#7days100tanka 2017.2.7~2.14

天翔る馬の翼のはばたきをふと耳にする冬の夕暮れ

言ひさしのままのことばはまだ生きてゐるのだからね、吹き消さないで

噓つきの私と正直なあなただつたあなたは狡猾だから

絵を描いてくださいぼくにぴつたりの羊を描いてくださいすぐに

折り紙の鶴が千羽も集まりていつたい何を企んでゐる

篝火を焚いてあなたを待つてゐる適宜にかなしみをくべながら

木のことを考へてゐるわたくしの半身であるあの川べりの

来る来ない来る来ない来る箱ティッシュ毟りつつある狂ひ始めは

結局は賢治の何もわからないカムパネルラも知り合ひぢゃない

今月の支出収入こまごまと書きつけたのちノートを破れ

魚には痛点がない人魚には上半身に痛点がある

歯科医院診療室の清潔なひかりに暴かるる闇をもつ

すぐにでてきてその窓を乗り越えて好きのきもちが凍える前に

正確にいへば愛ではないけれど受けとつておくあなたのこころ

速度違反してゐる恋を取り締まる仕事二月は忙しくなる

退屈といふ贅沢を溶かしこむぬばたまのクロアチアのKavaに

沈黙を怖れなくても良いのです其処に天使が棲むのですから

つないだ手 月の砂漠をはるばると旅ゆくときも離しはしない

丁寧に剥いた林檎を分かちあふアダムとイブの末裔として

ときは木の下でかはした約束はとてもきれいですこしこはいね

軟口蓋もちあげてする発声のさびしからずや音楽室に

日曜日ぼくは何処にも行きませんナルキッソスの咲く水辺にも

沼でせう。楽しい恋と思つても迂闊に足を踏み入れたなら

眠られぬ夜にやらないはうがいいtwitterとか歌を詠むとか

ノアの見し虹のごとくにうつくしきあなたの声はみづの匂ひす

花に雨、ふるを眺めてゐるうちに千年経つてしまつたやうだ

ひかりさす渡り廊下は西棟と東棟とを結んでしづか

深ぶかとカフェのアロマを吸ひこみて今日といふ日を立ちあげむとす

偏屈なうさぎと自らを呼びし永井陽子を折ふし思ふ

ほんたうのことは隠してあげるから心配せずに眠りなさいね

まあだだよ、まあだだよつて繰り返す幼い声がふと途切れたり

ミツビシのボールペンとふ良きものを買ひにゆくとき春が近づく

むつのはな〈雪の異称〉とある辞書の紙背に降りしきれ六つの花

冥界の柘榴の種をしのばせた手づくりチョコをプレゼントする

ものの芽のふくらむ音を聞いてゐるケージの中のうさぎの耳が

約束は約束のまま孵らない卵を抱いてゐるやうな日々

行つてしまつた人の数だけ食べていいゼリービーンズきらきらひかる

夕されば窓をとざしつとざしつつ胸を過ぎりし想ひは追はず

エウレカ、と湯舟のうちに唱へたりあのサヨナラがいま解けました

世の中よ常にもがもな……実朝の祈りの調べかなしく響く

楽隠居といふ言葉がかつてあり(いまもあるのか?)そらみつ大和

輪廻信ずるにあらねど口遊む君の前前前世とふ歌

瑠璃色のスカーフを巻く春浅きひかりの街へ出かけむとして

連絡のとれなくなつた友だちもわたしの中で未だ友だち

ローソンのあをき看板くぐりては詩歌を入手するこの日頃

別れゆく人よ私を忘れてね風に色などないのですから

ゐてゆかむちひさき鬼のたぐひらをそれぞれにかはゆき名をつけて

裏庭に埋められてある秘密らが幼き耳にささやきかける

ゑゑひどい戦争でした終はつても紫陽花を見に行けないくらゐ

をりたたみ傘を上手にたためない子供であつたいま思ひ出を

アーメン、と溜息のごと言ひをさめ静かに立ち上がる朝の部屋

祈りとはときに涙の花束を神に捧ぐるやうないとなみ

愁ひある仕草にロシア紅茶のむ少女のなかに少女ゐる午後

映画館ひとつ閉館さるること決まりし街に春の雪ふる

オルゴール博物館の半券が春の鞄の中にみつかる

カナダ産かへでの樹液かけて食むホットケーキのいびつなかたち

きいてるよ話していいよきみのこと話したいことだけでいいのよ

蜘蛛の糸を垂らす残酷さを思ふ散歩ついでに蓮の池から

毛糸玉ころがしてある部屋ぬちに編まれる前の幸せ香る

コイン投げて願ふ願ひは秘密にて無言で泉から引き返す

さむさ、つていふ回文に気がついて寒さがすこし可愛くなつた

四季のある土地に生まれて春を待つこころ愉しき冬といふもの

鈴の音が何処かとほくで鳴つてゐるあれは勇気の鈴かもしれず

石鹸をよく泡だてて手をあらふきらきらひかるきれいなおてて

そのかみのスターバックスコーヒーでまさをかさんと飲みしコーヒー

食べものの画像を上ぐるならはしのたとへばけふはザッハトルテを

近道も寄り道も好き迷つたら北極星を探せばいいさ

疲れたら休みなさいといはれてもさうもいかないときもあるさね

手鏡と手鏡あはせ何処までもつづく鏡の王国つくる

都庁には一回行つたことがあり展望室に昇つたりした

何もない春の襟裳に寄るこころ暖炉で燃やすものならあるよ

日記には幸せなことのみ記し己の脳を騙さうとする

縫ひ糸のやうに季節を綴ぢてゆく弥生の雨はさういふ雨だ

ネアンデルタール人、つて書くころの世界史のノートのうつくしさ

伸びをする猫の姿勢をとるならひ朝な朝なの寝床のうへで

儚さは強みにもなるこんなにも染井吉野の花愛されて

陽だまりに音符いくつか落ちてゐた誰かが吹いた口笛だらう

不可思議といふ単位あり不可思議は無量大数よりは少なし

へんぽんとひるがへりをる万国旗うんどう会の日のあをぞらに

星わらふ早春の夜の窓に寄り寒さとさみしさを愉しめり

マーベラス!アメイジング!と歌会に発言をせしこといまだなし

南から来た旅人をもてなして見知らぬ種子をお礼にもらふ

むつかしいかほをするのはやめにするひととき薔薇の紅茶を淹れて

めがね屋にめがねを選ぶ人人を包囲してゐる無数のめがね

問題は生きるか死ぬかではなくてどう生きるのかだねハムレット

やんはりと拒絶されたる優しさのつもりであつた言葉の行方

いつの日かきつとと思ふことなども減つてゆきたり齢かさねて

ゆくりなき贈り物なるチョコレート星のかたちや薔薇のかたちの

エッサイのむすこダビデの物語旧約聖書に読めばかなしも

ヨガマットくるくるひろげ横たはり橋のポーズす(橋をかけよう)

来年の今月今夜会ひませう月がでてても隠れてゐても

リッツパーティー催せしことなども去年の秋を照らす思ひ出

留守ぢやないけど留守電にきりかへてゆるりと飲んでゐるミルクティー

レクイエム未完のままに遺したるモーツァルトのたましひを聴く

六時には起きて古楽の楽しみを聴きたいけれど、寒いのでした

湧水をみにゆくならば新緑のころ気ごころの知れたる友と

井戸のヰをのこせるニッカウヰスキーその心意気あぢはひて呑む

嘘つきは何のはじまり薄氷にうつすら雪が積もつてゐるね

衛星は喩としてまはる惑星のまはりをまはるまはるまはるよ

小倉百人一首が好きなわたくしが百首の歌をいま詠み終へる


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