「短歌人」2020年6月号掲載作品
「てのひらの傷」
あなたから借りた本にはレシートがあなたが買つた(飲んだ)カフェラテが
たましひが痛いよ(痛い)しろたへのミルクを温めて飲みながら
もうずつと長い晩年だと思ふ雨ふれば雨、窓ごしに見て
感情の背景として街はあり角の花屋に目がとまる日よ
ちひさくて静かな書店美術書と絵本と『モモ』が棚に並んで
「じんるい」といふ発音をするときの「ほろびる」と同じアクセント
約束をしすぎた人の指先の疲れのやうにしのびよる影
過去といふ過去を架空のものとして束ねるためのリボンを選ぶ
会員1欄選抜「水無月集」より/冨樫由美子
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