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学校のトイレでウンコが出来なかった話。
小学生の頃、
登校前の朝の時間が、めちゃめちゃ苦痛だった。
いや、そりゃあ、まあ、
「学校に行きたくない」
という気持ちは、人並みにはあったけれど、
ボクを悩ませていたのは、それとは別の、
ある「ルーティーン」だった。
それは――
トイレでウンコをすること。
……。
冒頭から汚い話で申し訳ない。
でも、
これからずっとウンコの話をすることになるので、
お食事中の方、下ネタが苦手な方はブラウザバックを。
というわけで、ウンコである。
小学生男子が好きなものの2大巨頭である、
「ウンコ&チンチン」コンビのウンコの方である。
ボクも例にもれず、大好きなワードではあったのだけれど、
この「朝のウンコタイム」だけは、本当に地獄だった。
腸なんてものは、その日によって調子があるのものだ。(腸だけに!)
前の日に何を食べたのかによって、フレキシブルに変わってくる。
そのため、腸内のウンコが、
スルッと出撃することもあれば、なかなか出ないこともある。
まあ、勝率で言えば、
8割の確率では出ていたのだけれど、問題は、残りの2割だったときだ。
「朝、学校へ行く前にウンコが出ない」
ということは、
「学校にいる間に、ウンコしたくなる確率が高くなる」
ということ。
ボクと同世代の方なら、
みなまで言わずとも、分かっていただけると思う。
学校でウンコをすること、それすなわち死である。
実際に、命を取られるワケではないものの、
社会的な死が、確実に待っているのである。
小学生でも、小学生なりに「社会」というものがあり、
そこに適応して生きていかなければならないのだ。
具体的には、
学校のトイレでウンコをしていることが、クラスメートにバレると、
個室の中に水を入れらたり、イタズラされた挙げ句――
その日から、あだ名が「ウンコマン」になる。
「人の噂も七十五日」なんて、ことわざもあるけれど、
大人と子どもでは時間の流れが圧倒的に違う。
小学生にとっての75日は、もはや永遠だ。
永遠に、あだ名が「ウンコマン」になるのである。
これが社会的「死」でなくて、なんだと言うのか……!
なので、文字通り、
「決死のウンコタイム」なのである。
この10分間でウンコで出るのと出ないのとでは、
その後の人生を大きく左右するのである。
時計の秒針を目で追いながらのデッド・オア・アライブ。
それは、中学生になっても続いていた。
◇
世の女性に皆様は、
「いや、中学生になったら流石に……」
と思うかもしれない。
だが、悲しいかな、
中学生男子なんて、基本中身は小学生。
アホなのである。
しかも、
体格が大きくなって、できることが増えている分、
その厄介さはパワーアップしていると言ってもいいだろう。
それゆえ、
思春期に入っての「ウンコマン」だけは、絶対に避けなくてはならない。
もっとも、
中学生の時点で、ボクのあだ名は「アナルマン」だったので、
「アナル」が「ウンコ」に変わるだけなのだけれど。
それでも、お尻周りのあだ名を2つもゲットしたくはないし、
合体して「アナルウンコマン」にクラスチェンジしないとも限らない。
アナルウンコマンって、なんだよ……。
むしろ、アナル以外からウンコしねぇだろ……。
などという理屈は通らない。
それが中学生男子なのである。
ちなみに、「アナルマン」を襲名したきっかけは、
ボクはこの頃から痔を患っており、
病院に行って直腸検査をされた、ということを友だちに話したら、
一瞬でクラス中に広まったからだ。
(つまりは、友だちだと思っていたのはボクだけだった、
という悲しい話なのだけれど、それはまた別のお話)
そんなワケで、
朝は相変わらずの「地獄のトイレタイム」である。
そして、学校では、
「頼むから、ウンコしたくならないでくれ……」
と祈る毎日。
しかし、
ついに「そのとき」はやってきてしまった。
ある日の授業中、猛烈な腹痛に襲われたのだ。
時間は、2時間目か3時間目だったか……
とにかく、放課後までガマンするには不可能な時間帯だった。
(次の休み時間、トイレにいかなければ……)
そう思うと、目の前が真っ暗になった。
授業なんて上の空で、先生の言葉がひとつも頭に入らない。
(どうする、どうする……)
(イヤ、どうするもこうするも、
トイレに行く以外ないじゃないか……!)
(ああ……でも、ウンコマンはイヤだ、
アナルウンコマンは絶対に避けたい……!)
(イヤだイヤだイヤだ……!)
真に追い込まれたとき、人は己の限界を超えるという。
完全にゾーンに入っていたボクは、
それまで思いもつかなかったような解決策を閃いた。
そうだ、
学校のトイレでウンコできないのなら――
家に帰れば良いじゃん。
つまるところ、「早退」するのである。
(なんでこんなつまらないことで悩んでいたのだろう)
(社会的な死のリスクを追いながら、
学校で真面目に授業を受け続けるなんて、アホらしい)
(こんなバカな社会に付き合う必要なんて、まるでないのだ)
そこからのボクは、ホントにすごかった。
「イタタタ……!!!! 腹が……腹が……!!!」
ミスター・サタンもビックリの演技力で、保健室へ急行。
保健の先生に、
「じゃあベットで横になって様子を……」
と言われるも、全力で断り――
「いえ! ホント、そういうレベルじゃないんです!
あ〜……イタタタ……! これはもう、早退するしか!」
早退を勝ち取るために、ボクは全身全霊で演技をした。
いや、お腹が痛いのは本当なので、全部が演技ではないにしても、
ボクは生まれて始めて、真剣に演技をした。
これから10年もしないうちに、
ボクは俳優になり、何ステージも舞台に立ったのだけれど、
このときほど真剣に演技をしたことはなかった、
と言っても過言ではないだろう。(過言だよ!)
この演技が真に迫っていたのか、
はたまた、普段の優等生ぶりが功を奏したのか――
(おそらく後者だろうけれど)
多少、いぶかしがられたものの、
ボクはこうして、早退を勝ち取ったのである。
◇
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