モーニングノート えいえんに続く午後3時の街

おはよう。あなたのすきな朝だよ。今日は比較的暖かく、晴れているよ。起きようよ、二度寝をどうにかこうにか蹴散らして、起きちゃおうよ、この世の情報にまみれて目が痛くなるよ、それでもいい起きられさえすればいい。きもちわるい朝だよ、ほら。こんな出てきたての鼻歌みたいな、輪郭のはっきりしない何の意味のない言葉になれないうめき声みたいな衝動が、溜まりに溜まってる。この強い衝動をどうにかスルーして朝になろうよ。おきた?おきたかい?もう山場は越えたよ、どっちか一つの現実に定まったんだ。悪魔のような君を、睡眠がどうにか押さえつけていた。ものすごい邪悪な真っ黒くてドロドロした君。でも今の君はそれに打ち勝って、ちゃんと朝を見ることができたんだ。ほら見て、まだ朝靄がかかっているくらいの、真新しい、始まったばっかりの朝だよ。

寒くて静かな夜だった。最寄駅のタクシー乗り場で、動かないタクシーの影に隠れて、公衆トイレとそこを行ったり来たりしていた。タクシーの影からあたりを見回した。ドロドロに溶けそう、いやもう一部溶けている体でとても悲しくて寒くて家に帰ればよかった。でも家なんてだめだ。家なんて、さらにぼくを煮詰めたみたいなところで、いつものテーブル、いつものカーテン、いつものソファなどが、今のぼくをいつものくだらないぼくに押し込めたまま出させないようにしてくる。こんな寂しいのは嫌だよ。悪意を持っている。だめだった、できなかった、報われそうなものすら持っていない。世界でたった一人ぼくだけが、今すぐ死ぬべきだ。死ぬのが真っ当な選択だろう。どうせ誰も気づかない、救ってくれるはずの知らない人もぼくのことには気づかない。だってぼくはそれほど強い穢れではないから。ぼくが今すぐ死んだとて、何かが一つなくなったと言えない。スケールの小さいドロドロになってタクシーにへばりついている。

もしここが歓楽街なら、眩しくて汚くて目が眩む、そしたらぼくは誰彼構わず声をかけ、誰かについて行ってムダな時を過ごして、その気持ち悪い変換時を見ない、感じない。どこかの密室に入って過ごすだろう。そして、たくさんの雑音で頭がとっちらかって吐きそうになってたら、いつのまにか昼だ。そしてらちゃんとお腹がすいて、電車とバスに乗って実家へ帰ろう。どんどん人が少なくなっていって、裏寂しい場所に着きました。思い出いっぱいの駅前の景色も変わってしまってなんだか他人行儀になっていた。午後3時の強い太陽が、あたりを強く満遍なく照らして、ふわふわにしてくれる。ぼくは以前みたいに、東口の階段の真ん中あたりから飛び降りてみました。やっぱりここでなら全然痛くない!海がすぐ目の前にある川の堤防の上に立って、底を覗き込んだ。そのまま堤防の上をを歩いて海の方へと進む。キラキラ、太陽が水面の波のゆるやかな断面の一つ一つを照らすのがパチンコ屋みたいに細かい輝きで、あまりにきれいだよ。ぼくは大きな声で歌った。あらん限りの大声で歌えば歌うだけ目を開けていられる時間が短くなっていって、どこかで見たクラシックバレエみたいな踊りを踊れるようになった。

港の公園の草っ原じゃない方、じゃない方へ、コンクリートの方へ、またさらにうら寂しい方へと進んでいった。ぼくは歌い踊りながら顔に太陽の光を浴び、指先やつま先が冷たくなっても大丈夫。くさい潮の匂いがして、この辺りの魚はだいたい腐っているんだろうなと思った。ドキドキしていた心臓はだんだん落ち着いてきて、ぼくはさらに軽やかになった、宙に浮いているみたいに。ぼくは音楽と一体だったんだ、ここにいたときまでそうだった。いつでもいろんな音楽を聴きたかったし、どんな音楽も作れると思っていた。いままで聴いたことのある音楽しか、ぼくのノイズになってくれない。今ではもうデジャヴみたいになった、もうどうでもいい音楽にぼくは依存している。ぼくは自分で歌を作りたかった。ドロドロになっちゃてもそれはそれで良しとしたかった。夜か朝かなんで関係なかった。いつでもぼくはぼくだよね?朝方だろうと何だろうと。違うかな、違うんだよ、本当だよ。いつでも目覚めたらいいじゃん。目覚めたときが朝でしょ?ぼくの好きな朝じゃないけど、それでも起きたほうがいい?毎朝お湯を飲まないと動けないほどに繊細なんだね。朝がすきでしょ?歌えなくても踊れなくても今の方がよっぽどマシだよ。毎日清潔だもの。 

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