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林晃汰の低迷についての考察

昨年、小園海斗や坂倉将吾に代表されるように、多くの若手が飛躍を遂げたのは記憶に新しいところかと思います。
彼らは今年もチームの主力として一軍の舞台に立ち続けてますが、その一方でいまだ一軍昇格すら果たせず、二軍で苦しみ抜いている男がいます。
それが林晃汰です。

昨年は堂林翔太以来となる高卒3年目以内での二桁本塁打を記録するなど、102試合に出場し3Bのレギュラーに最も近い位置まで一気に上り詰めました。
しかし、今年は2月の一軍キャンプから精彩を欠き、開幕前には二軍降格。
その後も二軍戦では僅か1本塁打と、全く持ち味を発揮出来ていない日々が続いているようです。

そんな林がなぜここまでの不振に陥ってしまったのかという点について、主にデータ面から解き明かしていこうと思います。

1.なぜ長打が出ないのか?

林というと、昨年一軍で10本塁打放ったように長距離砲として期待される選手ですが、今年は先述のように二軍でも僅か1本塁打と、思ったように長打力を発揮出来ていません。
なぜ二軍ですら本塁打が出なくなってしまっているのでしょうか?

まず大前提として本塁打を打つのに必要な条件として考えられるのが、一定以上の打球速度と適切な打球角度になってきます。

MLBデータが基なのでNPBのものと多少の差異はあるのでしょうが、Namikiさんのこちらの記事によると、本塁打を放つには最低でも150㎞後半の打球速度に30°近い打球角度が必要なことが分かります(所謂バレルゾーン)。

ということで、林の長打力低下について打球速度と打球角度の観点から、考察していこうと思います。

ただNPBでは打球速度や打球角度のトラッキングデータは公開されていません。
ですので、その代用として打球速度は打球の強さを示す指標(Hard%/Mid%/Soft%)打球角度はフライ率を用いていきます。

昨年の一軍成績と二軍成績、そして今年の二軍成績を比較したものが、上記表となります。
これを見ると、フライ率はほぼ横ばいで打球角度が大きく変わった様子はなく、打球の強さという点でもHard%自体は昨年の二軍成績から8%も上昇しており、決して放つ打球が極端に弱くなったとも言えなさそうです。
では、何が本塁打を大幅に減らした要因なのでしょうか?

それを考えるために、打球がフライとなった際の成績の変化を追ってみます。

まずは単純なフライ打球の成績を比べてみますが、今年は前年比でOPSが半減、ISOも1/3以下になっているように、明らかに成績は低迷してしまっています。
林の長打力低下はこの辺りに大きな要因があると考えられそうです。

このフライ打球における打球の強さを見ると一目瞭然ですが、Hard%が大幅に低下し、Soft%も大幅に増加してしまっています。
要するに、本塁打に必要な打球速度を満たしたフライを打てていないということです。

加えて引っ張れはしないものの、センター方向には打てていたフライの打球方向も、逆方向に飛んでしまうケース(Oppo%)が大幅に増加していることも見えてきます。
これが何を意味するのか考えてみると、立ち遅れるor差し込まれるが故に逆方向に弱いフライばかり飛ぶようになってしまっているのではないかということです。

逆方向打球という観点で見ると、昨年の二軍では16打席のみのため参考程度となりますが、昨年の一軍成績と今年の二軍成績を比べると、極端にフライが上がるケースが増えており、Hard%は10%以上減、Soft%は20%以上増と明らかに弱い打球も増えてしまっています
逆方向にも本塁打を打てるのが林の特徴でしたが、今年の関してはその逆方向に強いフライを打てていないと言えそうです。

以上より、①打球速度十分なフライを打てていない②逆方向への打球角度は上がっているものの、打球速度が不十分な差し込まれたようなフライが増えている、の2点が林の本塁打減の要因と考えられます。

2.なぜ根本的な打撃成績も低下しているのか?

これまでは本塁打という点にフォーカスしていきましたが、長打に限らずそもそもの打率や三振率といった成績も、高卒ルーキーだった2019年よりも悪化してしまっています。
そこそこ率が残せてタイプの割に三振の少なさも林のウリでしたが、なぜこの辺りまでおかしくなってしまったのでしょうか?

2-1.打率の低下

各球種を速球系(ストレート、シュート系)、曲がる系(カット、スライダー、カーブ系)、落ちる系(フォーク、チェンジアップ系)の3種類に分けた、球種タイプ別成績を出してみました。
今年はどの球種タイプも成績が低迷していますが、とりわけ変化が見えるのは、昨年一軍で打率.262を記録した曲がる系、落ちる系といった変化球に対する対応の部分です。

曲がる系、落ちる系どちらについても、昨年の一軍、二軍と比べると打率は大きく低下してしまっていますが、それに加えて共通しているのがContact%の低下になります。
どちらも昨年の一軍時よりも低い数値となってしまっており、レベルの落ちる二軍レベルの変化球に対しても、しっかりコンタクト出来ていません。
これは後続の三振の増加にも大きく関連する部分ですが、打率という点に関してもバットに当てて前に飛ばせるかどうかはある程度重要な部分のため、この変化球へのコンタクト力の低下も打率低下に結び付いているのでしょう。

※全て投手目線

コース別の成績についてはどのような変化を見せているのでしょうか?
外から回ってくるスイング軌道が故に、昨年は一軍、二軍ともに真ん中から外のボールに対して特に強さを発揮していました。
逆に内のボールには詰まりやすく、低めに対して角度を付けられないことやボール球にバットが止まらないことから、内角や低めには脆さを見せていた格好でした。

それと今年を比較してみると一目瞭然ですが、得意だった外のボールに対してどのゾーンを見ても打率が2割にも満たない成績となっています。
それに加えて、内角や低めに対する脆さは変わっていないのですから、弱みは残して強みが消えてしまう最悪の形となってしまいました。
先述のように、逆方向の打球が弱くなっているのも、このような成績となってしまっている一因なのでしょう。

2-2.三振の増加

三振の増加の要因として考えられるのは、①2ストライクまで達する打席の増加、②2ストライクアプローチの悪化、といった点が考えられます。
この2点について、林はどのような変化を見せているのでしょうか?

まず①の2ストライクまで達する打席の増加という部分になりますが、ストライクボールカウント別の被投球割合から読み解いていこうと思います。

こちらが被投球割合をまとめたものになりますが、2ストライクまで至った打席は昨年の一軍時が最も高いことが分かります。
ただ二軍内の比較という観点で見ると、昨年と今年で2ストライク時の割合は5.2%の増加が見られます。
単純に考えて、追い込まれた状態での打席が増えるほど三振の数も増加していくでしょうから、2ストライク時の割合の増加が三振増に寄与していると考えられます。

続いて2ストライクアプローチの部分になります。
これに関しては、2ストライク以前と以後でどのような変化を見せたのかについて見ていこうと思います。

今年特徴的なのは、2ストライク以後のスイング率が60.7%と、あまりスイングを仕掛けなくなっているところになります。
それが故にゾーン内での見逃しも増えてしまっています。
加えてコンタクト率の低さも気になるところです。
昨年一軍時と大差はありませんが、二軍時で比べると8.4%の低下が見られます。
以上より、追い込まれるとバットが出てこないケースが増え、スイング仕掛けてもバットに当たらないケースも増えていることから、2ストライクアプローチは悪化していると言えるでしょう。

3.まとめ

以上のように、データ面から今季の林の低迷について紐解いていきました。

1.長打力の低下
①打球速度十分なフライを打てていない
②逆方向への打球角度は上がっているものの、打球速度が不十分な差し込まれたようなフライが増えている

2.諸々指標の低下
2-1.打率の低下
①変化球へのコンタクトの悪化
②得意だった外のボールへの対応力の悪化
2-2.三振率の悪化
①2ストライクまで至る打席の増加
②追い込まれると振れず、バットにも当たらないといったアプローチの悪化

なかなかポジティブな要素がなく、非常に苦戦している様子が伝わってきますが、直近では少しずつ光が見え始めているようです。

月別の成績を確認してみると、まだ本調子とはいえないながら、7月は打率やOPSで今季最高の数値を記録していることが分かります。

直近の二軍戦でも、「しっかり整理して打席に入れている」と状態の良さを実感しているようです。
その後コロナ感染もあって、良い感覚が抜けてしまってる可能性もありますが、ここからの更なる巻き返しに期待したいところです。

また3Bは本職でない坂倉がレギュラー格に収まっているように、非常に層の薄いポジションとなってしまっています。
捕手として球界屈指の貢献量を見込める坂倉を、将来的に捕手に専念させるためにも、林が3Bに収まるかどうかは非常に重要となってくるでしょう。
今年は大きな壁にぶち当たってしまいましたが、これを乗り越え、チームの主軸として末永く広島を支える存在になってもらうことを期待しています。

データ参照


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