蓮沼さんの小皿

ここ最近ずっと自室の本棚にどーんと鎮座している作品。

上のハンドルを時計回りにゆっくりと回すとパラパラ漫画の要領で絵がアニメーションのように動きます。キノーラと呼ばれる装置で、リュミエール兄弟が開発して1900年代のわずかな期間に一世を風靡してはすぐに廃れたのだそう。
そのキノーラを今の時代に蘇らせて制作をされている蓮沼昌宏さんの「ゆきみち」という作品です。

その蓮沼さんが富山で滞在制作をされて、その成果展が富山県美術館内のTADギャラリーで開催されています。実はこちらが今回のいちばんの目的なのでした。

ギャラリースペースの入口。こちらは入場無料で見れちゃいます。
まず目に飛び込んできたのがこの大きな作品。

今回富山で制作されたもののひとつ。矢を射られたクマがたくさんいてちょっと物騒な印象も受けますが、これは立山の開山にまつわる伝説をふまえたものです。

佐伯有頼という少年がいました。ある日有頼は父が大切にしていた白鷹をこっそり持ち出して鷹狩りに出かけました。すると白鷹は急に逃げてしまいます。追いかけた有頼がもう少しで白鷹を捕まえられそうになったところ、熊が現れて白鷹はまた逃げてしまいます。有頼は怒って熊に矢を放ちます。それが胸に命中して熊は血を流して逃げていきました。有頼は血痕を頼りに立山の山頂まで追いかけていき、熊が岩穴に逃げ込んだのを見て自分も岩穴に入ります。するとそこには金色に輝く阿弥陀如来が立っていました。胸には矢が。実は白鷹や熊は阿弥陀如来が有頼を導くために姿を変えていたのでした。阿弥陀如来は有頼に立山を開いて霊山とするよう告げました。

ざっと要約するとこんな感じ。北陸方面を走る列車の名前に「はくたか」とあるのはこの伝説に由来しているのだと、この文章を打っていて今更ながらに気づきました。

そして立山と言えば雷鳥。「立山を見つめる雷鳥」という作品で出てきました。

雷鳥のフォルムがかわいい。

奥のスペースはドローイングや立体を中心に展示していて滞在制作していたときのアトリエを思わせる空間になっていました。

こちらの平面の作品は滞在先に持っていっては新たに描き込んでいて、ちょっとずつ景色が変化しているそうです。

キノーラのフィルムや台座、ドローイングなどが並べられています。

キノーラの過去作品もありました。

そのなかには「ゆきみち」も!もちろん回しました。

はじめて見るタイプのキノーラもありました。

ギャラリーの通路側の壁は赤く塗られているのですが(画像より実際はけばけばしくない品のいい色なんですが)、その色から立山曼荼羅に出てくる立山地獄に基づいた作品が並べられていました。

地獄で暮らす鬼の姿が描かれているのですが、鬼がかわいらしいせいかどこかほのぼのとした印象さえ受けます。
瀬戸内国際芸術祭に参加されたときの作品に鬼ヶ島伝説のある女木島をモチーフにしたキノーラがあって、そこにもかわいい鬼の子が出てきてお菓子を食べていたことを思い出しました(今回も展示されていました)。

そしてミュージアムショップ。
カフェでランチ食べたら寄ることをすっかり忘れてしまって、実はもう一度美術館に戻ってきました。というのも、ここ限定で購入できる蓮沼さんのアイテムがあるのです。

画像だと暗くなってよく見えないですけど、三寸皿です。お皿は九谷焼の上出長右衛門窯、作家の上出惠悟さんが後を継いでおられるところですよね。絵付はもちろん蓮沼さん。2種類あって迷ったのですが、「かけあしのらいちょう」にしました。短足でずんぐりむっくりの雷鳥がひょこひょこ走っている姿がかわいらしい。
ちなみに棚の上に飾られている本は茂木健一郎氏の「東京藝大物語」。茂木さんが藝大に教えに行っているとき?に蓮沼さんがいて蓮沼さんをモデルにした登場人物がいるらしい。読んでないのでよく分からないのですが。

帰宅してから戦利品を広げてみました。

お皿はレジにてエディションナンバー入りの箱に入れてくれました。そのほか矢を射られたクマのポストカードと、大好きなお菓子「雷鳥の里」をお土産に買ったら箱のなかに入っていた雷鳥の絵。笑
しばらくはこれを眺めて富山のことを思い出したいと思います。

蓮沼さんは今年、奥能登国際芸術祭に参加される予定となっています。蓮沼さんと奥能登。期待がふくらむ組み合わせです。ぜひとも現地で見てみたいと考えています。

ここからはおまけ。
アトリエスペースの展示を見ていて不意に思い出したのが、昨年、名古屋のMAT,Nagoyaをアトリエに使っていたときのオープンアトリエでの展示でした。

富山でも展示されていた、滞在制作のたびに描き加えている作品がここでも展示されていたことに気づきました。
このときは座布団の上に置かれた「外出中」と書かれた紙(に添えられていたイラスト)に目を奪われてしまいました。

寝ている赤ちゃんのむちむちした感じや着ている服の柄の魚が外へ逃げ出しているのがとてもかわいくて何だか印象に残っています。

【展示概要】
蓮沼昌宏「物語の、準備に、備える」
2020年3月7日〜5月10日
富山県美術館 TADギャラリー(富山県富山市)

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