推しのライブが中止になった

「まぁ~そうですよね、今のご時世ですし。仕方ない。他にも楽しいことはあるし、またいつかは開催されるから大丈夫!」
ライブが中止になるたびに、ずっとそう思っていた。
早見沙織さんのツアー『早見沙織 5th Anniversary Tour “Your Cities”』が中止になるまでは。

本当に好きな人のライブが中止になると、気持ちの整理はそんなに簡単にはいかない。
特に早見さんのツアーは、アーティストデビュー5周年を記念したツアーだった。どんな曲をどんなアレンジで演奏するんだろうと、期待は膨れ上がっていた。
中止を予想してはいたものの、いざ中止の連絡を受けると、やっぱりちょっと泣きたくなってしまう。

それでも「泣いてなんかいられない」と思えたのは、公式Twitterの「お詫び」という表現を見てからだった。

違う、違う、違う。
謝らなきゃいけない立場にいるのはコロナウイルスさんであって、早見さんやスタッフさんではない。

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ここでふと、思い出話。

今年2月に、とあるイベントの開催を仕事で担当した。
鈴木愛奈さんのデビューアルバムのハイレゾ試聴会。『ラブライブ!サンシャイン!!』のAqoursのメンバーとしても活躍中の声優さんだ。

まだ緊急事態宣言は出ていないタイミングで、部長や係長なども「開催すればいいんじゃないの?何悩んでんの?」とかなり緩い考え方。うーん、人によって考え方は異なるからなぁ……。
真面目すぎる私は、1人で他のイベント開催状況を調べて、来場予定のお客様に可能な限りマスクを持参するように連絡。予備のマスクやアルコールを用意したりと、手探りながらも準備を入念に進めた。

イベント当日。
何と1人を除いたお客様全員が、マスクを持参してくれていた。

後々SNSを見てみたところ、余分にマスクを持ってきてくれた人が何人かいたようで、イベント直前にお客様同士で配り合っていたらしいのだ。
高い倍率のイベントだったから、知り合いと一緒にイベントに来ていたお客様はほとんどいなかった思う。それでも一瞬の間にお客様同士で結束して、協力して、現場のスタッフ以上にイベントを支えてくれていた。

イベントを成立させてくれたのは、ファンの方々だった。

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音楽業界で働いていて、学んだことがある。

――ファンは、すごい力を持っている。

ときには関係者以上に、大きな力を。

鈴木愛奈さんのハイレゾ試聴会に限らず、仕事を通じてファンの方々に支えられたり、救われたりしたことは幾度となくあった。
だから今度は早見さんのファンとして、早見さんやスタッフさんを支えたい。

もし早見さんやスタッフさんが、今回のライブ中止で「お詫び」をしようとしていたり、責任を感じていたりするのであれば、そんな必要はないと伝えたい。
少なくとも、「ファンが悲しんでいる」などといって余計に落ち込ませたくない。

だから気持ちの整理は難しいけれど、泣かない。
いつか日本が、世界が元気に戻ったとき、もっとグレードアップしたツアーがきっと開催されるから。
そのときまで、たくさん楽曲を聴いて、たくさんライブ映像を見て、美味しいものを食べて、エールを送り続けるんだ。

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