第10話 夜の公園
もう何ヶ月もAさんに会えていない。
今日はそんなモヤモヤした気持ちを晴らすために友達と遊ぶ約束をした。
最近はこの気持ちのせいで部活に集中できないから気持ちを晴らせるといいな。なんて思いながら待ち合わせ場所の新宿駅へ向かう。
オシャレなカフェでお茶をして沢山お話して…
楽しい時間はあっという間。
友達と遊べたのは楽しかったけど、結局あんまり気持ちは晴れなかった。
そして、私は気持ちを紛らわすために友達と別れてからは夜の新宿を練り歩いた。
普段は静かな街で暮らしているせいか、夜の新宿は新鮮だった。沢山の光に照らされたビル、お酒に酔って楽しそうにすれ違う人々。
その中私はゆくあてもなくフラフラと新宿を歩き回る。すると誰かにぶつかった。
「「ごめんなさいっ!!!……え?」」
見上げるとそこには私より20cmぐらい背の高いずっと会いたかったAさんが。
放心状態になってしまう。
「とりあえず、人多いから避けよっか笑」
その声でふと我に返る。
それから少しの会話をしながら、夜の星が見える人気の少ない小さな公園に来た。
2人でベンチに腰掛け、リラックスする。
「そーいや俺、CD出すねん」
最初に口を開いたのはAさんだった。
私は驚きのあまりまたAさんを見つめてしまう。
「いや笑そんなに驚かんくても笑まだCDは作ってないんやけどな、スマホには音源入れてんねん。聴く?」
「え、それって聴いていいやつなんですか笑」
「俺がいいって言ってるんやからいいやんで笑笑」
クスクス笑われたけど、だって私は推しとファンの関係。ファンのみんなよりも先に曲を聴いていいのだろうか。
「ねぇ、どっちにするん〜?笑笑」
内心少し悩んだけど…
「…聴きたいです」
「おっしゃ、じゃあ決まりや!」
そう言って取り出したのは有線のイヤホン。
片方を手に取るとそれを私に向けてくる。
「え?」
「ん?」
待ってくださいAさん、これって超絶距離近くなるやつですよね?
心の中でヒヤヒヤしてると
「ほーら、聴くで」
と、イタズラな笑みをしながら片方のイヤホンを私の耳にはめる。
ずるい。
なんて思ってたら、いつの間にかピアノの音が流れ始める。恥ずかしさと綺麗なピアノの音色で感情がぐるぐるになる。
どうしていいか分からず、隣を見ると気持ちよさそうに目をつぶるAさん。
長くて綺麗なまつ毛。ぷっくりした唇。
すっと通った鼻。綺麗なフェイスラインに喉仏。
思わず見とれてしまうほど綺麗な顔をしていた。
するとAさんがこちらに気づく。
イヤホンを外して
「なに?俺の顔になんか着いてた?笑笑」
「え!いや、何もついてないです、」
慌てた私を見て微笑んで私のイヤホンを外される。
「なあ〇〇ちゃん、なんで夜の新宿にいたかは分からへんけどさ、何かあったらいつでも会いに来てくれてもいいんやで?1人で溜め込まんといてや」
と言いながら頭を撫でられる。
私は恥ずかしくて咄嗟に目をそらす。
「あ、今照れたな?顔赤くなってるで?笑笑」
そうやってからかうAさん
「も〜!!照れてないですー!!笑笑」
「やっと笑ったな笑 笑う門には福来るやで、笑った顔の方が似合うで」
そう言い残して
「じゃ、ちゃんとお家に帰るんやで〜帰り気をつけてな〜」
Aさんは手を振りながら去っていった。
なんだか心の曇が晴れた感じ。
Aさんの言葉に救われて、私は立ち上がって最寄り駅へ向かった。
いつかこの気持ちを伝えられたらいいな。
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