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今こそガッシュを楽しみたい--4

ガッシュを含めて不透明で描く利点は、下が何であれ明るい色を上に乗せられることだと書きました。このことは思考が双方へ拡がったのと同じことだと思います。勿論、その事が透明描法より優れているという意味ではありません。しかし描きたい事柄によってトライできる方法が増えるのは歓迎すべきことだと思います。透明水彩は一方へしか進めない制約がありますが、このことをむしろ潔く感じる描き手さんも存在すると思います。双方の個性は互いに牽制しあうものではなく、刺激し合って魅力的なものに発展できると思っています。

例えてみれば絵画にはシャブシャブ系とクリーム系がある、と私は勝手に思っていますが、片方が好きだからもう片方を食べないという理屈はありません。そういう人も確かに居ますけれど、楽しめるものはなんでもやる。私はこれで行きたいと思います。


顔みたいですね

ガッシュは割と厚塗りができるとしていますが、過ぎると乾燥の過程でひび割れしますし薄いと下が透けます。薄いと下が透けるのはどんな絵の具でも同じです。それをコントロールしながら描くのです。

ガッシュが敬遠される一つの理由は表面の堅牢性ではないかと思います。実際そう言っていた絵描きさんが居ました。描き上げた後での汚れや水に弱い。これはしかし透明水彩でも同じです。しかし樹脂系の絵の具が別にあり、これに耐久性が確認されるのでつい比較してしまうのではないでしょうか。実際私も油彩やアクリル使いであったころはそうだったし、どうせなら堅牢に仕上がった方が良い。ちょっと汚れても水で洗える。もっと言えば、下さえ耐水性を持ってしまえば上描きに失敗しても初期なら洗える。デジタルのない時代はこれが案外重宝されていたのではないかと思います。

しかし、時が経ってみるとどうしてそんなことに拘ったかなという気がしています。とにかくあまり苦にならなくなりました。むしろ アクリル絵の具の鈍い艶とネチャッとした感じが今ではあまり好きではありません。保存が悪いと無数の埃が乗って目立ちますしウッカリ紙がくっ付いたりしたら取れません。保護のためのトレペがくっ付いた例はあちこちにあります。これはなかなか厄介です。ビニールとかもダメですね。

そう言うことがあるのかないのか分かりませんが、いつの頃からかガッシュのような艶消しになるアクリルガッシュが登場しました。ガッシュの持つマットな感じがむしろ良いと私は思うのですが、何故かアクリルガッシュに触手が動きません。この辺は好き好きで良いのじゃないでしょうか。


ややボカシを入れた柔らかい描画

もう一つは--泣き--の問題でしょう。耐水性がないのでとにかく上に乗せた絵の具の水分で下の絵の具が溶けます。しかしこれは平面アートをするでもない限りはそれ程苦になりません。それならいっそアクリルガッシュが良いと思います。とにかく普段の描画で下の泣きが困ると思ったことはなく、むしろ適当に溶けてくれるのは武器だとすら思っています。

このことは油彩のようなストロークの長いボカシ描法が可能で透明水彩には無い味ですし、アクリルでは乾かない内にやってしまうかドライブラシするしかありません。慣れてしまえばそれはそんなに苦ではないのですがこの面に関しては一般的なガッシュの方がしっくりしている感じがします。よく練習して同じところで何度も筆を動かさない。動かす場合はそれを計算に入れている。そういうところまで何とか練習を積み上げたいものです。


叩くようにして絵の具を乗せる

ボカシやにじみを全く考えない描画も勿論可能です。ぶっつけるような描き方ですが、こっちはぼかしたような柔らかな部分がありません。色んなことをやってどんな効果が出るのかを確かめるのも乙なものです。

ひとつ言って置きたいのですが、全く経験のない子供にガッシュで自由に描かせるとなかなか面白いのができることがあります。私自身は子供を教えた経験はありませんが、周辺を眺めてそう思うことがあります。むしろ中途半端に修練した人は概してつまらなくなりがちです。しかし一旦は必ずその時期があって、誰しも通ってきています。絵画の不思議な部分だと思います。

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