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思いがけない「再会」

先日、と言っても6月半ばですが、東京都現代美術館へ行ってきました。

人気の展覧会だから開館前に着いていたほうがいいかな、と思いながら向かって着いたのが9時30分。先客が1組いらっしゃいました。人は徐々に増えていき、直前には20名ほどいらっしゃった気がします。

ということで、まずはオラファー・エリアソン「ときに川は橋となる」。今や芸術祭には欠かせない作家の一人となっていますが、美術館で個展という形式で見るのははじめて。どんな作家なのか自分は把握できていなかったので今回の個展を楽しみにしていました。
今回いちばん印象に残ったのは、こちらの作品。

「クリティカルゾーンの記憶(ドイツ-ポーランド-ロシア-中国-日本)」という作品です。
ベルリンからトラックと鉄道を使って中国へ、中国の太倉港から船で日本へと移動するあいだの動きを装置によって記録したものです。
空路を使わないのは、もちろん二酸化炭素の排出を抑制するためです。スウェーデンの活動家・グレタさんがサミットに出席するためにヨットで大西洋を横断したり、イギリスのバンド・コールドプレイが世界ツアーの実施を見送ったり、環境に負荷をかけないために飛行機を利用しない、というのは欧米では主流になりつつあるようですね。
「サスティナブル」という単語も浸透している昨今、現代アートの世界でその考え方をいち早く取り入れて実践しているのがオラファーなのだと実感しました。

韓国から船で運ばれてきたという「太陽の中心への探査」はソーラーエネルギーで動くそうです。

開館と同時にお客さんが奥の展示室へ一直線で向かうのを見てついて行ったら、整理券を配布していたので私ももらってしまいました。「サンライト・グラフィティ」という作品を体験するためのものです。

携帯式のソーラーライト「リトルサン」を持って二人一組で指示に従って動き回ります。じんわりと光る明かりがとても優しく感じられました。

他のお客さんが背後で見ているので最初はちょっと気恥ずかしさを感じましたが、途中からは構わずのめり込んでしまいました。

島国の日本でサスティナブルな取り組みがどこまで浸透するかはまだ分かりませんが、オラファーの作品はあくまで視覚的に美しくて説教くさくないところがいいですね。だから単純に「きれいだな」で終わることもできるんですが、せっかくだから自分に何ができるのか、これを機に考えてみたいと思います。

続いては「もつれるものたち」へ。こちらはパリとサンフランシスコを拠点とする「カディスト・アート・ファウンデーション」という団体との共同企画展です。

「カディスト・アート・ファウンデーション」については引用します。

アーティストは作品を通じて現代の重要な問題を提起し、進歩的な社会の創造に貢献するという信条を掲げています。それとともに、作品の収集とその展示に取り組みながら、社会的議論における現代美術の重要性を提唱しています。また、文化と文化をつなぐことを目的に、拠点であるパリとサンフランシスコを中心に、世界各地でアーティスト、キュレーター、文化組織と協働し事業を行っています。

というわけで、世界各地で起きた出来事をモチーフにした、社会学的な要素の強い作品が並んでいたのですが、個人的にはこの展覧会が非常に興味深くて楽しめました。
例えばピオ・アバド「ジェーン・ライアンとウィリアム・サンダースのコレクション」。

フィリピン出身によるこの作品は、マルコス大統領とイメルダ夫人が蒐集していた絵画をポストカードにしたもの。ポストカードの裏面にはマルコス政権の汚職について報じるニュースの文面が印刷されています。ポストカードは自由に持ち帰ることができるのでいくつかピックアップしました。
現代的というよりは正統派の絵画という作品の数々。フィリピン政府に差し押さえられたそうですが、今この絵画たちはどうなっているんでしょうかね。

もうひとつ、韓国のアーティスト二人によるミックスライスの「(どんな方法であれ)進化する植物」。開発で移植させられた植物をテーマにした作品ですが、人間のエゴとそれを乗り越えてたくましく繁茂する植物の強かさの対比が印象に残りました。

展示室を進んで映像を流している部屋があったので入ってみました。
そしたらびっくり。見覚えのある映像が目の前で流れていました、、、これ、見たことある!しかも、日本じゃなく台湾で!!
作品はリウ・チュアン「ビットコイン採掘と少数民族のフィールド・レコーディング」。こちらは今年1月、台中の台湾国立美術館で行われていた「アジア・アート・ビエンナーレ」の出品作品でした。面白そうな内容で全部見たかったのですが時間がなくて泣く泣く展示室を後にした作品と、まさかこんな形で再会するとは。しかも、ありがたいことに、日本語字幕付(台湾版にはもちろんなかった)。40分ほどの尺の作品でしたが、もちろん見ない訳にはいかない!ということで全部見ました。
ビットコインを採掘するためには電力が必要だからダムのそばに小屋を作る、ダムのそばは水の音がうるさいから騒音も問題にはならない。そしてダムの建築によって少数民族が強制移住させられていること。3面の大きなスクリーンに迫力ある映像が映し出されてぐいぐい引き込まれてしまいました。

藤井光「解剖学教室」も面白そうな作品だったのですが、さすがに40分の作品を見る余裕がなくてパス。「もつれるものたち」の会期が9月末まであるので、上記の作品を含めてもう一度見に来たいと思います。

上のふたつで結構お腹いっぱいになったので「ドローイングの可能性」は次回にパスしようかと思ったのですが、こちらはもうすぐ会期終了ということで足早に見て回りました。
「もつれるものたち」にも参加していた磯辺行久さんも作品を出されていたのですが、磯辺さんが今後参加する芸術祭に出品する予定の作品の構想も出ていたのが興味深かったです。
北川フラムさんがディレクションしている市原、北アルプス、奥能登はすべて今年から来年へ延期、そして来年は越後妻有「大地の芸術祭」の年。川や海流、消滅した集落などテーマはそれぞれで、どれも面白そう。ぜひ見に行きたいけれど、来年は本当に忙しくなるなあ。しかも越後妻有はもう一年後なのか、、、早いなあ。

さて。東京都現代美術館で最近話題になったトピックが「美術館女子」です。AKBの方をモデルにしたキャンペーンで公開と同時に炎上、その後サイトそのものの公開が取り消されてしまいました。
私もサイトを見ましたが、美術館=インスタ映えと短絡的に結びつけた発想のおっさんらしさには正直辟易としました。サイトに掲載された画像がどれも作品を背景にモデルが立っているものばかりだったところからも、作品と対峙するということがなおざりになっているのが感じられて、個人的には残念でした。作品のことを理解できなくても、作品の前に立ったときに何ともいいようのないエネルギーを作品から感じる、そのことの楽しさを知らない人にももっと伝えてくれる媒体が出てくることを期待しています。

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