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マスコットはアートの世界で生きる

北京での冬のオリンピックも終わりましたねえ。
正直なところ競技にはまったく興味が持てずほとんど見ていないのですが、気になったのは公式マスコットの「ビンドゥンドゥン」ぐらいでしょうか。取材に来ていた日本のアナウンサーが「ビンドゥンドゥン」への愛を熱く語っていたら逆輸入のように中国でも関心が高まった、というのも面白い話だなと思いつつ眺めておりました。

さて、昨年東京オリンピックも何とか終わったわけですが、そのマスコット「ミライトワ」と「ソメイティ」も、そもそも開催の是非で揺れていたせいか、開催前〜大会期間中もあまり大々的に取り上げられている様子を感じませんでした。
それでもショッピングセンターに行けばグッズコーナーが目に入ってきたりしていたのですが、大会が終わってしまえば当然ですがどこにも見当たりません。

このまま忘れていくのが世のことわり。さして残念にも思わず自然とその事実を受け入れていた2021年の秋。彼らは突然私の目の前に姿を現しました。それも美術作品のなかで。

まずは千葉市美術館で見た福田美蘭さんの個展でした。
千葉市美術館のコレクション、特に日本美術と福田さんの作品とのコラボレーションが並び、その独特のユーモアがやっぱり好きだなあと改めて感じたのでした。

そのうちのひとつが月岡芳年「松竹梅湯嶋掛額」をモチーフにした作品でした。

「八百屋お七」として有名な話ですが、好きな人に会いたいと思うあまり自宅に火を放った女性を描いています。
福田美蘭さんの作品はお七の袖を長く伸ばして、そのうちに矢絣の模様が市松へと変化していき、ミライトワ・ソメイティへとつながっていきます。
ネット上に画像が上がっていなかったので、この作品についての福田さんのコメントを引用したいと思います。

月岡芳年の「松竹梅湯島掛額」に描かれる八百屋の娘、お七は、恋した寺の小姓に会いたい一心で、町に火をつける大罪を犯し、火の見櫓の半鐘を鳴らそうと梯子をのぼっていく。もう後戻りは出来ないところに来て、前に進むしかないその姿は、2021年7月、新型コロナウィルスの感染再拡大が懸念される中、世論の支持を得られない逆風のなかで東京五輪の開催に突き進む、この国の今の姿だ。国民の間に広がる感情と、公式マスコットの祝祭的で元気なかわいい魅力との落差が、お七の史実とどこかで連ながっているように思う。画面上の矢がすりの紫は、マスコットの紺とピンクの混色。
展覧会図録より

オリンピック開催に向けて揺れていた当時の空気というものが画面には閉じ込められていて、とても秀逸な作品でした。
そうそう、展覧会のメインビジュアルに使われたのもオリンピックにちなんだ作品でした。

「風俗三十二相 けむさう 享和年間内室之風俗」は煙を嫌がる女性を描いた月岡芳年の作品をモチーフに煙を五輪マークにしてオリンピックに対する忌避感を上手く描いています。

そしてもうひとつ、東京で山下拓也さんの個展を見に行ったのですが、ギャラリーに入った途端こんな光景が広がっていました。

UVライトに照らされた、蛍光塗料でペイントされたミライトワがたくさん!!

そう言えば山下さんは消えてしまったマスコットたちを呼び戻すかのように作品のモチーフとして取り上げていましたね。
そんな山下さんからしたら今回のミライトワ・ソメイティは格好のモチーフなのかもしれません。

特定のイベントや団体を認知させるために生まれたマスコットたち。
そのイベントが終わったり団体がなくなったりすれば役目を終えるのは当然のことなんでしょうが、一方で時代を象徴するものとして現代美術の世界で取り上げられる機会はこれからも少なからずあるのかもしれない。
立て続けに展示を通してマスコットと出会い、そんなことをつい思ってしまったのでした。


☆  ☆  ☆

【今回の展示】
「福田美蘭展 千葉市美コレクション遊覧」
2021年10月2日〜12月19日
千葉市美術館
山下拓也「マスコットたちとカニエ・ウェストとタコス男、他」
2021年11月13日〜12月12日
Token Art Center(東京都墨田区)

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