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仮想現実の王は貌がない-ソーシャルVRライフスタイル調査2023の先を見る-


はじめに

いつものVRChatのコミュニケーションや無言勢の話ではありません。
今回はソーシャルVRライフスタイル調査2023年の記事となります。

物理現実では周辺環境に対して、肉体を持った私たちが存在しています。
しかし、VR世界では肉体とは異なる性別を持つアバターで自分を表現することができます。
フロンティア時代が過ぎ去り、新たなフェーズへとVRは進んでいくのですが、そこで起こる内容をソーシャルVRライフスタイル調査2023を見ながら考察していくのが、この記事の本筋になります。

ソーシャルVRライフスタイル調査2023については以下にリンクを貼付しますので、事前に確認がてら閲覧されることを推奨します。

物理現実とデジタル世界:新たな潮流の誕生

権力は顔を持ち、神は貌を失った

物理現実について理解する前に、私たちの歴史を振り返ることが重要です。かつての王や君主、市長などの権力者は、自身の威光を示すために肖像画を残してきました。これらの肖像画は、成功と権威の象徴として機能していました。

それと同じく、科学の進歩により、かつて神秘視されていた自然現象(雷、嵐、洪水など)は物理的な解釈を得るようになりました。雷は雲内の氷粒子の接触による静電気、嵐は湿った空気と乾いた空気の温度差による上昇気流など、科学は貌のなかった自然の神秘を解き明かし、物理現実の一部として捉え直しました。

科学の限界と物理現実への閉塞感

科学は多くの謎を解明してきましたが、依然として解決できない問題が存在します。例えば、虫歯や癌の治療、自然災害の防止などは、未だ克服できていない課題です。これらの限界は、物理現実に対する閉塞感を生んでいます。かつては万能とされた科学への信頼も、これに伴い揺らぎ始めています。科学だけを信じて物理的な充足を図ることを夢見るには発展が遅すぎたのです。

物質的豊かさから精神的充足へ

物理現実の変化は、物質的価値観にも影響を及ぼしました。高級時計や美術品など、かつてはステータスの象徴だった物品が、現代のデジタル時代においては同じような魅力を持たなくなっています。デジタルテクノロジーの進歩により、スマートフォンで時間を確認できるようになり、ゲームやインターネットでのアート作品が新しいエンターテインメントの形を提供しています。

インターネット:「貌のない世界」の登場

こうした背景の中で、インターネットは「貌のない世界」として登場しました。この世界では、匿名性に守られ、物理的な出会いとは異なる形の交流が生まれています。特に若者たちは、自分の容姿や声を直接使わずに、技術を通じて自己表現する文化を築き上げています。

YouTubeとVTuberの台頭

YouTubeなどのプラットフォームでは、個人が自分の好きなことを通じて広告収入を得ることが可能になりました。こうした動きの中で、VTuber(バーチャルYouTuber)が注目されました。VTuberは、2Dや3Dのキャラクターを介して活動し、物理現実とは異なる形でファンを魅了しています。2022年11月28日時点で、約20,000人のVTuberが活動していると報じられているように多くの人をこの世界へと導く魅力があります。

「ユーザーローカル VTuberランキング」を運営する株式会社ユーザーローカルは、2022年11月28日(月)の時点で、VTuberの人数が20,000人に到達したことを発表しました。

Mogura VR News / MoguLiveから引用

ソーシャルVRと新たな文化の形成

この新しい潮流は、VR技術との親和性によってさらに加速しています。ソーシャルVRは、物理現実とは異なる体験を提供し、閉塞感を打破する新しい文化を形成しています。この技術は、私たちの日常生活に新たな次元をもたらし、物理現実の枠を超えた豊かな体験を提供しているのです。

ソーシャルVRライフスタイル調査2023から見る物理現実との乖離性

さて、ここから本題に移ります。
ソーシャルVRライフスタイル調査2023から見るVRの在り方についてです。
男女、性別というものは過渡期を越え、緩やかに労働人口のようになだらかになっていきます。
そのため、今後VRが日常生活と同じような評価軸になれば自ずと人口動態は変わっていきますので、割愛します。

VRでは物理現実との関係性を求めない

ソーシャルVRライフスタイル調査2023から、VRが日常生活における評価軸としてどのように機能しているかを探ります。この調査によると、ソーシャルVRは物理現実との紐づけを求めず、匿名性を重視しています。たとえば、総務省の報告と比較すると、他のSNSと比べてソーシャルVRでは実名の使用率が低いことが明らかになっています。これは、ユーザーが物理現実からの距離を保ちたいという願望の表れかもしれません。

他性になりたい訳ではない

アバターの性別選択に関する研究結果では、男女問わず女性アバターの使用が多いことが分かります。
これは必ずしもユーザーが他性になりたいと考えているわけではないようです。外見が好みであるという理由が多く、これは人間としての親しみやすさや安心感を求める心理が影響している可能性があります。コールセンターなどで考慮される理論にも似ており、女性の声がフレンドリーであるため、より親しみやすいとされています。

エンジンかずみさんによる日本向けのアバター人気調査2023でも性別に対しては同じような結果が出ています。

よって、アバターの好みという一文だけでは済まない人とのコミュニケーションをするにあたっての不安感払拭のための回避行動心理がそこにはあるように見受けられます。

知覚されるのは言動と所作だけになる

ソーシャルVRでは、声や行動が主なコミュニケーション手段です。
その中で声を変性する人が4人に1人の割合で存在しています。
変性させるユーザーの中でも特に男性ユーザーは、
自分の声を女性的に変える傾向が見受けられます。
これは、コミュニケーションにおける匿名性を保つためや、ソーシャルVR内での異なる性別的な期待に対応するための戦略とも解釈できます。女性ユーザーの場合、より匿名性を重視し、物理現実との一線を引く傾向があります。

新たな人格の創出をソーシャルVRでは担っている

以上の調査状態をまとめると、人は物理現実と隔離し、本来の自分を表現したいと考えると同時に、自分を良く見せる、伝えるために女性化するような社会化が発生しています。
これは今までの競争原理社会のような縦割り社会から一人一人をリスペクトし、互いに互いを評価しあう曖昧な評価社会へのシフトチェンジをしていっているように見受けられます。

仮想現実の王は貌がない

ソーシャルVRの現状と収益化への道

ソーシャルVRは既に5年以上の歴史を持ち、現在はアーリーアダプターの中盤に差し掛かっています。今後の課題は、YouTubeのように、ソーシャルVRでも収益性を確保することです。YouTubeでは、支援したいと思える活動をしている人に集まる傾向がありますが、ソーシャルVRでも同様の動きが期待されます。調査によると、年間100万~999万円の収益を上げる人は2000人中約40人ですが、日本では1人が生活するのに年間200万~400万円が必要であるため、実際に収益として活用できる人は少ないでしょう。

VRChatの収益化と企業コラボ

VRChatなどでは、収益化への取り組みが進んでいますが、まだ完成には至っていません。企業コラボによる広告宣伝が進み、例えば、大丸松坂屋百貨店のVRアバターの発表などが記憶には新しいです。
企業のVR誘致により、モデル制作やキャストの雇用など新たな仕事が生まれています。このような企業型のコラボにより、ソーシャルVRは多様性を増していきますが、技術進歩により技術参入ハードルの減少により、アバターや服装制作の金銭的価値は反比例的に減少していきます。

エンターテインメントの未来と人間の役割

アバターや服装などの制作に金銭的価値がなくなったとしても残るものとして、金銭的な取引が発生するエンターテインメントワールドが重要性を増し、VRLiveやテーマパークなど、友人たちと楽しむことができる世界が台頭してきます。AIの成長に伴い、物理現実での労働が不要になる社会が実現すると、余暇の過ごし方が重要な課題となります。
エンターテインメント文化は人々の幸せのために残された唯一の文化となるでしょう。この新しい世界では、好まれやすいアバターを用いて自分の価値を高めることが一般的になり、新たな人格を作り出すことが普通になります。

貌がない王は精神的飢餓の荒野を行く

私たちは農業によって飢餓を、科学によって自然を克服しましたが、現代の人々が本当に幸せかという問いには否定的な答えが返ってくるかもしれません。人は時代ごとに不足を感じ、これを満たすために新たな形での存在を求めています。これからの時代では、人々はAIを伴いながら、貌のない王として新たな荒野で他者からのリスペクトを求めて精神的飢餓を抱えながら生きていくことになるかもしれません。

おわりに

さて、大晦日に無事入稿と相成りました。
今年一年お世話になりました。

1年最後を締めくくるには非常に興味深い記事となったのではないでしょうか。
…すいません、未来に希望を抱かないような終わりとなってしまいました。
肉体的な死が希薄になっている昨今、不足しているのが他者からの承認であるため自殺や、鬱などが多く存在するようになっています。
そんな社会では鬱を克服するために人は他者を容認し、自分を容認して欲しいという優しい世界が必要となります。
優しい世界では他者にも自分にもそれらしい振る舞いをするようになりますので、ある意味では非常に過ごしやすくなります。

ただ、光には闇があるように、優しくした分の返報性が返ってこないとなると人は無垢な攻撃性を発揮します。そういった意味では将来は優しいディストピアになるのではないかと考えています。

改めて、こういった機会をいただけたことに、バーチャル美少女ねむさんと企画してくださっているnoteの関係者の方に改めて感謝で締めくくりさせていただきます。

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