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インドを所有すること

「インドに行ったら何が変わるんですか?」
先日、カレー界のレジェンド水野仁輔さんと、その水野さんをして名古屋No.1と言わしめた幻の名店ガネーシャのガネさんこと豊嶋光男さんのスペシャル対談に参加させていただき、こんな質問をいたしました。

これは他でもない水野仁輔さんに聞いて見たかった質問でした。

あ、このnoteはその対談の内容をレポートする記事でも何でもありません。ただ、そこはかとなく書いたダラダラ文です(笑)

カレー好きが高じてスパイスからカレーを作るようになると、リアルでもSNSでもガチなカレー好きの人と繋がるようになって、一度はインドに行かなくちゃなぁと自然に思うようになります。そんな状態になると、既に周囲には所謂インド経験者が何人かいて、その話はいちいち興味深いのですが、どうもインド経験者同士ではインドに行った回数とか滞在期間とかがヒエラルキーというか、それこそカーストのように意識的なマウントの取り合いになっているのをしばしば目にします。いや、これ、考えたらめちゃくちゃ面白いことだなと思っています。

既に業界のすごい人達はだいたい何度もインドに行っていて、プロの料理人の方ともなるとインドで何年も修行をしてきた方もいます。そういう尊敬すべき重鎮の方々は言わばプロ野球で言うところの日本人メジャーリーガーであって、東京の有名店のインド人はさながら助っ人外国人のようなものです。

お互いのインド愛を試す傾向が強いのは、プロの料理人でも何者でもない人達であって、その中でも一般プレーヤーとファンが混在しているのですが、インド行った回数で殴り合うのはとどつまりはオタク的な発想であり、ステータスコレクターだと思います。そして、多くの人がそれを逃れられないと思うし、自分もまたインドにいったら、インドの話がうるせー人になるのでしょう。

一方で、インド行ってないのにすごい人っていうポジションを手に入れたいという人もいて、
「僕はインド行ったことありませんし、必要だとも思いません。自分が思うがままにカレーを作ってるだけです。」
という感じの。そんなこと言ってる人でも心からそう思ってる人は本当はわずかだと思うし、インド行かない自分が好きなせいでインドに行けないように自分を縛ってる。素直になりなさいよ、本当はインド行きたいんでしょ?
だって、それだけインドって魅力的だから。

と、かなり意地悪なことを言ったわけなんですが、私なんかはただの食いしん坊で、料理の探求とか好奇心とか、言わば料奇心が強いだけの人です。
きっとインドに行ったら、いろんなことに目移りしちゃいながらストリートフードの店の人がサモサを揚げているのをじっと見ていたり、カレーやビリヤニの有名店を調べて食べ歩きして、チャイ飲んでタージ・マハルの前で合掌して写真撮って帰って来るんでしょうね。いや、列車でバラナシまで行ってガンジス川から夕日を眺めたいとか他にもいろいろあるんですけど。

どんな分野でも多かれ少なかれそういうもんだと思いますが、やっぱりインドって特別です。
ラーメン好きでも中国にラーメンを研究しに行く人ってあんま聞かないですよね?中華料理の人でもそんなに中国に修行に行ってます?まあ行ってる人いますけど、中国行ってないのに中華を語るなみたいなことにはならない気がします。
でも、インドって何だかバックパッカーでも、インド行ってなきゃバックパッカーとは言わないみたいな雰囲気がありますし、沢木耕太郎や素樹文生の世界からのインド観を持っている自分からしても、ちょっとそれは思います。神秘と混沌の国で、旅をするのも一筋縄ではいかない。そんな通過儀礼を経験しないと認めてもらえないような気がします。
カレーの世界でもインド行くのがある種の通過儀礼のような、資格のような、何なのでしょう?そして勝手にインドを取り合うのです。

ところで、私はまあまあしっかりラグビーやってた人間で、ラグビーの強豪国であるニュージーランドに遠征したこともあります。だけど、ラグビー発祥の地イングランドのラグビー校に行ってエリス少年の銅像の前で写真を撮りたいとは思いません。そりゃあ行く機会があれば別ですし、スタジアムでラグビー観戦もしたいです。ですが、私の周囲のラグビー関係者をを含めてもわざわざラグビーを海外まで観に行ってる人もなかなかいないですし、遠征強化試合とか留学する人もそんなにいません。サッカーなら割とそういう人もいるのかな?プレーヤー視点とファン視点でも違うんでしょうし、やっぱりファンの方がスタジアム試合をよく観に行くと思います。

それでも一度だけ行ったニュージーランドはとても良かったです。たった2週間の滞在ですが。
ラグビーを国技とする国で、子供はラグビーチップスのラグビーカードをみんな集めていて、田んぼで裸足でラグビーやって遊んでいます。あの本場の空気感は行かないと味わえないし、あれがあったから、青春時代を全てラグビーに捧げられたのだと思っています。だから、たぶんそんなにカレーが好きならインドにはきっと行くべきなんです。価値観変わるから、感動したから。

だから、私が知り得る限りでカレーに最も純粋な人で、みんなが認める水野仁輔さんに聞いてみたかったんです。

「インド行った回数とかでヒエラルキーのマウントの取り合いになるのをよく見るんですが、私も行ってみたいと思ってるんですけど、ぶっちゃけインド行ったら何が変わるんですか?」

若干インド行った人にマウントを取られるのが嫌なんですけど、 インド行ったから何なんですか?みたいに取られちゃった気がしますが、(だからかなり際どく攻めた質問になってしまったようなw)むしろ人をそうさせてしまうインドって何なんですか?というのが質問の趣旨であって、私はそのマウントの取り合いが面白いなと思っているというのを、これだけダラダラ書いてきたわけです。

さて、水野さんもガネさんも経験だとか、技術であるとか、学ぶべきことがインドにはまだまだたくさんあるし、インド自体も変わり続けているし、といろいろ考えながら答えていただいたんですが、私的理解では、水野さんはインドが好きであると同時にインドという鉱脈はまだまだ掘れる、採取できる、発見できる、際限が無いと思っているんじゃないかなと思いました。そして、インド愛だけでなく、情熱や理念、宗教まで含めた理屈で殴るみたいな。ガネさんもプロの料理人だから、純粋に俺のカレーを作るためにインドの経験が必要だったんだと、これもまた非常に純粋。

「とにかくインドはそれだけ魅力的なんですよ、誰もがインドを所有したがるくらいに。」

「海外旅行で遊ぶならフランスに行きたい、でもインドには10年後でも20年後でも必ず毎年行く。」

そう言った水野さん。

その目は真っ直ぐカレーに愛を注ぐ眼差しでした。

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