【短編小説】ぼくはヒーロー⓵

――20XX年

世界には「害獣」と呼ばれる、恐ろしい見た目をした化け物が突如町中に発生する現象が起きていた。

原因は不明のまま、当初は警察・自衛隊が協力してなんとか撃退していたが、化け物が現れたからといって通常で起きる犯罪が減る訳でもなく、徐々に深刻な人手不足に陥っていた。

そこで政府は新たに「害獣」を専門とした部隊を結成させることを決め

その害獣撃退専門部隊を「ヒーロー」と名付けた。


この国に「ヒーロー」が誕生してから早20年。

いつしかそれは、誰もが憧れる職業へと変わっていた。

「ヒーロー」になるためにはもちろん試験に合格しなければならない。

また、試験を受ける権利を獲得しなければならない。

試験を受ける権利を獲得する条件は3つ。

一つ目は、中学と高校で行われる体力測定・学力検査で優秀な成績を収めること。

二つ目は、高校生までに何らかの形で国から感謝状をもらえるような行いをすること。

三つ目は、性格検査に異常性がない事。

これらをクリアして、初めてヒーローを目指すことが出来るのだった。



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「・・・クソ。やっぱデマだったか。」

俺はカメラを抱えていた右手をおろし、おおきくのびをした。

長時間こんな茂みの中で窮屈な体勢をしていたせいか、身体の色んな箇所からパキッと音が鳴る。

一週間ほど前、この小さな公園で深夜2時頃、担当カラーが青の「ヒーロー」がよく休憩をとっているというタレコミを手に入れたため、ここ数日ひたすら身を潜めシャッターチャンスを狙っていたがこの公園には人ひとりとして現れなかった。


鈴木誠二(すずきせいじ) 26歳

昔の夢はヒーローになることだったが、今はこうして底辺フリーライターをやっている。

俺の書く記事といえば、

「ヒーローレッド、勤務中信号無視か?!」

「ヒーローピンクの元交際相手が暴露!!意外な趣味とは!?」

といったヒーローに関するゴシップ記事ばかりだった。

「ヒーロー」になった者は一応個人情報を極力漏れないよう、政府が配慮しているとのことだが、

今のネット社会、すべての情報を遮断することは到底不可能だ。

よって、そのちょっとした情報を頼りにこのような記事を書き、儲けを得ている人は少なくはない。

みんなの憧れのヒーロー、裏の顔が気になる人は沢山いる。

表面ではみな、「ヒーロー」のことを詮索してはいけないと言ってはいるけれど

俺の書いた記事をほしがる人の人数からすると、人間っていうのは好奇心には勝てないなと感じる。

俺自身も、自分がなることが出来なかったヒーローに対しては良い意味でも、悪い意味でも非常に興味があるからこそ、この仕事を始めたのだ。

もちろん、この情報社会で正確な情報を見つけ出すことは中々難しい。

誰かの目撃情報を信じて現場に張り込みすることもあれば

嘘の情報だと判断してスルーすることもある。

この判断が間違っていることもあれば、成功して面白いネタを得ることもできる。

僅かな情報に望みをかけて一日中張り込むことなんて日常茶飯事だ。

しかし、今日のはガセだったかもな・・・。

幸い、少し暖かくなってきた季節なので凍え死ぬことはないが

毎日深夜に長時間ここにいるのも厳しくなっていた。

人通りの少ないさびれた公園だ。

道路も狭いため車で張り込むことも出来ず、こうして目立たぬよう黒い服を着て茂みにいるが

そろそろ近隣の住民が不審者がいるとして、警察に通報するかもしれない。

また、日をあらためて来たほうがいいだろうか。

しかし、俺の知らないうちにブルーの奴が、俺の存在に気付いていた場合

奴はもう、しばらくこの公園を利用することはないだろう。

そうなっていたとしたら、ますますここにいる意味がなくなる。

「・・・帰るか。」

俺は、もう一度情報を調べなおし、場合によってはあきらめる方向へ考えをシフトしていた。

ポケットに入っている携帯を取り出し、情報をくれた相方に連絡する。

『今日も全く収穫なし、一度撤退するわ。諦めた方がいいかも』

相方にメッセージを送信してから、コートのポケットに入っているタバコを取り出す。

ライターを内ポケットから取り出そうとした時、

ツルっと手を滑らせてライターが地面に転がった。

手を伸ばそうとしたが、先に足がぶつかってしまい、

100円ライターは勢い良く遠くへ飛ばされてしまった。

「ああ、もう、クッソ。今日はついてねえな。」

誰もいないことをいいことに、ちょっと大きめの声を出してしまった。

一瞬、ライターを放置して帰ろうかとも思ったが、ため息をついた後、ゆっくりと拾いに向かった。

俺も一度はヒーローを目指した端くれだ。ポイ捨てするのは抵抗がある。

ゆっくり手を伸ばす先に、違う人の影が映った。

驚いて顔をあげると、そこには20代前半のさわやかな顔をした高身長の男が立っていた。

「こんばんは、こんな遅くにご苦労様です。鈴木誠二さん」

男は俺のライターを拾って渡してくる。

「っえ」

「あなたも中々、根性ありますね。はじめまして、ヒーローブルーです」

月夜に照らされた男の顔は妙に美しかった。


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②は明日公開します。









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