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人生は3手詰で出来ている

こんなエントリを読みました(バズってた)。

いろいろモヤッとしたところはあるのですが(ビジネスサイドでもMTVで活躍している日本のGooglerなんて一杯いるとか)、それはこのエントリでは置いておいて「田舎初段」について、ちょっと思うところを書こうと思います。


田舎初段とは

この方は、筋よく指す有段者から見ると弱いけど、素人には勝てる、というような将棋指しのことを差して使っているようです。

元エントリでは悪しざまに言われていますが、初段って結構強いんですよ。そもそも、素人と初段よりも遥か下、級位者(3-4級くらい)の間でも、相当の差があります。

級位者と駒の動かし方を知っている程度の素人なら、10回やって9回は勝つはずです。


例を上げましょう。3手詰め、というものがあります。

例えばこういう詰将棋。ある程度将棋を指したことがある人なら一度は目にしたことがある有名な詰将棋です。

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級位者以上なら一瞬で解けるし、駒の動かし方を知っている程度の大多数の人は多分何時間考えてもわからないかもしれません。

面白いのは、この局面になってしまえば、羽生九段が指そうが、藤井聡太二冠さんが指そうが、アマ級位者が指そうが、アマ級位者が指そうが、指す手は変わらない(▲5二角成)ということです。

しかも、これは「指せば勝てる手」であり、価値が高いのです。

つまり、むちゃくちゃ価値の高い手、羽生さんや藤井さんと同じ手を、少し勉強するだけで、指せちゃうわけです。


藤井聡太二冠さんが松尾歩八段相手に差した「▲4一銀」は「神の一手」として話題になりましたが、その「▲4一銀」よりも、この局面の5二角成のほうが、一手の価値としては高いです。

なんせ、指せば勝てる手ですから。これ以上の手はありません。


競技としての将棋、という側面を考えたときには、希少性が高い手を指すことが重要です。なぜなら、競技としての将棋はお互いに一定以上の技量を持ったもの同士で成立しているので、「3手詰めが指せるか」で勝負は決まらないからです。しかし、これはあくまで限られたケースであり、人生の勝負はもっとオープンです。

限定されたシチュエーションを除けば「3手詰を知っているか」ということは、結構人生を分けるんじゃないか、ということです。

希少性は自分が属するコミュニティによって変わります。そして、希少性と価値は必ずしも比例しません。

プロの将棋棋士であれば3手詰めが解けるということには何の価値もありません。しかし、世の中の多くの場面において、「3手詰めを解ける程度の能力」は、大きな武器になります。


日本で生まれ、日本語話者の両親のもとで育った人間が日本語を話せることは、少なくとも日本で住む限りは希少性はありません。しかし、タイの観光地で旅行客相手に働く売り子にとっては、日本語を話せることは非常に大きな意味を持つかもしれません。

ネイティブの英語話者と比べるレベルでなくても、日本人が英語を「多少なりとも」話せることと、全く話せないことの間には、大きな差が生まれます。

もっと卑近な例を出せば、日本人にとって馴染みのない言語、例えばスペイン語の単語を10個知っているだけで、スペイン旅行は結構楽しいものになったりします。


プログラミングと課題解決

ビジネスサイドで勤務している時、暇を見てGoogle Apps Scriptでツールを作ってました。Googleのソフトウェアエンジニアであれば10倍効率のいいコードを10分の1の時間で書けたかもしれませんが、残念ながらエンジニアはもっと難しい問題に取り組んでいて、そんな程度の低いことはやってくれません。私がやるしかなかったのです。

でも、私の作ったツールはグローバルに使われました。それは実際に、私が感じていた課題だったからです。本当に大したことのないツールなんですが、随分感謝されました。
マウンテンビューの本社やシンガポール支社に行ったときは全然会ったことのないGooglerからお誘いを頂いて飯も食いました。

ソフトウェアエンジニアからすれば私のコーディング力など庭に生えたヘチマのようなもので、大した意味がないかもしれませんが、目の前の課題を解決するのにスーパーマンである必要は必ずしもないのです。

古今東西のあらゆるJavaScriptフレームワークを理解していなくても、jQueryのちょっとしたコードで見栄えを良くするだけで、Webサイトは随分お客さんにとって使いやすいものになったりします。

なんなら、Wordpressをセットアップしてプラグインを入れられるだけですごいです。ExcelのVBAだってすごい。Chrome Extension を作れるなんて神。

私は職業エンジニアではなくてあくまでマーケターなので、エンジニアコミュニティのことはわかりません。

でも「3手詰くらいのちょっとしたこと」で解決できて、しかも誰にでも喜ばれる課題は、世の中に随分あるような気がします。


本当のプロから見ればだいたい同じ

私はプロ棋士を何人も知っていますが、本当のプロというのは「田舎初段」というような言い方はしません。なぜなら、初段になるのはむちゃくちゃ難しいことを知っているからです。

よく本に書かれているような「誰でも初段になれる」という言い方は間違ってはいないですが、本当にやる気になってちゃんと勉強して、強くなろうとという意思を持って継続的に取り組む人は希少です。


そもそも、プロの目からすれば初段だろうが、6級だろうが4段だろうが、そんなに大した差は有りません。プロとアマの差というのは大きすぎて、よほどのレベルにならない限りは誤差と言ってもいいからです。

アマにとって重要なのは将棋が楽しめるかであって、その目的はトーナメントプロとは全く異なります。


Googleに入るのは簡単?

「Google に入るのは簡単」という言説は、ある種の人にとってはそうであることを否定するものでは有りませんが、それは「幼稚園の頃から将棋を始めて、気がついたら10歳でアマ5段になっていた」というようなもので、社会人になってから将棋を覚えて初段に上がるものと比較できるわけではありません。

だからといって、初段は馬鹿にしたもんじゃありません。初段はめちゃくちゃすごいです。初段までいなくても、3手詰を解けるだけで将棋はすごく楽しくなります。

仕事においても、おおむね重要なことは、あなたにアサインされた、あなたが解決すべき課題を解決することであって、世界中に存在する、あなたの課題を解決する責任も意欲もない人と比べて自分の能力が優っているか劣っているかを比較することでは有りません。

胸張って、少しでもいいから学んでいきましょう。

中国語、ずっと勉強しているのに中々上達しません。ビジネスレベルなんて死ぬまでに達成できなそうです。

でも、この間池袋の日本語を話せない店員さんに中国語で注文したとき、拙い発音でも笑顔で応えてくれました。そんなレベルでも、意外と悪くないもんです。

励みになります!これからも頑張ります。