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Photo by
nicimurayuko
【嘘】壁
近所のショッピングモールで、壁面に買い物客がそれぞれ適当に落書きをしていき、それ全体が一つの芸術作品になる、といったイベント企画が催されていた。
へんてこりんな落書きが殆どの中、やたらと上手な絵が紛れ込んでいたりと、なかなか面白い壁になっていた。
しばらくして、一人の小学生の高学年か中学生くらいの男の子がじっと壁の絵を見ていたかと思うと、その真ん中にすっと小さな真っ黒の丸を描いて去っていった。
黒い丸は異様な存在感を放っており、目を離せなくなった。
そしてそのまま、黒いボールペンを手に取り、真っ黒の丸をなぞるように描いてしまった。
ぐりぐりぐりぐりと丸を描いてしまった。
はと我に帰り、慌ててそこから立ち去った。
家に帰った後も、あのごちゃごちゃな壁に描かれた小さな真っ黒の丸の事が気になった。あれはなんだったのだろう。
翌日もショッピングモールへと足を運んだ。まだそのイベント企画は開催されていた。しかし今日その壁を見ると、真ん中から中心に渦を巻いて黒く塗りつぶされていた。
巨大な真っ黒の丸になっていた。
道行く人は落書きをせずに、吸い込まれるようにその真っ黒の丸のうえをなぞるように書き、そうして少しずつ大きくなっていったのだとわかる。
真っ黒な壁は一つの芸術作品として既に完成されていた。
ありがとう