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「住民訴訟」の主な論点

 夢洲IR差し止め住民訴訟の提訴から1年余り経過するが、現段階の主な論点は次の2点ではないか。

山田 明

 第1に、原告が情報公開請求して非公開とされた基本合意関係文書である。大阪地裁第2民事部は7月6日、22年4月26日付け「基本合意」と題する書面のうち別紙1から別紙5までを、裁判所に提示せよと決定した。この文書提出命令に対する大阪市の対応、裁判所が書面をどの範囲まで原告に開示するかが注目される。原告に開示された文書の検討により、これまで隠されてきた基本合意の中身が一定明らかになるであろう。


 第2に、解除期限延長に関わる公開文書である。大阪府市はIR事業者からの要請を受け、基本協定の解除期限を9月末まで延長する「覚書」を締結した。原告が情報公開請求により入手した文書に、本訴訟にも関わる重要な記載がある。
 IR推進局が5月に作成した文書「基本協定の概要」、実施協定の締結等(15条)から。「SPC(IR事業者)は、区域整備計画の認定が得られた場合、速やかに、実施協定の締結について、府と共同して国土交通大臣に対して認可申請を実施。なお、判断基準日において、次の場合には、府及びSPCは、合意により実施協定書(案)に合理的に必要な範囲の修正を行ったうえで、当該認可申請を行うことができる。*SPCが、前提条件のうち、いずれかが成就していないと判断する場合又は前提条件のいずれかが成就しないことが確実に見込まれていると判断する場合であるにも関わらず、SPCが本基本協定を解除しない場合」
 基本協定の解除権(19条)、SPCの解除権(事業実施の前提条件が未成就の場合)。「SPCは、条件成就のために府・市と緊密に協力・連携し、合理的に可能な範囲で努力した上で、誠実かつ合理的な裁量により前提条件の成就・不成就を判断」

 基本協定における事業者の解除権として、事業実施の前提条件の概要(主な内容)が、次の7点にまとめられている。

  1. 税制

  2. カジノ規則

  3. 資金調達

  4. 土地条件・工事条件

  5. 新型コロナウイルス感染症

  6. 財務悪化

  7. 重大な悪影響


 このうち本訴訟に直接関わる前提条件は4であり、「土地課題(地盤沈下、液状化、土壌汚染、残土処分等)について、大阪市において悪影響の発生防止を確実とする対策が実施されること」と記してある。土地課題のうち、地盤沈下は市が負担する788億円に含まれていない。地盤沈下を含めて、大阪市の対策を求めている。この地盤沈下をめぐり、SPCと大阪市との間で前提条件の成就に向けた協議が続いているのでないか。また4の工事条件(工事制約)、2のカジノ規則(国際競争力・国際標準の確保)、さらに3の資金調達のコミットメントレターの「条件付き」にも注目しておきたい。
 想定QAという文書で、事業者と協議継続中(前提条件の見極めなど)であり、SPCの解除期限を延長するものとしており、見極めの焦点が地盤沈下対策ではなかろうか。

(2023年8月29日)


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