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ファルマコンを探して (1) ひと夏のまぼろし

国際展示場のような広大な空間を会場にして、国内外の著名なアーティストの作品を一度に見て回ることができる、、、そんなスケールの大きな展覧会がもし今の時代に開かれたら。
国内でさまざまな芸術祭やアートフェアが乱立しているほか、現代アートのイベント的なものも頻繁に行われているといっても、モーターショーや見本市が行われるようなところで自分の背丈を超える数メートル規模の平面や立体の作品に次々と出くわす経験はそうそうできないことでしょう。
今の時代においてもきっと大きな話題になるかと思いますが、実際にはこれは30年ほど昔のお話です。

1990年の夏、約1ヶ月間にわたって、「ファルマコン’90」という展覧会が行われました。80年代を席巻した新表現主義、ニューペインティングを中心に、国内外の作家69名の作家が一堂に会しました。
会場に選ばれたのは幕張メッセ。総面積13500平方メートル、天井高12〜28メートルという巨大な会場は、美術館やギャラリーで見るのとはまったく違う新鮮な鑑賞体験だったはずです。
比較対象としてアートフェア東京の会場である東京国際フォーラムホールEが総面積5000平方メートルなので、単純に言って倍以上。すべて見終える前にこちらの体力が尽きてしまいそうです。

みづゑ(90年夏号)に掲載されていた広告のコピー。

出展作家の部分だけクローズアップしてみました。

バスキア、ウォルター・デ・マリア、キース・ヘリング、ジャスパー・ジョーンズ、ジェフ・クーンズ、リチャード・セラ、サイ・トゥオンブリー、ウォーホール、キーファー、ポルケ、日本からは草間彌生や原口典之、大竹伸朗、高松次郎、若林奮などなど。自分ですらパッと見て分かる作家も多く、今の時代においてもなかなかそそられるラインナップになっているかと思います。

何故この展覧会に、今になって、興味を示したのか。
それはこの展覧会が名古屋のギャラリーなりコレクターなりが関わっていることを知ったからかもしれません。

名古屋は現代美術のメッカだと言われていた時期がありました。80年代後半から90年代前半でしょうか。1981年生まれの私はもちろん直接体験することはできませんでした。
私が現代美術にのめり込むようになったきっかけのひとつが、2010年の「あいちトリエンナーレ」です。それから美術館やギャラリーを回るようになり、折につけかつての名古屋の話を耳にするようになりました。そのたびに現状とのギャップの大きさに途惑わずにはいられませんでした。
しかし、ネットで検索してみても当時のことは断片的に浮かび上がってくるだけ。「ファルマコン’90」についても、1990年の夏にそんな展覧会があったという事実だけが残り、実体が抜け落ちてしまっているように感じてしまいます。
それは1990年の夏、たった24日間のみ現れた、儚いまぼろしのようです。

これから私は、断片的に残されている資料をもとに、「ファルマコン’90」をはじめとした当時の雰囲気を想像してみたいと思います。当時を知っている人からしたら常識レベルのものしか出てこないかもしれないし、間違っていることも多々あるかもしれませんが、体験できなかった時代への憧れを満たすには、他に手立てがないように思います。
今自分が立っている場所にはかつてどんな景色が広がっていたのか。それを自分の手で探り当てていくことは、決して無駄なことではないと信じています。

このnoteではそんな行き当たりばったりな「ファルマコン」を探す旅の記録として、あまり気負わずにゆるく残していければと思います。


〈トップ画像について〉
京都市京セラ美術館で見た「平成美術:うたかたと瓦礫(デブリ)1989-2019」より。展示室入ってすぐの壁に書かれた年表にも「ファルマコン’90」の名前がありました。


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