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夢洲IR差し止め訴訟第10回口頭弁論

2024年7月26日 午前11時より、大阪地方裁判所大法廷で夢洲IR差し止め訴訟の第10回口頭弁論が開かれた。それに先立ち、原告側から第6準備書面と第7準備書面を提出し、大阪府・市とSPC(大阪IR株式会社)との事業用定期借地権設定契約の違法性を質した。このレポートは、原告である山田明氏による今回提出の準備書面についての要約である。

原告 山田 明
名古屋市立大学名誉教授

夢洲IR差し止め訴訟の提訴から、29日で2年になる。この間、大阪IR計画の認可、大阪府市と大阪IR株式会社との契約締結などが行われた。原告らの訴えにより重要な資料が開示され、一定の「成果」をあげてきた。今後の訴訟の展開にとっても重要と思われる原告準備書面が、7月18日に提出された。何回も読んだが、私にとって難解なことも多く、とりあえず第6準備書面を中心にメモを記しておきたい。

原告 第6準備書面

第6準備書面では原告らの目標を2点にまとめている。
第1の目標は普通財産の貸付として、夢洲のIR用地を考えた場合、その財務会計上の行為が財務会計法規に違反していることを主張立証すること。

第2に、仮に政策的枠組みを考慮して、寄付又は補助金として見ることができたとしても地方自治法第232条の2(抜粋、以下同じ。公益上必要がある場合においては、寄付又補助することができる)に違反していることを主張立証すること。

今回の準備書面では、第2の訴訟目的として寄付又は補助金を大阪市(港営企業会計)の債務負担行為を見なすことが新しく提起された。最高裁のいくつかの判例が紹介され、本件についても232条の2に違反すると結論づけている。これまでSPC(大阪IR株式会社)に対する大阪市の公費負担、港湾局による債務負担行為を寄付又は補助金として考えたことがなかった。今回の準備書面において、こうした新しい論点を提起したことについて、その意義を評価しつつ、ここでは第1の目標に関わる論点に絞って、要点を記録しておく。

市が普通財産である本件土地をSPCに貸し付ける行為について、本件事業用定期借地権設定契約や立地協定(土地所有者)、事業条件書から土地課題対策義務(土地課題対策費用)などの内容と課題を整理する。それを踏まえ本件契約の違法性について、地方公営企業法第3条(地方公営企業は、常に企業の経済性を発揮するとともに、その本来の目的である公共の福祉を増進するように運営されなければならない)と地方自治法の関係などから問題を指摘する。

とくに43ページの「大阪市長による指揮監督は、地方公営企業法の独立採算制の原則及び地方自治法の適用除外の規定を潜脱するものであると言わざるを得ず、その指揮監督によってなされた本件土地課題対策費の負担合意はそれ自体で無効であるか、少なくとも地方公営企業法第40条第1項(条例又は議会の議決によることを要しない)の適用を受けることは許されない」という指摘が重要である。大阪市の裁量権の逸脱・濫用が、本訴訟第1の目標にとってカギとなるのではないか。

本件土地の貸し付けは、その対価が低廉であり、適正な対価によるものではないので、地方自治法第96条第1項第6号(地方公共団体の財産を適正な対価なくして譲渡するときは、議会の議決によらなければならない)所定の議決を経ていない本件事業用定期借地権設定契約は無効であり、その一部である本件土地課題対策費の負担合意も違法・無効である(43~44ページ)という指摘も重要な論点となる。

45ページにも「他の土地の貸付の例と比較しても著しく均衡を失しており、経済性、公正性に反している。普通財産である本件土地の貸付として見た場合、上記の支出負担行為(788億円)を伴う本件事業用定期借地権設定契約の締結は、裁量権の逸脱・濫用に当たり、違法・無効である」と指摘する。それに関連して「本件土地課題対策費用についての支出はSPCに対する寄付又は補助金と解さざるを得ない」(46ページ)として、本訴訟第2の目標が後半で主張立証される。

土地所有者責任合意の違法性として、特定地中埋設物撤去等の負担額、地盤沈下等の負担額については、本件債務負担行為による上限が画されていない、金額上の制限がないとしている。とりわけ地盤沈下対策は底なしの負担が懸念されるので、責任が無限定になるおそれがある。
また「土地所有者責任合意におけるこの不可抗力等の取り扱いは、市が著しく不利な状況に追い込まれた内容であると評されるべきである」という指摘も、土地所有者責任合意により大阪市に巨額の負担を迫るものであることを示すものである。

本訴訟第1の目標として、「土地所有者責任合意は、経済性、公正性に反した義務を市が負担するものであり、違法・無効である」(49ページ)と結論づけている。

原告 第7準備書面

◇第7準備書面では釈明事項として、1本件土地の引渡し状況について、2救済策の履行状況について、被告・大阪市に説明を求めている。

1については、私も大阪市議会への陳情書、大阪IR推進局への問い合わせ、さらに6月20日「大阪IR説明会」でしつこく説明を求めてきた。IR推進局長らの見解表明によると、今夏(7~9月頃)に大阪IR会社に土地が引き渡され、IR準備工事が開始される。なお大阪IR株式会社2024年度事業計画で「夏頃~土地使用権原の取得(大阪市からの土地引渡し)」と明記しているIR推進局は、土地引渡しに伴い、2026年9月まで延長された「解除権」は失効するという。説明会では、IR用地の土地登記はまだであり、土地引渡しは未定とのことであった。
準備書面では「大阪・夢洲地区特定複合観光施設用地に係る液状化対策等工事市有財産使用貸借契約書」(乙223)よると、事実上の引渡は「令和5年12月4日」になされているので、令和6年7月3日現在で8か月間の無償貸付け期間が生じている。
 原告らは、かかる利益供与もSPCに対する実質的な寄附又は補助金であると評価している。この点については、本件事業用定期借地権設定契約に基づく本件土地の引渡しがなされ供与した利益額が確定した段階で改めて再論する予定である。

本件の土地の貸付に関する本件契約の概要

件使用対象土地を設置運営事業の用に供するためにSPCが使用できるようにする(但し、法令等、立地協定又は事業用定期借地権設定契約に基づき有する解除権又は損害賠償請求権等の救済策の行使を妨げるものではない。)。」と規定している。
すなわち、本件事業用定期借地権設定契約に基づき市がSPCに対して負う本件土地を使用収益させる義務は、本件土地の引渡しに尽きるものではない。
市の使用収益させる義務は、本件土地の引渡しに加えて、本事業期間中、自らが所有する本件土地を設置運営事業の用に供するためにSPCが使用できるようにするという加重された義務を含んでいる。 (IR区域拡張予定を含む)
本書面では、市が本事業期間中、自らが所有する本件土地を設置運営事業の用に供するためにSPCが使用できるようにする義務を本件土地整備義務という。その合意を「本件土地整備合意」という。

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