リーダー不在のゆめいろさがしで効率的に動けない自分を開放せよ(加藤理沙インタビュー②)
【プロフィール】
加藤理沙(かとうりさ)
ゆめいろさがしのストーリーを書いている。
1998年生まれ。東京都出身。YFU派遣生としてアメリカ合衆国NH州に留学中、ドナルド・トランプ氏が合衆国大統領に当選。カルチャーショックにより悶々としながら帰国、翌年東京藝術大学に入学。以後対話、多文化共生、全体主義体制を作り出す大衆などに興味を持ち、共同制作過程における対人関係構築について考察している。
1. ゆめいろさがしの活動
——ゆめいろさがしを始めたきっかけや経緯を教えてください。
去年の6月、ヴァイオリン専攻の北澤とピアノ専攻の渡邉から、音楽付きの絵本を作りたいからシナリオを書いてくれないか、ということで私に連絡がきたのがきっかけです。そこからメンバーを集め、11月半ばにゲーテ・インスティトゥートで開催された、コロナ禍の文化芸術について考えるイベントに出すことになりました。
まず『ナナ』という絵本を作って、それをベースに『ナナ2020、東京』というパフォーマンスを上演しました。ウマの家族に突然変異的に生まれたユニコーンが主人公で、「ツノがある」ということで家族に受け入れられなくて家を離れるんです。そこから自分のアイデンティティをめぐって、色々な動物たちとの出会いを通して自分に向き合い成長していく、という物語です。
——制作プロセスについて教えてください。
8月の最初に、ゆめいろさがしのメンバーで私が書いた絵本の文章を読解する会を開きました。正解は一つではないので、「この解釈もありだね」という感じで話が進んで、それがとても居心地よかったです。それは同時に「ゆめいろさがしの中では何を言ってもいいんだ」っていう、メンバーの安心感の構築にもなったと思います。「ゆめいろさがし」という名前になったのもその時です。
——絵本をパフォーマンスにする、というのは具体的にどのように行なったのでしょうか?
パフォーマンスにする上で、新たなテクストと音楽を加えて、コロナ禍における東京という私たちが日常的に見ているものとナナの世界とを並べました。東京のシーンとナナのシーンが互い違いに出てくるんですけど、ナナのシーンは朗読音楽と身体表現で、東京のシーンは演奏者、ダンサー、朗読担当全員が役者になります。演奏者と演者の境界線があいまいな舞台になりました。
——絵本は販売もしているんですよね?
朗読音楽全14曲の音源付きでB5版、フルカラー21ページ、ハードカバーの絵本を販売しています。絵は豊かな色彩で動物世界を表現し、音楽は物語と発話のリズムに合わせて作られていて、自信を持っておすすめです。
朗読音楽絵本『ナナ』 ¥3,000
ゆめいろさがしの公式web shopよりご購入いただけます。
2. ゆめいろさがしの理念
——最初はそのイベントの1回限りというイメージだったんですか?
私もみんなもそのつもりで参加していたと思います。ただ制作過程から発表までたくさんの学びやひととの繋がりがあったので、これで終わりたくないなという感情も出てきました。とは言いつつ忙しいメンバーばかりなので、この先どうなるんだろうね、という感じで結局11月のイベントは終わりました。
——ちなみに今の加藤さんのグループ内での役職とは何なのでしょうか?リーダーではないんですか?
そもそも発起人ではないので、リーダーではないかなと思います。あと、あえて「リーダー」のような大きめの肩書を名乗らないようにしていて、名乗る時は「文章担当」って言っています。 大きめの肩書を名乗った瞬間に、自分の中の「ちゃんとしなきゃ」という部分が出てきて、「ちゃんとしなきゃの自分」が「効率的に動けない自分」にどんどんストレスをかけていく。そのことが結果的に「死にたさ」に繋がるんだけど、でもその「死にたい」みたいな「大丈夫じゃない自分」、そして相手の中の「大丈夫じゃない自分」は押し殺したくないなと思っていて。役職を名乗らないことで、「大丈夫じゃない自分」を開放できるなら、名乗る必要がないうちは名乗らなくていいかなと思っています。
——役職名に自分の行動や意識が縛られていってしまう、ということでしょうか?
それが一番大きいですね。自分の意識が変わっちゃうのが一番怖いです。
——ゆめいろさがしの作品はどのような人に届いて欲しいですか?
考えることが好きな人は年齢に関わらず、子どもから大人まで楽しめるものだと思っています。『ナナ』でも、物語について夜中まで議論したり、数ヶ月間は思い出して反芻しながら考えていたという声をいただいていて。だから「大人の絵本」みたいな要素は確実にあると思います。
あとは作品に限らず、ゆめいろさがしの「大丈夫じゃない自分を大事にする」「1人ひとりが独立していて、でも一緒にいられる関係性」みたいなあり方自体も見てもらいたいです。自己肯定感が低くて、安心していられる場所がわからなくなるような人にも、それで大丈夫だよっていうメッセージを発信できれば良いなと。
——そういった視点は、最初に話していたような加藤さん自身の体験も関係しているんですか?
していると思います。昔の自分を救うための活動をしていれば結果的に誰かを救うことができると考えていて。ただこの先活動をしていく上で効率やスピード感なども意識しなくてはいけない状況が出てきて、だんだん大切にしたいことができなくなってしまうのではないかという心配はありますね。だからこそ、そこの軸がブレたらやっている意味がないぞ、ということは常に自分に言い聞かせています。それは作品の出来以上に大切にしたい部分かもしれないですね。どれだけいい作品ができても、そこに至るまでの過程が作業的に作られたものなのだとしたら、それはゆめいろさがしではないかなって思います。
——そこはゆめいろさがしというグループの大きな個性かもしれないですね。
3. ゆめいろさがしの展望
——最後になりますが、次回作についての展望はありますか?
『ナナ』は個人の目線での物語だったんですけど、次回作はそうではなく、複数のキャラクターのバックグラウンドも見えるようなストーリー構成にするつもりです。あと『ナナ』は自然豊かで人間のいない世界でしたが、次回はもう少し人間社会に寄っています。
——前回の『ナナ』でも、動物を通して現代社会の問題に切り込むというアプローチがとられていたように思います。そうした態度は意識しているんですか?
意識していますね。ただ個人の視点ではなく集団の視点に目線が変わるということは次回の新しい点だと思います。
——ちなみに、ゆめいろさがしというグループとしての今後の展望はありますか?
なにより、ゆめいろさがしが存続していてほしいです。メンバーのみんなが帰ってくる場所を常に用意しておくみたいな。藝大にいるとどうしても作品至上主義みたいな部分もあると思うんですけど、そういった完成形だけではなく、それまでの制作プロセスや対話を含めたゆめいろさがしのあり方を大切にしていたいですね。
ゆめいろさがしとは
朗読音楽絵本を制作し、上演する団体です。東京藝術大学の学生が集まり、現代の諸問題を暗示させる動物世界の物語を描いています。
▼ゆめいろさがし公式サイト
https://yumeirosagashi.studio.site
▼ゆめいろさがし公式ショップ
https://yumeirosagashi.booth.pm
インタビュアー・堀江幹
運営・ゆめいろさがし
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?