奥田懇第2次提言補足(抜粋)

関西学術研究都市についての第2次提言補足

昭和54年9月
関西学術研究都市調査懇談会

第4章 重点的に取り組むべき研究テーマと研究機構の提案

今回、第1次提言の7つの研究機構に日本文化に関する研究機構を加えて8つの研究機構の提案を行っている。研究機構の選択に当っては、ニーズ(必要性)が認められながら、このニーズが充分には充たされていない分野に着目し、主として下記の4つの理由から8つの研究機構を選択した。

1. 人類の生存条件の確保に応える研究機構

日本を始め世界人類の生存の条件に係わる主要な問題として、まず、資源・エネルギー、食糧、および南北問題の3つの問題が認識された。また、これらの問題は、学術研究の上では、特に学際的・総合的な取り組みを必要としている分野である。

2. 望ましい社会像の構築に応える研究機構

工業化、都市化、情報化は現代社会の共通の傾向であるが、資源に乏しい高密度な工業国である日本にこそ、世界の先頭に立ってその望ましい目標を追求し、かつこれを達成してゆくことが期待されている。この目標に向けての筋道を明らかにすることは、わが国に対する国際的要請であるとの認識から、情報・文化、将来都市、人間科学の3分野を取り上げた。

3. 新しい産業構造の構築に応える研究機構

国際的相互依存関係は経済的、政治的に今後一層強まることが予想され、この過程で、わが国なかんづく関西の産業・企業は、さらに厳しい選択を迫られることは必至である。この要請に応えるものとして将来産業に関する研究機構を取り上げた。

4. 日本文化の正しい理解に応える研究機構

日本文化の長い伝統を振り返れば、日本が単にエコノミック・アニマルの国ではないことは明らかである。自国文化について深く認識し、これを世界にも正しく理解してもらうことは、極めて重要であるとの認識から、日本文化に関する研究機構を取り上げた。

4-1 資源・エネルギーに関する研究機構

戦後の世界を支えてきた世界経済秩序は、資源・エネルギーをめぐって大きな転換期を迎えようとしている。わが国は資源に乏しい国土の上で世界に類のない高密度経済を営みつつ、転換期に伴う混乱を克服し、諸国民との連帯を強化しなければならない。きわめて厳しい条件下でのわが国の資源・エネルギー研究および実践経験は、世界に対して貴重な寄与となり得る。

鉱物資源ならびにエネルギー資源がその探査から採掘、利用を経て自然界に還流する経路は一貫した密接な関係につながれている。ことに最近では国際関係や政治経済問題とも深く係わっているので、自然科学的方法だけでは解決できない面が多く、人文・社会科学的な研究をも組み入れた総合的研究を必要としている。もちろん最近の資源・エネルギー科学技術は専門分野ごとにみれば、相当に高度化しつつあることは事実である。このことは現時点における総合的研究の必要性を、ますます切実なものとしている。資源・エネルギー関係の総合的研究が、各国政府機関や国際組織によって盛んに実施され、またこの種の総合的研究を目的とする研究機関やセンターがつぎつぎと設置されつつあることを見ても明らかである。

しかし、わが国では一般に、科学技術政策の基本的方向さえも、先進国の先例に依存して決定してきた習慣から充分にぬけ出し得ておらず、総合性という点で独自の方向を打ち出すだけの強力な調査研究活動は不充分にしか行われず、そのための研究機関の発達もまだ充分ではない。

以上のような認識は、新しい国内および国際秩序に適応した資源・エネルギー関連学術・産業が探求されつつある関西地区においてひろく浸透し、次第に共通認識として高まりつつある。地域に即した研究と学界の最前線をゆく研究を共に実施してきた関西は、新しい時代を迎え入れる研究のマスタープランづくりに好適の基盤を持っており、すでに具体的研究も始まりつつあくる

関西地区は核融合に関する研究能力の集積度が高く、新エネルギー技術開発に好適な基盤をもち、加えて軽電機および材質の研究開発の伝統があり、世見有数のエネルギー需給システムを持っている。地形としては、外海と内海に面する海岸線をもち、急流、台地、砂丘、原始林等にも事欠かないなどの特色がある。その他の関西地区の特性も考えあわせると、新設研究所誘致の可能性は充分に存在する。例えば、日本学術会議がすでに政府に勧告しているエネルギー工学研究所、資源・エネルギー研究センターならびに核融合関係者の間で成案が得られつつあるプラズマ理工学研究所所および日米・日中とのエネルギー研究協力に必要な新設機関等は、関西学術研究都市に誘致を考慮したい。しかしながら、これらの誘致に平行あるいはむしろ先行して、やがて全体のコーディネーターになる機関に発展する可能性を含む官・公・民・学合同の資源・エネルギー研究懇談会を編成することが必要であり、そのような気運も次第に熟成しつつある。

これらの諸機関で探求される学術分野はきわめて多方面にわたる。その内容を例示するならば、次のようなものが含まれよう。すなわち、過去のトレンドの延長上に需給のバランスをはかる資源・エネルギー需給計画方法を克服する新手法の開発、従来の巨大化、集中化を基本するエネルギー・システムに新しく中小規模、分散配置という性格をもつ各種新エネルギー・シテムを配してエネルギー有効利用システムを開発し、安定で効率的なトータルシステムに移行する問題、さらにエネルギー・システムと下水処理、廃棄物処理との結合を強化するという課題、産業と都市および農村との連けいの強化等である。これらは、途上国が自力で開発、建設、運営できる中小規模エネルギー・システムの開発にもつながり、これら諸国との連帯意識の強化によるエネルギー資源問題の打開にも寄与し得るものである。

現段階では全体の有機的構成を示すことは困難であるが、とりあえず必要とされる研究部門を例示しておくこととする。

資源・エネルギー研究財団(コーディ ネーションの機能を重視)
資源・エネルギー研究財団付属プロジェクト研究所
新設国・公・民研究機関(水資源に関する研究機関等を含む)
新設国際研究機関
新設国・公立研究機関(エネルギー工学研究所、プラズマ理工学研究所、資源・エネルギー政策科学研究所)
新設民間研究機関
付属共通部門

~以上~

以下、基本的な認識をメモします。

▼けいはんな学研都市が取り組むべき人類的課題(「日本を始め世界人類の生存の条件に係わる主要な問題」)として、①資源・エネルギー、②食糧、③南北問題が掲げられていました。

▼資源・エネルギーについて「核融合」が特出しされ、関西が原子力研究や原子力発電の集積地であり、適地であるとの自認がベースにあります。

▼従来のエネルギー・システムにおける「巨大化、集中化」(主として大型化をたどった軽水炉を指しているものと推察される)や海外依存体質に対し、日本独自の「中小規模、分散配置」技術の開発を目指すべきとしています。

▼関西での「中小規模、分散配置」技術開発により途上国における中小規模エネルギー・システムの普及に貢献でき、そのことがまさに人類的課題の解決の一つであり、けいはんな学研都市の最優先事項であるとの明確な意思が当時の奥田懇で掲げられていたことになります。

▼なお、第1次提言以降、梅棹忠夫氏の新京都国民文化都市構想を受け、第2次提言において日本文化に関する研究が新たに加えられました。

令和3年(2021年)8月28日現在

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