九大短歌 第四号を読む
「九大短歌」は九州大学短歌会の会誌。
大学短歌会の発行する冊子を読むのははじめて。
まず、太宰府の吟行録があり、楽しそうでうらやましい。
歌会録、連作と続くが、歌会にも出され連作でも掉尾を飾る作品に魅かれた。
主なき千度の春に削られて飛べない梅に触れる霧雨/松本里佳子
「千度」は「ちたび」と読みたいし、そうだと思うがルビがあってもよいのではないか。
会員作品
原因は二つじゃなかったのだろう 金平糖を舌で転がす/凌若菜「プチトマト」
原因は一つじゃなかったのだろう、とすると平凡だが「二つ」というところに引っかかりがある。舌の上でひっかかる金平糖の角のように。
寒かったろ悔しかったろ かぷかぷと笑って消えた君の名を知りたい/真崎愛「スーパーミトコンドリア」
宮沢賢治の「やまなし」にでてくる「クラムボン」は、かぷかぷ笑い、そして死ぬが、正体不明とはいえクラムボンという名前は知られている。総じてこの連作の短歌は私には難解で読みに自信がないが、「寒かったろ悔しかったろ」という言葉と、賢治の岩手からの連想で、東日本大震災の津波の犠牲者へ呼びかけているような気がした。
弾倉という弾倉にぎっしりと、君、これはなんの種なのですか/松本里佳子「ぼくの蛹」
「弾倉」という破壊を内包する語と「種」という生成を内包する語との取り合わせが絶妙。
きみもこの家に育ちたるひとりかと思へばつらいごちやごちやの玄関/山下翔「温泉」
「ごちやごちやの玄関」という具体の迫力がすごい。この連作全体が、「ごちやごちや」しているようでいて、実は計算されているようであり、温泉だけに湯当たりしたような妙な読後感。
最後には九大出身の歌人としてユキノ進について山下翔が論じており、興味深かった。
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