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もうひとつのその2 観えてきたもの

 事務処理等に私は全く関与していない。その全てはある人が一人で進めていた。彼はそれにずいぶん時間がかかっていたが、何かを一つ仕上げるたびに現状報告をしてくれていた。勿論、彼には自分の仕事もあった。そちらの方となんとか並行して進めている。
忘れてはいないが忘れそうになるほど時間が経ってから届く報告を毎回確認し、了解の文字を送る。送る。送る……。
いや、期限が無いものならもう少し楽だったろう。けれどまるで夏休みの宿題に追われる小学生の親のように、はらはらしながら少し離れて彼の様子を見続けていた。

そうして一年が過ぎようとしていた去年の秋ごろ、ふと私は気付いた。

(あれ……? なんやかんや言いながら、結局いつだってぎりぎりセーフで進んでる。かなり専門的な書類作成も、教えてくれる所に何度も足を運び、ひと悶着交えながらも食らいついて作成し提出してしまった。
これって、すごくない?)

少なくとも私には出来ないと思った。
そう言えば、彼は最初からずっと自分のペースを崩すことなく着実に自分の役割を果たしてきた。私は、‘’遅い‘’とか‘’縁を捨ててる‘’とか思っていたけれど、その人の速度っていうものがあるし、‘’縁を捨てる‘’ではなく、この人自身の縁を作り上げようとしているんじゃないか……。これも私には出来ないことだった。

(やっぱり、必要な所に必要な人が配置されていたんだ。)

私は自分の判断基準で彼を判断し続けていた。けれど、彼の動きをじっと見続け、並行して自分の重い感情を軽くするために捉え方を変えていくうちに、自分が持っていた判断基準の存在感がいつの間にか薄くなっていた。
そして私の心の真ん中に姿を現したもの……。
それは必要条件のない愛だった。