ぶにょー、どこ?
今日も、暑い。サウナいらずの東京の夏。こんな日は、エアコンの効いた部屋でじっとしているのが一番なのだが、用事があって外に出なければならない。予定を決めるときに気温のことは考えないから仕方がないが、「どうしてこんな日に予定を入れてしまったのか」と一瞬後悔して、そうそうに諦める。これも夏の醍醐味だ。
コンビニやスーパー、ATMなどを避暑地にしながら目的地に向かう途中、通りすがりのスーパーで、ひと組の親子が言い争っている。どうやら、子どもが「ぶどうが食べたい」と駄々をこねているようだ。母親は「ぶどうは買わない」と断固として拒否。互いに譲らず、にらみ合いが始まっている。
ぼくも見覚えがある。次男は一度言い出したら聞かない頑固者だ。「ぶどうが食べたい」と訴え始めて聞かないときがあった。
「ぶどう食べたい」
いつものやつが、出た。次男の意思は固い。
ここで真摯に向き合えば、長期戦になる。長引けば、炎天下でお互いが消耗し、結末はどう転んでも地獄だ。
ぼくは勝負に出た。
「ぶにょー?」
テキトーな語を作ってみた。
「ぶにょー!?ぶにょーじゃない!ぶどう!」
次男は怒り狂って叩いてくる。
しかし、ここで負けてはいけない。
「ぶにょー?」
あくまでもぶにょーだ。
「もおっ!ぶどうっ!ぶどうも分からないの!?お父さんバカなの!」
しかし、次男の口には笑みが浮かんでいた。
いける。
「ぶにょーってどこに売ってるの?」
「知らないよ〜なんだよそれ〜ぶにょーってなんだよ〜もお」
そしてここに、「ぶにょーぶにょー」だけ言う人間がふたり生まれた。
子どもが駄々をこねている時、ぼくたちはつい「自分は大人だから」と理性的になり、そんなバカなこと言ってないで、というスタンスを取ってしまう。
しかし、この方法は往々にして裏目に出る。なぜなら、子どもは「バカなことは分かってる」からだ。わがままはいつも、わがままと知って行われる。
相手よりバカになってやるのだ。子どもよりもさらにわがままになってやる。「ぶにょー」がそれだ。
もちろん、「ぶにょー」なんて言葉、聞いたこともない。でも、「ぶにょー」はもう現実だ。息子もその世界に入っている。
同じ世界に入ってしまえば、あとは遊びがあるだけだ。
暑い日に子どもの駄々で身動きが取れなくなった時、「ダメ」と一喝して引っ張っていくのも一つの手だろう。けれど、それはだいたい大変だ。少し工夫したい。
例えば、バカになってみるのはどうですか。どうせ、こんなに暑いのだから、ちょっとバカになるくらいで、ちょうどいいのかもしれませんよ。
どうやってバカになればいいのかわからない?
ならば、まずは「ぶにょー」から。ぼくらと一緒にぶにょー探しでもしませんか。
そんな、どーでもいいことを考えさせられた、暑い夏の1日でした。
むりすんなよ