フルーツ大好き シリーズ1

昨日ゼリーを作った。缶詰のモモとディルと砂糖水を固めた。間違えて砂糖を入れすぎたので、さらに間違えて適当な量の水を入れてしまった。入りすぎた砂糖は女の拳1個分くらいの量だった。ゼラチンはもう残り6枚しかない。それらはすべてふやかしてある。もうこれ以上つじつまを合わせることができないように思えてしまった。砂糖水を少し捨てて6枚のゼラチンで固まる量に調節すればすぐ解決する、それだけの問題だった。それなのに、取り分けられた砂糖水の行き場が下水しかないと思うと、どうしても流せなかった。6枚しかないゼラチンで、ちゃんと固まるのだろうか。今日は大雨が降っているから買いにも行けない。多少ゆるくてもかまわない、今回こそはしっかり固めのゼリーを作るつもりだったけど、そんなこだわりはもういいから、包丁で切って断面を生めるくらい、形になってくれさえすればいい。ゼリー液をタッパーに入れて、粗熱を取るため放置する。まだこんなに熱いんだから、固まる素振りさえ見せなくて当然である。ゼリーのことは忘れて他の作業に集中するつもりだったけど、実際には10分に1度くらいのペースで様子を見に来て、タッパーを揺らしてみた。

あと1時間で映画が始まる。その映画を私は今日必ず観に行く。家を出る前にタッパーを冷蔵庫にしまおう。そうすれば帰ってきた頃には固まっているんじゃないだろうか。

小さい映画館の最前列のシートに座り、上映中なんども体勢を変える。大人しく座っていることができない。雪が降り積もる校庭を走り回る主人公たちを見て、車にひかれる友達を見て、薄暗いダイニングルームを見て、それでもずっとゼリーのことを考えていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?