あまい夢を見た高校の祭り

高校1年生の文化祭の日だったと思う。ステージの上で「ギター」をかき鳴らしている友人のかっこいい姿と、それを見ている女子がキャーキャー言っている状況を目の当たりにして、ぼくはギターを弾きたいと思った。

あのステージで演奏したい。大好きなアジカンの曲をじぶんの手で鳴らしたい。毎日聴いているあの曲を、あのステージで響かせたい。

あのステージで演奏したい。この冴えない日々からおさらばだ。女子に注目されたい。モテたい。彼女が欲しい。

ネット通販で安いギターを購入した。安いと言っても、当時のぼくにとっては大金だった。ぼくは演奏したかった。音を鳴らしたかった。毎月のお小遣いと、お年玉貯金から購入することにした。

しばらくして、赤いギターが届いた。小さいアンプも、コードも、絃もすべてが新しくて、新しい世界にすごくワクワクした。こうやってチューニングするのか、あ、絃がきれた。こうやって右手を動かすのか。憧れのアジカンやテレビでよく見るギタリストを頭の中に浮かべて、ぼくはまるで大観衆の前でこぶしを上げているような感覚になった。

が、音が鳴らない。全然鳴らない。まったく鳴らない。左手が、左手の指がまったくいうことを聞かない。絃のあとがついて、変に痛い。右手で左指を指定の場所に動かすのだが、すぐにずれる。左手、言うことを聞かない。じぶんの身体が自分のものではないみたいだった。

結局いくつかのコードをおさえられるようになったが、どうしてもFのコードが押さえられなくて、いつしかギターは部屋の飾りになってしまった。

つぎの年、結局ギターを続けなかった負い目もあって、ステージには近づけなかった。

あのころの、青い気持ちを鳴らしてみたかったな。
#文化祭の思い出

読んでいただき、ありがとうございます!とっても嬉しいです。 いただいたサポートは、読書と映画に使いたいと思います。