見出し画像

『ぱらぷりゅい』を読む

『ぱらぷりゅい』は関西の女性歌人12人による同人誌。タイトルはフランス語で傘のことだという。

大きく三部の構成になっている。

「ぱらぷりゅい、詠む」ではメンバーの十二首とプロフィール。一人一首ずつを引く。

特急の通過したあと無事でいる人たちに降るこまやかな砂/岩尾淳子「あかるい耳」

ヨーソロー!と大声だしてみたかった 泣き顔みたいな雲を見上げる/江戸雪「抱擁」

彫ることのさなかに暗い砂が見えるそのひとが黙って暮らした冬の/大森静佳「カミーユ」

「わたくしといふ現象」がコレクションしてきた秋を貼れば青空/尾崎まゆみ「糖杏菓(マカロン)」

あり得ないたくさんのことを見てきたと伝へても飛び去つた夏鳥/河野美砂子「門」

終点 出さないままの結論を左に重く提げつつ降りる/沙羅みなみ「傾斜」

ATMの列を突然飛び出して子どもの声が蝶々!と言う/中津昌子「蠍」

文学を解する猫は眠りをり陽のうつろひを鼻に感じて/野田かおり「ナースログ」

花終わり香りのいまだ残りたるこの藤棚に来る人もなく/前田康子「藤棚と彗星」

ゆつくりとかたむけてみる如雨露から夏の終りのしづくが落ちる/松城ゆき「栞紐」

昨日一昨日の記憶はないのですきょう来たツバメといま言ったけど/やすたけまり「ツバメノート」

一人身となりにし友の作りたる花入りパスタあまさず食めり/山下泉「空に木の匙」

わかりやすく楽しい「ぱらぷりゅい年表」を挟んで、「ぱらぷりゅい、読む」ではメンバーの第一歌集(歌集未出版者は自選歌稿)から、五首選と評を二名ずつが担当している。挙げられた歌の魅力はもとより、評の的確さ、あたたかさ、繊細さに圧倒される。「エピローグ〜いちまいの布」として中津昌子が

「……文体、歌人の自己愛的傾向、不安、恐れ、演技性、職業と作品について、読者が言葉に付加するイメージの問題、私性、浮遊感、明るさの中の痛み、詩と短歌の間、女性性等々、”女性”はともかく、”関西”に限らないものが浮き上がって来ていると思う。むしろ”関西女”でこそ、というものが出ていればおもしろいのだが、内側にいるわたしには見えにくい。

何かありますか?」

とまとめた上で、問いかけている。
わたしは”関西女”についてなにも知らない東北人ではあるが、歌と評から、見えないもの、失われたものに対する感受性や、古典への親和性が優れているのではないかと思った。

「ぱらぷりゅい、語る」はレベルの高い歌会記。ひたすら面白く読んだ。

2017年9月18日発行。定価500円。

Twitterアカウント @parapluie_osaka



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?