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ストレンジャーによろしく

また懐かしい響きだなあ、と思ったんです。展覧会の告知tweetを目にしたときは。
というのも同名の展覧会を過去に名古屋で見ているんですね。調べてみたら2015年開催ということで、もう6年も前の話になります。ただ、正確には名古屋が2回めで、初回は2014年に群馬県太田市で行われたそうです。

そして3回めとなる展覧会が今年、金沢で行われることになりました。しかも、名古屋のときは市民ギャラリー矢田が会場だったのですが、今回は街なかへと飛び出して広場や使われていないビルが会場になると知り興味を持ちました。
これまで金沢にはたびたび展示を見に行っていたのですが、行く場所と言えば21世紀美術館とその周辺、香林坊の交差点の辺りとか、あとはせいぜい近江町市場ぐらいで、金沢駅すらもう何年も立ち寄っていないという有様で、かなり限定されていたのですね。それが昨年〜今年にかけて芸宿や彗星倶楽部といった(中心部からはちょっと離れた)アートスペースに行くことによって、少しずつ金沢という街が自分のなかでくっきりとした輪郭を持ちはじめるようになってきました。
今回のこの「ストよろ」で更に金沢という街をより知れたらいいなと思いながら足を運びました。

各会場に入るにはチケットが必要ということで、まずはチケットの販売所である金沢アートグミに向かいました。

展示スペースには谷口洸「Wave after Wave」。

さて、チケットとマップをゲットしたので出発します。

意気揚々と出発した矢先に道に迷ったりしつつまずは横安江町広場に到着。
いきなりスケールの大きい作品に出くわしました。

深田拓哉「ここはぼくたちのもの(そしてそうじゃない)」。
吊り下げられている「売地」の看板は、正面からだと分かりづらいですが、大理石でできています。いきなりクレイジーだ。
「売地」と書いてあるせいでこの広場が売地だと誤解されるのでは、と金沢市にクレームが入ったのだそう。

そのため急遽「SOLD OUT」の文字を「売地」の文字の上に取り付けたのだとか。
看板に書かれている「03」の市外局番ではじまる電話番号は作家の実家のものらしく、電話はかけないでください、という注意書きも(画像はモザイク処理をかけました)。
他にも道路に書かれている右折の矢印と「止まれ」の文字を鉄で作った作品も。

こういう作品、大好き。かなりぶっ飛んでいますね。
この文章を書くためにリサーチしていたら、今年の「群馬青年ビエンナーレ」(群馬県立近代美術館)に入選されていたことを知りました。慌てて調べたら確かに見覚えがありました。

飛び出し坊やをモチーフにした作品「忘れられたモノたちに」。私も群馬篇の記事できちんと紹介していました。
実家は東京にあるそうですが、今は金沢美術工芸大学で学ばれているという深田さん。今後どんな作品を作られるのか非常に楽しみです。

近江町市場から東へ少し進んだところにある石黒ビル。コンビニ跡地の気配を隠していない1階のファサードはともかく、モダンな雰囲気が漂っているビルです。

会場への入口は路地を入った側にひっそりとありました。

入るとすぐに階段が。手すりがないせいかどことなく秘密基地みたいにも感じられます。

地下には3つの部屋があって、それぞれに作品が展示されていました。
スクリプカリウ落合安奈「生まれた土地の光/招き入れる遠い大地/土に還る予感」。

高橋銑「そこから一番遠い場所」。

宮崎竜成「それは、BGM(熱の皮膚を交換する)」。

暗くてじめっとした感じがちょっと苦手で長居したくないなあ、と思っていたのですが、この石黒ビルは石黒薬局(福久屋石黒傳六商店)が所有しているもので、ここは金沢藩主の前田家から許可を受けて代々秘薬を製造していたという、由緒ある老舗中の老舗なんだそう。

スクリプカリウ落合安奈さんの展示場所は、かつて調剤室として使われていたところで、作品では秘薬のひとつ「紫雪」の製造過程で4人の作り手が息を合わせるために発せられる独特の掛け声が取り込まれています。
画像では全然分からないですが、高橋銑さんの作品は暗闇に一本の水平なラインがプロジェクターで投影されていて、宮崎竜成さんは氷が溶ける音がマイクによって大音量で部屋に響いていました。

ビルの隣の立派な建物が石黒薬局のかつての店舗だったようです。

掲げられた看板には薬の名前と思しき文字が。

ここにある5つの薬が藩の許可を得て作られていたものなんでしょうかね。
右から順に「蘇香円」(袪痰きょたん=痰を除去する、駆虫剤)、「烏犀円」(天然痘)、「耆婆万病円」(万病に効く)、「至宝丹」(痔)、そして「紫雪」(解熱剤)。スクリプカリウ落合安奈さんのハンドアウトによると「紫雪」は鑑真によって日本にもたらされたと伝えられているもので、1985年頃を最後に作られなくなったとのこと。

浅野川を越えてひがし茶屋街を横目で見つつ歩いてたどり着いた、梅の湯。

2019年11月から休業している銭湯です。
入口付近には本山ゆかり「蟹の絵」。

これまでとはまったく違う作品。タイトルは「蟹の絵」だけれどどこが蟹なのかもまったく分からない。相変わらず面白いなあ。

靴を脱いで中に入ります。

男湯女湯の脱衣所では小林美波「お前を還す方法」。キャプションに書かれた火炎瓶が何とも物騒。

浴場では磯村暖「左の鼻の音 無題の鍵盤曲 右の鼻の音」。

左右の鼻の音と作家が2007年より作・編曲している鍵盤曲を合わせたサウンドインスタレーション。これまで見てきた作品とはまったく違っていて驚きました。

入口横の休憩所みたいな小さな空間には、足立雄亮「この予定変わっちゃったんスよね〜」。

梅の湯からふたたび浅野川沿いに戻ってきました。対岸には主計町かずえまち茶屋街が見えます。

静かな住宅街といった感じの地区のなかにあるお店、欧風菓子 金沢小町。

カフェだけでなくパンやお菓子を売っていて私は塩バターパンとガレットを購入。とても美味しかったです。
店内も素敵だったのですが、2階は展示スペースになっているようで、そこでは吉川栄祐「辿れない地図」が展示されていました。

続いては石引〜小立野エリアへ。
ここにあるのが芸宿です。

101号室は多田恋一朗「ブラックアウト」。

談話室として使われている空間でしょうか。
雑然とした雰囲気の部屋の、至るところに置かれた黒いキャンバスたち。それが何とも言えない不穏な空気をもたらしています。シンプルながらすごく後を引く作品でした。

103号室のギャラリースペースでは3人の作家が展示をしていました。
堀田ゆうかさん。

國分莉佐子さん。

酒々井千里さん。

ボリューミーで美味しそうなショートケーキみたいな絵画作品もありました。

半地下のガレージでは渡辺志桜里さん。

牡蠣殻が敷き詰められた噴水。すごい。

歩いてすぐの場所にある、DAJIAという居酒屋。

ここでは布施琳太郎「別れのワープスタビライザー」。

閉店した店の内装はそのままにブラックライトで照らされて異空間へと変容しています。

ふたたび中心部へ。片町のはずれ、犀川の川岸に来ました。
交通量の多い犀川大橋のそばに安井鷹之介「夕映えの男(高山右近)」がたたずんでいました。

高山右近がキリシタン大名であることぐらいは知っていましたが、金沢に縁があったことを全然知りませんでした。秀吉が伴天連追放令を出したあと前田利家が保護して、キリシタン禁教令が出るまでの26年間金沢に滞在していたのだそうです。勉強になりました。
犀川沿いの一帯は飲み屋街になっていて、会場のソシアルレジャックビルも飲み屋が集まった雑居ビルという雰囲気の建物でした。

4階フロアはほとんどが作品展示に使われていて、これもコロナ禍が原因かと思うと、何とも複雑な気分になります。
海野林太郎「みればそうなる/はっきりとよくみえる」。

この作品は個人的にツボでした。
RPGの画面のようなカメラワーク、そして場面には必ず人がいて、その人のところまで行って格言みたいな話を聞くとその場面がクリア、みたいな。日常風景がゲーム化したようでちょっとゾクゾクしてしまいました。

内田望美「いっしょにいる、  」。

ブラインド越しに景色も見えるお洒落な空間

手紙は自由に持って帰れるようになっていたのでひとついただいてきました。

石毛健太「From August 20 8月20日から」。

モニターにはCGで再現されたこの空間が映されています。カウンターの端から端まで並んでいたバルーンが徐々に減っていき、どうやら別会場に設置されたバルーンが不慮の事故で紛失/破壊されたらここから新しいバルーンを追加するようです。

林菜穂「バード・オブ・パラダイス・フラワー」。

別のフロアでは、M集会「忙中閑有」。

エスニックな雰囲気の店内で今尾拓真さんをはじめとするメンバーが演奏するようすを空間内にいくつも映しています。
演奏が終わったタイミングで電気が点き、店内の様子が浮かびあがりました。

閉店しているようには見えない生々しさがあって、後日改めて調べてみたら、どうやらパーティーや会議などの用途で借りることも可能な喫茶店のようでした。
またそれ以前はギャラリーだったようでタイトルの「忙中閑有」はそのときの屋号のよう。作家さんのCVの展示歴にいくつか出てきて、なかにはYUKA TSURUNO GALLERYで発表している笠井麻衣子さんもいて驚きました。

飲み屋街の細い路地をしばらくさまよって木倉町広場に到着。

バルーンがちゃんと上がっていたことになぜかホッとしました。

広坂エリアに来ました。
金沢21世紀美術館のあるエリアで、会場の箔一ビルは美術館の真北というロケーション。

箔一さんは金沢金箔を扱う会社なんですが、このビルは建て替えを予定しているのか全フロアが空いていて展示に使われていました。

安井鷹之介さん。

川田龍さん。

山田悠太朗「Pieces」。

村松大毅「flat_line」。

小田陽菜乃「はぬけの窓」。

北原明峰「幽霊をさがす」。作家が滞在制作中でした。

渡邉洵「A」。

村岡佑樹「あなたはいつもそう言う」。

村岡佑樹「明後日の方向」。

屋上には神農理恵「dog run」。

薄い鉄板でできている作品なんですが、平面に見えてバグが起きているような感じ。とても面白い作品でした。
屋上からは21世紀美術館も見えました。

美術館と道路を挟んだ向かいにある金沢20世紀カフェ 喫茶おあしすというお店で、大山日歩「空壁トリップ1LDK」。

ふたたび片町に戻ってきて、社交会館という飲み屋が入っているビルの一室が会場になっていました。

MES「meltdown pt.3“birthday cake”」。

ケーキの上に立てるロウソクが単管の上に並べられています。「HAPPY BIRTHDAY」という和やかな出だしから「GOOD RIDDANCE」(厄介払いができてせいせいした!という意味みたい)とか「DEAR PATRIARCHY」(patriarchyは家父長制の意)とか不穏なフレーズも入り混じります。
映像ではロウソクに火を点けていって順番に吹き消していく様子が映されていました。

ターンテーブルの上にロウソクがケーキのように積まれています。

MESというのはアーティストユニットのようですが、Reborn Art Festivalにも参加されていましたし、これから作品を拝見する機会も増える気がしています。今後も楽しみです。

香林坊交差点から犀川大橋に続く大通り(名称はよく分からず)沿いにある石田ビル。一階は石田漆器店が入っていておそらくこのビルのオーナーなんでしょうが、階段で地下へ降りると別世界が広がっていました。

小ぢんまりとしたお店がひしめき合っています。
そのひとつのバーが会場になっていました。

ここでは「ストよろ Mini Mini Theater」と題して、ナルコ「Hund,meiner Seelen Wonne」、山内祥太「大海嘯」、副島しのぶ「Blink in the Desert」と3つの映像作品が上映されていました。
山内さんの作品は以前瀬戸内国際芸術祭で拝見したもの。時化の海のなかを進み揺れに揺れる「めおん号」の姿には改めて驚かされます。

別のバーの空間には湯浅万貴子さんの作品。

秘密基地みたいなとても面白い空間でした。

最後にまたソシアルレジャックビルの海野林太郎さんの作品に戻ってきました。
というのもこの作品、1日に5回ほど「起動」しますと時間が書かれていたので、最後に起動する時間に合わせてその様子を見ておこうと思ったのでした。
そして、その時間になった瞬間。

壁に沿って設置してあった写真作品が突然、ガタガタガタガタっと大きな音を立てて振動をはじめました。あまりの音の大きさに一瞬ビクッと身体が動いてしまいました。

以上で全展示を見終えました。
午後からの約6時間をほぼ費やしているので、移動にも時間は割いていますが、結構なボリュームでした。

今回の展示を通して、金沢という街の深さのようなものを知れたと思います。飲み屋街も普段は行かないので、こういう機会でもなければ見られない景色も多々ありました。これまでとは目線が違っていたからこその新しい発見もいくつかありました。

広坂から片町へ向かう途中の柿木畠ではギャラリーらしきお店も発見しました。

白鷺美術さんというお店。残念ながら営業時間ではなかったのですが、こうしたスペースを知れば知るほど街に対する興味とか愛着も湧いてくるように思います。

そして面白い作家さんもたくさんいるんだなと知れたことも大きな収穫でした。
今までノーマークだったんですけど、金沢美術工芸大学の卒展も見に行ってみたいなあと思いました。来年は是非日程をチェックして行ってみよう。
それ以外にも芸宿のようなオルタナティブなスペースも活発化している印象なので、こまめに情報収集していきたいと思います。

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