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Keep on going

artTNZに合わせて東京で見られる展示をあれこれリサーチしていたのですが、直前になってポンと飛び込んできたのが、Art Center Ongoingでの展示。知っている作家さんの個展だったので、久しぶりに吉祥寺へと向かいました。
二本の個展が同時開催されていて、ひとつは山下拓也さん「Manta ray」。

ギャラリー空間に「Manta ray」と刷られた大きな紙がいくつも吊り下げられています。Manta rayとはあの海にいる生物マンタのことらしい。
この作品、実は民家の床を彫って版木にしています。京都の東九条にある民家で、HAPSが今後使う施設として改装する前に実行されました。その場所が四畳半の広さでマンタもそれぐらいの大きさだから彫る文字に選ばれたらしいです。

ドキュメント映像も流れていて、数人がかりで床に工具で文字を彫り、インクを塗り、紙を乗せて押し当てて剥がすという、大きいぶんだけひとつひとつの作業が大がかりで、しかも夏の暑い時期ということで、作品の見た目は非常にキャッチーなんですが実際には多大な労力がかかっていることを実感させられました。
そして同じ会場内で行われていた個展が、前谷開さんの「夜は昼、昼は夜を」です。前谷さんは山下さんの作業を手伝いながら、制作を進める山下さんの姿を撮影したものを作品として展示しています。上のドキュメント映像も撮影は前谷さん、編集したのは山下さんなんだそうです。

旧知の仲である前谷さんの前で見せる山下さんの姿はリラックスして、ときにおどけた表情も見せて、実に飄々としたもの。作品とのギャップが激しいです。
映像のなかでも、前谷さんの前で腕を振って踊るシーンがあって、個人的にこの場面がとても気に入りました。

1階にもバナナを使っておどける山下さんの姿が。これもいい写真だったなあ。

山下さんは期間中会場に詰めてKanye Westのラップのリリックを彫った作品を作るのだそうです。テーブルの上にあるものがまさにそれです。
そして作品は外にまで。入ったときは入口ばかり気にして目に入ってこなかったですが、2階の壁にばーんと「Manta Ray」の版画が設置されていました。

この外観を見てふと、昨年の冬に京都のHAPSで拝見した、パートナーの温田庭子(ぴょんぬりら)氏とのユニット・温田山での展示(ALLNIGHT HAPS 2018後期「信仰」vol.2 2019.1.12-2.11)がオーバーラップしました。

このときもHAPSの壁を彫って刷ったものを二階の窓に展示していましたね。ちょうどお邪魔したときに山下さんが制作されていてお目にかかったのですが、確か「自分はレリーフのような彫刻を作っている意識で版画はその記録」というようなことをおっしゃっていたのが印象に残っています(「版画が左右反転しているのは何故か」というこちらの質問に対してだったと思います)。

今回は会場には山下さんがいらっしゃって、私のことを覚えていてくださってえらく驚いてくださったのですが、しばらくお話をさせていただくこともできました。
そのなかで愛知県美術館に作品が所蔵されたことについても話ができました。愛知県はコロナ禍における文化芸術活動の緊急支援対策として、美術品等取得基金に3年間で1億円という特別枠を設けて若手作家の作品を重点的に購入する決定をしました。3年のあいだに何回か分けて収蔵する作品を決めるようですが、その第1弾として収蔵された作品のなかに山下さんの作品も含まれていたのでした。
山下さんにお話を伺ったこともあって本当に楽しみにしていたのですが、収蔵した作品の一部を展示する愛知県美術館のコレクション展「私は生まれなおしている」を先日ようやく見ることができました。
山下拓也さんの作品「TALIONの子(TALION GALLERYの壁を使って蘭陵王の彫刻を制作する。)」はこちら。

でかい。というのが真っ先に出てきた感想です。今の場所に移転する前、谷中のスペース(私も何度かお邪魔しました)でのおそらく最後の展示だったのでしょう。ギャラリーの壁に色を塗って工具でざくざく切り取っていく様子が映像で見ることができます。遂には外との壁にも穴が開けられて、その様子を見てギャラリーのオーナーさんかな?女性が笑いつつも感慨深い表情を見せていたのが印象的でした(この映像にも前谷さんがサポートに入っている様子が映っていました)。
山下さん曰く、愛知県美術館での「アイチ・アート・クロニクル」(2019.4.2-6.23)に参加したときから作品収蔵の話が出ていたのですが、どれを収蔵するか話を詰めているさなかにこのコロナ禍に突入。宙に浮くかと思いきや支援が決まったことで無事収蔵に至ったのだとか。
裏話的な話ですが、ギャラリーはずっと倉庫を借りてこの作品を保管していたそう。制作が2014年だからこの6年間の倉庫代を考えたらかなりの金額になるはずで、TALIONさんすごいなあと思いました。

せっかくなので他の作品も紹介します。

横山奈美さん「Sexy Man and Sexy Woman」。東京のケンジタキさんで拝見したときは、向かいに小学校があるのに配慮してかカーテンが引かれてたっけ。そんなことをふと思い出しました。

やましたあつこさん「ままごと」「二人だけの夜」。今コレクターのあいだで注目を集めているペインターも愛知県出身なんですね。今回はじめて知りました。

本山ゆかりさん「Ghost in the Cloth(芍薬)」「画用紙(柔道 右)」「画用紙(柔道 左)」。本山さんの代名詞とも言える画用紙のシリーズに加えて新しい布のシリーズも早速収蔵されたのがうれしい。私も作品を持っているだけに感慨深いものがあります。

今回の新収蔵の作品だけでなく愛知県美術館のコレクションからもいくつか展示されているのですが、おふたりの作品のあいだには坂本夏子さんの作品がありました。生まれた年を見てみるとちょうど10年くらいの開きがあって、新しい世代がどんどん出てきているんだなあと。ちょうど現代美術を見はじめたころ話題になっていたのが坂本さんだったから、何と言うか隔世の感がありますね。
水戸部七絵さん「I am a yellow」。愛知県美術館の若手支援プロジェクトARCHでの展示(2016年)ではかなり大きな作品を持ってきて度肝を抜いた水戸部さんも収蔵されました。あそこまで大きいのはさすがに無理なんでしょうが、この作品からも充分に油絵具の物質感をしかと感じ取ることができます。

今村文さん「無題」。「芸術植物園」(2015年)への参加など愛知県美術館に縁の深い今村さんはエンコースティックの手法を使った大きな作品が収蔵となりました。派手さはないですが、緻密で画面に吸い寄せられそうになります。

加藤翼さん「Woodstock 2017」。はじめて見たのはいつだろう。思わず笑ってしまったのですが、昨今の社会情勢を踏まえつつユーモアたっぷり含んだ作品に仕立て上げられる力はさすがのもの。やっぱり好きな作品であることを再認識いたしました。

小林椋さん「ローのためのパス(ゆ)」「州ん(カワウソの頭の平らさ)」。京都の16さんと名古屋のNさんでそれぞれ展示した作品と県美術館で再会できました。うれしいなあ。小林さんのような攻めた作家をきちんと収蔵できるということが、一観客としては実に痛快です。

高山陽介さん「無題 頭部#58」。ANOMALYで展示をされている作家さんなんですね。私は正直存じ上げていなかったんですけれど。よーく見ると首のところに空き缶を使っていたりして、木彫とのハイブリッド感が見ていて面白かったです。

木村充伯さん「祖先は眠る(2匹の猿)」。陽あたりの良い場所に設置されて本当に心地よさそう。見ているこちらまでもが陽だまりのなかで眠りたくなる、、、
木村さんはもう一点、「あ、犬がいる!」とタイトルの通り叫びたくなる場所に作品が設置されていて笑ってしまいました(こちらの画像はアップしません)。

いやあ、愛知県民で良かった。そう思わずにはいられませんでした。山下さんも展示の予定がいくつも飛んだと話されていましたが、それに対して個人的に応援するというのが難しいので(忸怩たる思いですが)、県がこうして支援してくれるというのは素直に誇らしいです。
山下さんは10月にTALION GALLERYで温田山として展示に参加される予定。どんな展示になるのか気になります。見に行けるといいなあ。

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