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女優・中谷美紀さんのこと

□もうかなり前のことになります。NHK特別ドラマの撮影現場でした。伊勢谷友介さんが、白洲次郎《しらすじろう》役。円テーブルの正面に、なぜか、わたしが座っていました。
 わたしの左隣にアメリカ人の方。わたしの右隣に、白洲次郎の奥さんのお父さん役の俳優さん(有名な方です、名前ど忘れ、おゆるし)。
 わたしは外交官?の役?。
 せりふなし。
 三人が喋っているところに、白洲次郎がやってきて、わたしの右隣の俳優さんに、
『お嬢さんと結婚させてください』
と、伊勢谷さんがいうシーンの撮影でした。
 テスト撮りが終わると、監督さん(テレビドラマの場合は“演出”というフレーズを好んで使いますね)がやってきて、わたしに
『もっと驚いて!大げさでいいから!!!!』
とダメ出しされました。

 伊勢谷さんのセリフは日本語ではなく、英語でした。ですから、わたしも、
『おー、マイ、ガー』と、左隣りのアメリカ人の方と顔を見合わせ、大げさに驚きました。『オー、マイ・ガンダム』と言ったかも(*^^)v

 放映楽しみにしていたのに、そのシーン全部カットされちゃってました、残念無念(-_-#)

□さて、白洲次郎の奥さん役が、女優の中谷美紀さんでした。
 当時、わたしは創作のネタづくりのために、映画やドラマのエキストラをしていました。

 ドラマの撮影現場は、いつもワクワクします。それに、ちょっとしたハプニングがあるから面白いし、とても勉強になりました。
 もっとも撮影スタッフはそれどころじゃないはずでしょうが、現場に入るたびにドキドキしました。雰囲気、スタッフ同士の会話、監督の表情、カメラワークなど、その場にいるだけで、勉強になりました。
 勉強……というのは、撮影現場で殺人事件発生、容疑者に間違えられた主人公が謎に挑戦……という長篇サスペンス(=よくあるネタですけど)を書くつもりの取材の意味でエキストラを数年やっていたのでした。

□さて、昭和初期という時代設定。
 撮影の合間に、中谷美紀さんと監督さんが机をはさんで、ふたりきりで真剣に話されておりました。

 机の上には、ついさっき撮影に使った葉巻が大きなアルミ製灰皿の上にいっぱい。火がついたままの葉巻があったのか、吸い殻に燃え移って煙がモクモクとあがっていました。

 ところが、監督さんは一向に構うことなく、前を向いて喋り続けています。
 一方、中谷美紀さんは、煙たいでしょうに、手で煙を払おうともせずに、監督さんの話を真剣に聴いている様子でした。
 さすがです。
 で、わたしは、とことこと机に近づいて、煙もうもうの灰皿を取り上げ、さっと、別の場所で吸い殻を捨て、戻って、机に灰皿を戻したのでした……。

 で、監督さんとの打ち合わせが終わった中谷美紀さんは、な、なんと、大勢エキストラいるほうを見て、いきなり歩み寄ってきて、ちらりとわたしを探し出し、目の前に……。
 そして、わたしに一言……。

『……さきほどは、どうも、ありがとうございました』 

 と、わたしに向かってピョコンとおじぎをしてくれました。

『と、とんでもございません』
と、返すのが精一杯で、わたしは感動の渦の中にいました。
 ひゃあ、日本を代表する女優さんが、こんなに謙虚だなんて……。
 それ以降、ファンになりました(それまでは、違う女優さん推しでしたのに)(^_^)

 人間、功なり名を遂げてから、その人の本当の価値がわかるということでしょうか。
 〈人間力〉は、死ぬまで学び続けなければ、ということでしょうか。
 いずれにせよ、人を心地よくさせる人は、すばらしいですね。
  
                 👣👣



                 

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