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もっと作品を見ていきたかった

東京へ行ったタイミングで、少し足を伸ばして水戸まで行ってきました。JRに揺られて、ちょっとした旅行気分を味わえました。
それにしても水戸芸術館、久しぶりに来ました。

シンボルとも言えるタワー。
建物同様こちらも設計は磯崎新氏。

ここに来るのはたぶん2回めのはず。前回はもうずいぶん前のことで、何を見たのかさえさっぱり覚えていないのですが。

さて、今回拝見したのは佐藤雅晴さんの個展でした。

2019年3月、癌のため45歳という若さで亡くなられた佐藤さん。今回はまさに回顧展とでも言うべき内容になっていて、これまでに拝見したことのある作品も多数ありました。だから自然と「あの展示で見たなあ」というように、自分の記憶と重ね合わせて作品を見ていました。
自分が佐藤さんの作品を見始めたのはおそらくこの辺りだったと思います。

「鏡」2014年
「ヤッホー!」2014年

どちらも2014年の作品ですが、ちょうど私が京都へ展示を見に通うようになった頃で、その頃佐藤さんはイムラさんでたびたび展示をされていたんですよね。
その頃の作品で記憶に残っているのが「ヒロコの肖像」という個展でのものなんですが、残念ながら今回は展示されていませんでした。

イムラアートギャラリーのHPより

ほぼ同時期に見ていたのが「ダテマキ」です。

2014年にKATT神奈川芸術劇場で開催されたグループ展「日常/オフレコ」で拝見しているのですが、とても大好きな作品です。
震災で被災した福島県いわき市の蒲鉾工場で作られている伊達巻きの製作工程を6つに分けてアニメーションにしています。同じ工程を繰り返す工場の動きと佐藤さんの映像とが上手くマッチしていて長いこと見ていられます。

そして「東京尾行」という作品。
東京のとある場所の何気ない景色のなかの一部が佐藤さんの手で描き込まれることによって日常とはまた違うものになっていく。広い展示室のなかに12の風景が常に映し出されています。

「東京尾行」と聞いて思い出すのは2016年の原美術館での個展なんですが、私はこの個展に行けてないんですよね。行っておけば良かったなあ、と作品を拝見して今更ながらに後悔してしまいました。

展示室にはピアノが置かれ自動演奏でドビュッシー「月の光」を奏でていました。

こちらも大好きな作品「Calling」。
まずはドイツ篇。

そして日本篇。

どのシーンにも人物が出てこないことが(なかには飲み物の湯気が立っていたりする場面もある)不穏な空気をもたらしています。あとは公衆電話や高速の路側にある緊急電話が鳴り出したりするところとか。
この作品を拝見したのは2019年の森美術館での「六本木クロッシング」。確かこの会期中に訃報が飛び込んできたのだったと思います。

「福島尾行」は震災後の福島を取材して制作された作品。「東京尾行」と同様に、実際の景色の映像のなかの一部が、佐藤さんによるアニメーションに置き換わっています。

復興に向けて工事が進められているところ、放置されて時間が止まっているところ、いろんな風景が映し出されます。個人的には満開の桜が映っているものにグッと来てしまいます。

この作品は2019年の「霞はじめてたなびく」(トーキョーアーツアンドスペース本郷)と、たしか2020年「DOMANI・明日」(国立新美術館)でも拝見したはず。いい作品だなあと改めて感じました。

生前最後の作品となった「死神先生」。

病気が進行して前年に余命宣告をされ、体力的にアニメーションの制作は無理だということで制作された、アクリル絵具による平面作品のシリーズです。
「六本木クロッシング」や「霞はじめてたなびく」とほぼ同じ時期に新宿のギャラリーKEN NAKAHASHIさんで開催された個展で発表されたもので私もギャラリーへ見に行きました。
また2020年の「横浜トリエンナーレ」にも出品されていて、確か横浜美術館の最後の展示室が当てられていたと思うのですが、今回の個展でも、順路の最後、他の作品とは離れた展示室が使われていました。

他に印象に残ったのが、「かくれんぼ」という作品。「THE ドラえもん展」に出品されたもので、教室や街中をドラえもんが歩く様子が淡々と映し出されます。実際の映像とアニメーションという組み合わせはまさに佐藤さんが得意とするところ。ちょっとノスタルジックで切なくて、とても良い作品でした。
「THE ドラえもん展」は2018年に名古屋の松坂屋美術館へ巡回したときに拝見しているのでこの作品もきっと見ているはず、、、残念ながら記憶にないのですが。

本当にいろんな場所で作品を拝見してきたのだな、と振り返ってみてそう実感しました。もし病に冒されていなかったらきっと素敵な作品をもっとたくさん制作されていたはずで、そう思うと余計に45歳という若さで亡くなられたことが残念でなりません。
新しい作品をもっと見ていきたいーーその願いは叶うことはもうありませんが、それならばせめて残されたこれらの作品が今後も定期的に拝見できる機会があって欲しい。そう強く願っています。


☆  ☆  ☆

【今回の展示】
佐藤雅晴「尾行 存在の不在/不在の存在」
2021年11月13日〜2022年1月30日
水戸芸術館現代美術ギャラリー

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