。さすがにこれは、都からの要請などではないはず。内部の関係者からの自発的なアイディアで実施されているだろうと推察します。昨今の猛暑を考えると、たしかに嬉しいサービスで、盗まれたり壊されたりのリスクを差し引いても実施に移れたのは、地味ながら拍手を送りたいと思いました。

江戸東京たてもの園の来園者数を調べる限り、劇的に多いというわけではなさそう。私が携わっていた施設と比べてもほぼ同水準でした。入園料は大人400円なので、正直儲けにはほど遠いと思います。ただ、確実に小さなホスピタリティを積み重ねられているのだとしたら、遠からずちゃんとリピートやクチコミとなって来場は伸びるだろうと思います。

宿泊施設に携わっていると、多様化のなかで、一体どんなサービスが適切なのか悩むシーンがたくさんあります。コンセプトに基づくもの、価格帯に基づくもの、運営効率やマンパワー、環境負荷まで考えて水準を決めていくことになるのですが、特に高価格帯においてなにをすべきか?というのは、多くの人が消費者側にたったことがなく、疑似体験も簡単ではないところに難しさがあります。ただ、ホスピタリティって結局は、こういう小さな工夫を積み重ねていけるかに真髄があるんだよね、とあらためて感じさせてくれる1日でした。

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