目は口ほどに騙される

今となっては開催されたことが奇跡だったんじゃないかとさえ思ってしまう今年の「3331 ART FAIR」。そのときの感想を以前noteにも書きました。そこでは触れていなかったんですが、実は一点作品を購入していました。
フェアが終わってから事態が深刻化していくなかで事務局の方が準備を進めてくださって、先日その作品が無事に届きました。

石場文子さんの「2と3のあいだ -トタンと植物-」です。

石場さんの作品をはじめて見たのはいつか、もう記憶が定かではないですが、名前を意識するようになったきっかけははっきり覚えています。名古屋造形大学の学内ギャラリーで行われた「3大学版画交流展・交差する版画/D×PRINTS 2014」でした。

ソファとクッションをモチーフにした作品と実物を組み合わせたインスタレーション風の展示構成にシビれてしまったんですよねえ。ポップな色合いのものが好きだというのもあったと思うんですけど。
今思えば、京都から愛知県立芸術大学の大学院に進まれたのが2014年だから愛知に来られてほどないうちに作品を見たことになりますね。

2015年に京都のKUNST ARZTで行われた個展「しかく」。サブタイトルの「Square/Sight/Blind spot」が示している通り「四角/視覚/死角」のトリプルミーニングを込めています。ソファのクッションに四角の紙を紛れ込ませて違和感がない(クッションのように見える)のが面白いです。

上の画像の左側の作品をこのときは購入しました。「ぐしゃぐしゃ」というタイトルのシリーズです。こちらもぐしゃぐしゃとした布に紙を紛れ込ませています。
ちょうどギャラリーに石場さんがいらっしゃってお話をさせてもらったんですが「ストライプって何か視線が引き寄せられますよねえ」と言っていた私と石場さんが互いに似たような色のストライプの服を着ていたのがおかしかった。

昔のスマホの画像を漁っていて見つけました。そう言えばこんな展示見に行っていたなあ。

これはかの悪名高き「神戸ビエンナーレ」に大学枠で石場さんが参加されていたときのもの。2015年ですね。入場料払って入ったもののあまりのクオリティの低さに唖然としたという。市民から見直しを求める声が上がったのもさもありなんといった感じでしたが、結局このときを最後に打ち切りとなりました。
(話は逸れますが、その後仕切り直して行われた2017年の「港都KOBE芸術祭」と2019年の「TRANS-KOBE」はどちらも現代美術に絞ってとても良い内容でした。)

2016年、愛知県美術館ギャラリーで行われた、愛知県立芸術大学の大学院修了展。

丸くくり抜かれたフレームから覗き込むと見慣れたものもどこか違って見えます。心がまったく清らかでない私はつい水玉コラを連想してしまったのですが。

その後石場さんは「2と3のあいだ」というシリーズを展開することになります。
一見すると自分の身の回りにもありそうなものたち。ただ、違うのはものはどれも黒い輪郭線があるということ。この輪郭線があることによって2次元なのか3次元なのかが曖昧になっていくのが分かります。視覚って意外とザルっていうか、目で見えるものって確かなものだと思ってしまいがちですが、実際にはかなり曖昧で揺らいでいるんだと実感させられる作品です。視覚の頼りなさのようなものは、前に記事にした尾野訓大さんの作品とも共通するものがあって、自分は写真作品のそうした部分に惹かれているのだと感じさせられました。
ちなみにこれは加工とかしているのではなく、実際の物に線を書いて平面のように見える角度を探って撮るというかなりアナログな手法が取られているそうです。

この「2と3のあいだ」シリーズで石場さんは一気にその名前を広く知らしめることとなりました。2019年には「VOCA」で奨励賞を受賞されたし、そして何より「あいちトリエンナーレ」にも選ばれて愛知県美術館で作品が展示されました。

びっくりするぐらいのブレイクぶりでした。
ですが私は、おそらく初お披露目となった2017年のKUNST ARZTでの個展「2.5」も、2018年のMasayoshi Suzuki galleryでの守本奈央さんとの二人展「立てる」〜名古屋電気文化会館での「ART NEXT 3〜不透明なメディウムが透明になる時」も、名古屋の山下ビルでの個展「たかが日日」も、2019年の児玉画廊での個展「次元のあいだ」も見ておきながら、このシリーズの作品は一点も購入していなかったんですね。
それはなぜだったんだろう、、、作品の良し悪しというよりは、単純に自分が「作品を購入するモード」ではなかっただけだと思うのですが、結果として作品購入のタイミングを逃してしまっていました。

知名度が上がるにつれて価格も上がっていくわけで、そうなると尚更自分には手が出せなくなっていきます。仕方ないと言い聞かせながらもどこか諦めきれずにいました。
偶然にもフェアを見る前日にもどういうきっかけだったのか、車を運転しながら「ああ、石場さんのあのシリーズ、チャンスはあったのに買えなかったなあ」と悔やんでいたのでした。
そんななかでフェアの会場で石場さんの作品と出会い、しかも自分が手が出せる範囲内の価格設定。びっくりしました。もう二度と手に入らないと思っていたのに。

しかも三点あるうちの両脇の作品にはマルがついていて、自分のいちばん好みなこの作品だけ購入可能になっていて。これを逃したらもう手に入らないだろうという思いもあったので、思い切って購入しました。こんなこともあるんだと驚かずにはいられません。

フェアから一ヶ月も経たず購入した作品が届くよりも先に、今度は京都で個展がありました。

会場のPARCさんの入口横に貼られた案内用のステッカーはDMと同じく緑っぽいストライプ。これはまさか?と思っていたらやはりそうでした。2階のスペースには「トタンと植物」が展示されていました。まさかすぐに再会することになるとは。
そして今回は展示室内にモニターがいくつか出現していました。「トタンと植物」もそのひとつでこんな感じになっていました。

二次元と三次元のあいだから一気に飛び越えて四次元に突入してしまいました。一方で映像なのかモニターに画像が表示されているだけなのか、また新たなる曖昧な境界線が生じているのもまた興味深いです。しばらくじーっと見ていましたが、動いている気配は見られませんでした。

3階のスペースもまた新たな試みが加えられた作品が展示されていました。

これまでは日常生活で目にした光景をほぼそのまま作品にしていたと思うのですが、ここでは新たに静物画のように静物を構成して画面を作るところから取りかかっています。果物には輪郭を描いているものとそうでないものが混ざっていて奥行きに違いが出るので見ていてとても面白かった。

初日ということで在廊していた石場さんが4階のスペースにいたときに声をかけてくださいました。お会いするのは昨年の夏以来。ワンピース倶楽部の展示番を抜けて近くのギャラリーに展示を見に行ったらちょうどいらっしゃって、ワンピース倶楽部のほうにも石場さんの作品があったので見に来てもらったのでした。
大活躍だった昨年はVOCAで他の作家さんとの横のつながりができたり、あいちトリエンナーレで状況に応じて動く作家さん達の機敏さに刺激を受けたりで作家として強くなる良い経験になったそうです(個人的に心配していた、個々の作家さんに対する電凸はなかったそうなので、それは本当に安心しました)。
続いていた展示ラッシュもこれで一段落、この春からは環境も変わったそうで、しばらくは作品制作に集中することになるとのこと。このシリーズもまだまだいろんな方向に膨らませそうなので、今後の作品がどうなるのかまた楽しみにしています。

と、石場さんの現時点での集大成&今後の展開が推測されるとても充実した個展だったのですが、緊急事態宣言の対象地域拡大につき会期途中で終了することになりました。残念。
PARCさんじたいも、石場さんの展示の会期終了後は2020年に予定していた展示をすべて中止すると発表していましたが、先日はついにギャラリーを閉鎖するという告知が出ました。企業の文化貢献の側面の強かったギャラリーなので(母体はデニッシュのグランマーブル)、こういう非常事態に翻弄されるのは仕方ないのかな。ただ、自分が関西へ意識して通うようになったときからずっと展示を見てきた場所がなくなってしまうのは残念でなりません。事態が落ち着いたらまたスペースが再開されることを願っています。

【展示概要】
石場文子「zip_sign and still lifes(記号と静物)」
2020年4月10日〜4月26日(緊急事態宣言の対象地域の拡大に伴い4月19日で終了)
Gallery PARC(京都市中京区)

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