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賛否両論・毀誉褒貶 果たして・・・

ここまで賛否がはっきり分かれるのって珍しいんじゃないかなあ、とSNSをチェックしていて感じた展覧会が、東京都現代美術館で開催されていたユージーン・スタジオ「新しい海」です。
私がTwitterでフォローしていてこの展覧会を観に行った方の感想はことごとく「否」でした。作家、アート関係者、コレクター、など立場は違えど、皆さん否定的で、なかには結構強い言葉を使う人もおられました。
私は以前金沢市21世紀美術館での展覧会「de-sport」でユージーン・スタジオの作品を拝見していて、そのときの印象が決して悪くなかったので「いやいや、そこまでじゃないでしょ」と考えていたのですが、実際に展覧会を見た感想はやはり「否」でした。あまりにがっかりで続けて見たクリスチャン・マークレーの個展も楽しめずに終わってしまいましたよ。

Critical 
海底
(手前) Mr. Tagi’s room and dream #four-handed
あるスポーツ史家の部屋と夢 #連打
(奥) Everything reflects the shining light toward me
私にはすべてが光り輝いて映る
Beyond good and evil,make way toward the wasteland
善悪の荒野

確かにひとつひとつの作品からは「ああ、きれいだな」と感じさせるものがあります。ただ、だいたいの展覧会は作品をいくつか見ていくと作家がテーマにしていることや興味を持っていることが朧げながらにも伝わってくるのですが、今回はそれがまったくありませんでした。だからその場その場の思いつきで作品を作っているように見えてしまうんですよね。

チラシには、

ユージーン・スタジオの多岐にわたる活動に通底する視点や発想、哲学を紐解くものです。

とあるのですが、あの展覧会で「通底する」ものをどう「紐解」いたのでしょうか。正直私には分かりませんでした。
だとしたら展示室ごとにテーマを設定するとかキャプションなどで説明するとか、もっと美術館側がするべきことがあったのではないかと思います。

個人的にいちばんダメと思ったのがこの作品。

Goldrain
ゴールドレイン

金箔と銀箔の粒子が天井から絶え間なく降り注ぐという作品で、ハンドアウトの作品解説には「みる者によってさまざまな経験をもたらす」とありますが、見る者に委ねすぎなのでは、という思いがありました。
他の作品もそうなのかもしれませんが、見た目の美しさを高めて作品解説で思わせぶりな言葉を散りばめて、それを見る側が「深読み」することを期待しているのではないかなと感じました。

また、この作品を見てとっさに想起したのが、同じ東京都現代美術館で見た2020年のオラファー・エリアソン「ときに川は橋となる」で見たこの作品でした。

オラファー・エリアソン「Beauty」

こちらは展示室に霧状の水を絶えず撒いています。
展示作品に「通底する」ものが分からない、とさっきは書きましたが、どの作品に共通するのは「今の現代美術っぽさを狙ってやっている感」なのかもしれません。

あと、思いもよらず会場には人が多く、特に若い人、若い女性が目立っていた印象でした。彼女たちはスマホであれこれ撮っていたのですが、その様子を横目で見ていて思い出したのが、「美術館女子」をめぐる騒動でした。
美術作品が女性アイドルの背景に成り下がっていたように感じたのですが、この展覧会はまさに「美術館女子」の企画にうってつけだったのかもしれません。
そう言えば「美術館女子」の撮影が行われたのはこの東京都現代美術館でしたね。

今回の個展とは別の話ですが、今回の騒動を機に過去がいろいろ掘り返されていて、2014年に現代音楽の巨匠であるテリー・ライリーとのコラボレーションについてのTogetterがSNSに上がってきていました。

東雲のTOLOT、懐かしいなあ、、、(ギャラリーコンプレックスがあって何度か行ったっけ)!というのが真っ先に浮かんだのですが、運営の不手際はさておき、開催の経緯としてはおそらく「若い寒川氏の心意気を買ってテリー氏がコラボレーションライブの開催に同意した」というところなんでしょう。そういった意味で寒川氏はプロモーションが上手なんだろうなと推測しました。

と、いろいろ書いてしまいましたが、一方で今後の展開が楽しみになったのも事実なんですよね。
たとえば次にどこかの美術館で個展をしたときに、彼の作品に対して新しい見方を提示できたら印象もガラッと変わるわけで、今回の都現美の個展を理解できなかったお前の目が節穴だったのだと打ち負かされる可能性もあります。そういった展開も楽しいかもしれません。
若い作家さんをリアルタイムで追いかけることができるというのも、現代美術の面白さのひとつですよね。

おまけ。
会期終了直前にツイッターを見ていて思わず笑ってしまったのが、東京都現代美術館の学芸員である薮前さんのツイートです。

露骨にスルーしているところがある意味格好いいなと思います。

☆  ☆  ☆

【今回の展示】
ユージーン・スタジオ「新しい海」
2021年11月20日〜2022年2月23日
東京都現代美術館

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