ステージ・プランにおける「川上から川下まで」

関西文化学術研究都市サード・ステージ・プラン

平成18年3月
関西文化学術研究都市サード・ステージ・プラン策定委員会

第Ⅱ部 理念の実現化に向けた取り組みの方向性
第1章 学研都市発の新たな文化・学術研究・産業の創造を目指して
3.産学官連携による新産業の創出
(2)研究開発型産業施設や生産施設の立地促進
学研都市では、文化学術研究施設の加え、今後は新産業創出に向けた試作生産機能を有する研究開発型産業施設や研究成果を活かした生産施設等についても、立地促進を図っていくことが重要である。
特に全国的に企業誘致競争が強まる中で、引き続き税制の優遇措置や低利融資制度を維持するとともに、規制緩和を含めた地域独自の立地促進策を講じるなど、地域及び関係機関が一体となって学研都市としての優位性をアピールしながら一層強力に誘致活動等を展開していくことが必要である(9ページ)。


けいはんな 学研都市新た都市創造に向けて
-新たな都市創造プラン-

平成28年3月
けいはんな学研都市新たな都市創造委員会

第5章 ビジョン実現に向けた取組
5-3 都市形成
(3)都市の多様性を高める土地利用の推進
② 取組の方向
(多様な施設の立地推進と機能連携)
研究機関の集積やオープンイノベーション拠点等を活かし、国際的な競争力を持つ研究開発力の強化を図るため、今後けいはんな学研都市が新たに開拓していくべき研究開発分野をリードする研究機関等の誘致に向けて取り組んでいく。
さらに、都市の多様性と機能連携を一層高めるため、学研都市におけるイノベーション、新産業の創出、我が国のものづくり産業の振興及び関西の目指すものづくり拠点への貢献と言った観点から、基礎研究、研究開発、研究開発型産業施設に加え、これら施設等との機能連携を目指し、学研都市の成果、集積がより発揮できるような生産施設等の導入の検討を進める。
また、学術研究交流、経済交流等の進展に伴い不足の傾向が顕著となっている宿泊研修機能を強化するため、ホテル、展示施設等コンベンション機能の充実、強化を図る(29ページ)。

~ 以上 ~

以下、基本的な認識をメモします。

▼ここでは、「川上」=「文化学術研究施設(いわゆる「研究所」)」、「川中」=「研究開発型産業施設」、「川下」=「生産施設」とします。

▼「サード・ステージ・プラン」策定当時、アメリカのシリコンバレーを念頭に、新産業創出拠点の整備には「川上から川下まで」の集積が必要だとの認識が広がっていました。

▼当時、UR・民間開発事業者・精華町が連携し、それまで研究所しか立地が認められてこなかった精華・西木津地区における規制緩和を目指した運動を展開しており、それが全面的に受け入れられた形となっています。

▼「サード・ステージ・プラン」ではそうした考え方を取り入れ、学研都市の文化学術研究地区内において「川上から川下まで」を立地させることを自明の理として目指すこととされています。

▼「新たな都市創造プラン」では、生産施設等については導入の「検討」を進めるという後退した表現に変化しています。

▼「新たな都市創造プラン」策定当時は、既にUR都市機構は独法改革の影響によりクラスター開発から撤退しており(平成25年度)、ステージ・プラン策定におけるサイエンスシティ建設に関する知見や理論の影響力が失われていたものと考えられます。

▼当時、新たに南田辺・狛田地区のクラスター開発を控え、精華・西木津地区の施設用地がほぼ埋まるなど、施設用地需要の高まりを背景に売り手市場となっていたこと、また京都府山城南部地域において、他の工業団地への生産施設立地誘導を図ろうとする京都府の意向などを背景にして、学研都市における「川上」寄りへの回帰が一定進んだ可能性が考えられます。

▼実際、この表現が「都市の多様性を高める土地利用の推進」のくだりで記述されていることからもわかるように、基礎自治体の財政力を強化する必要性などといった視点は見受けられず、文化学術研究地区のポテンシャル向上の視点でしか無かったことが窺われます。

▼精華町が筑波研究学園都市の調査実施により、サイエンスシティの都市建設を完結させようとする場合には、都市内における産業集積による新産業創出を通じて基礎自治体の財政力を高め自立都市づくりが不可欠であるとの認識を深めて改めて理論武装を行ったのは令和元年度のことでした。

▼令和2年度に京都府主導で開催された「南田辺・狛田地区整備検討委員会」において「川上から川下まで」の考え方そのものは否定されることはなかったものの、生産施設等の導入が明確に方針化されなかったことは、「新たな都市創造プラン」における「川上から川下まで」の後退基調の流れにあるものと考えられます。

▼将来にわたる持続可能な都市運営を確保するには、学研都市建設の概成にあたり基礎自治体における産業集積による新産業創出が不可欠であるとの考え方についての共通理解を広めていく必要性があります。

令和3年(2021年)5月28日現在

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