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超学生×梨「ホラー表現としての『フィクション』『展示』の可能性」

8月17日、『行方不明展』閉場後の会場にて、制作陣の梨氏と人気歌い手・超学生氏のトークライブが開催。お互い素顔は非公開のため、壇上にすりガラス付きのついたてを立てて登場となりました。
今回は梨の熱烈なラブコールによって実現した表現者同士の対談ということもあり、展示の背景にある「ホラー表現論」をさまざまな角度から深堀りする内容に。当日のトークを一部抜粋・編集してお送りします。
(取材・構成・写真:天谷窓大)

展示物に「凝らざるをえない」理由

超学生:今回の『行方不明展』って、ありとあらゆる表現をやっていますよね。映像もやって、こういうイベントもやって。『正体不明』の動画も見ましたよ。

梨:『行方不明展』のアナザーストーリーとして出した動画でしたね。会場を訪れた人へのインタビューから始まって、そこから『行方不明』の根幹にかかわるストーリーが展開していくという。

超学生:あれ、すっごい良かったです。隅々まで凝りすぎてて怖かった。

梨:展示って、逃げられないんですよ。展示って、額縁に入ったものをこう、見るじゃないですか。その場にいようと思えば、ゼロ距離で30分とか、いようと思えばいられるわけで。

テレビ番組だったらボカシをかけるとか、ジャンプカットすればなんとなく逃がせるんですけど、展示の場合は全部が表示されるという前提で作らなきゃいけない。

超学生:「ライブ音源なのか、完成されたリリース音源なのか」みたいな話にも通じるものがありますね。

たとえば黒塗りの箇所があるものとか、展示の場合「よく見たらこれ、隠したものが見えない?」というところまで想定しなきゃいけないというか。テレビだったら一瞬出るくらいなら大丈夫でも、展示だとまじまじ見られる可能性もあるわけで。

梨:だからこそ、凝らざるを得ないというか。

超学生:今回、製作者目線として「ここは凝りすぎたな」という作品はありますか?

梨:一番はヘッドフォンの展示ですかね。演出としてとあるバグミームを加えているんですけど、それによってとんでもない音声に仕上がりました。みなさんの感想をぜひ聞きたいですね。

超学生:特に反響が大きかったものは?

梨:壁の隙間にクマのぬいぐるみがミチミチに詰められている展示ですかね。あと意外だったのが、とある場所に置かれているオムライスの写真。世界一美味しくなさそうなオムライスなんですけど(笑)

超学生:「あんな色になるんだ」っていう(笑)

梨:青みがかってるんですよね。ナイフで切ったら中身がトロ〜ンってなるやつを作ろうとしたんだけど、真ん中のところからブリュッって出ちゃってる。世界一美味しくなさそうなオムライス。あれは結構反響が大きくて。「これ、展示だよね?」みたいな。

あれは変則的な展示で、いっさい説明テキストとかもなくて。ポン、ってその場に置いてあるだけという。

超学生:そのポン、って置いてあるシリーズが怖くて。急に落ちてたりするじゃないですか。

梨:生の白子の写真とか。

超学生:このトークライブを始めるとき、梨さんのついたての下にネジが落ちてるのを見つけたんですよ。これって展示じゃないですよね?(笑)

梨:このついたて、今回のためにテレ東の美術さんにつくってもらったセットなんですけど、その下にネジが落ちているというのがすごい不安ですね(笑) いきなりバーンってすりガラスが落ちて、顔が見えちゃったらどうしよう。

「フィクション」であることの強み

超学生:そういえば、『行方不明展』の「『人』の行方不明」エリアにあった、「フィクションだからこそ(ここに展示として)載せられているんです」というテキストが印象に残っていて。あれは新しい感覚を覚えましたね。

梨:フェイクドキュメンタリー的なものの逆をやっている感覚というか。いまって、できる限りフィクションであることを言わないのがブームみたいなところがあると思うんですよね。

超学生:たしかに。

梨:できる限りフェイクであることを言わない、「とことん“本物”を見せる」みたいなところが、いわゆるホラーのセオリーとしては一般的なところですよね。今回のようなアプローチは、ホラーに対する受容のされ方としては新しいんじゃないかと僕は見ていて。

フィクションと最初から言い切ってしまうのは、ある意味ネタばらしだとも思います。でも逆にそれが「受け入れられやすさ」につながっている気がするんですよね。

フィクションであるとわかった上で、フィクションであることを悟っていないふうに楽しむコンテンツって、意外と難しいんですよ。

超学生:見る人の視点によって、積極的にフィルターをかけていく楽しみ方というような?

梨:まさにそういうことです。心霊ビデオを含めたホラーシリーズって結構ありますけど、内容の真偽は別として、作っている側も見ている側も「これは本当に撮られた心霊的なもののホームビデオだ」という文脈を共有しているわけですが、そこのレイヤーを一個パッと外してみようと。

「これはフィクション、作られたものであって、ここにあるものが実際あるわけないんだから、その上で楽しんでください」という別の文脈を載せたらどうなるかなという、ちょっとした実験ですね。

超学生:そう考えると、(観客が物理的な距離を取って見る)展示という形は、ものすごくベストマッチかもしれないですね。

梨:本当にそうだったんですよね。

以前開催した『怪文書展』は、街中の電柱などに貼られている怪しげな張り紙のような、日常にあるけどもちょっと妙な雰囲気を醸し出しているものをモチーフに企画しました。これも展示というフォーマットを取ったんですけども。

あれの何がよかったかというと、ライナーノーツみたいなものをそのまま展示と並行して出せるんですよ。フェイクドキュメンタリーって、作者の解説を入れないのが普通じゃないですか。それを出しちゃったら寒いというか。

でも美術展だったら、そこに解説があっても違和感がないですよね。だからその場で逐一解説を入れることができるし、「この(展示物の)背景にはこういうものがあったんじゃないでしょうか」的な視座や導線をこちらで設定することができる。

超学生:なるほど!

梨:かつ、そこで展示されているものはドキュメンタリー的に「そこにある現物」として出せると。いろんなことを勘案したときに、この「展示」っていうフォーマットは意外といけるんじゃないかと思って、今回の『行方不明展』を制作したんです。

超学生:『怪文書展』の世界観を受け継いだ、ある意味続編的なものとして『行方不明展』は作られているんですね。

『行方不明展』の“その先”を考える

梨:いちど超学生さんに聞いてみたかったんですけど、『超学生展』って、やらないんですか?

超学生:『超学生展』!! そういえば前に名古屋駅の地下で開催したイベントで、自室で使っている吸音材を90cm四方に切り取って、ガラスケースで展示するという企画をやりましたね。

歌い手さんでこういう展示をやっている人っているのかなぁ。やるとしたら、梨さんにプロデュースしてほしいですね。

梨:家に御札とかないんですか?

超学生:御札はないですね(笑) でも知り合いの歌い手は、家にめっちゃ御札を貼っていて。結構そういう人、いるんですよね。もっとも神社の御札とか、そういうお守り的なものですけども。たしかに『歌い手の家にある御札展』とか、やってみたら面白そうですね(笑)

梨:で、うち一人のだけボロボロだったりして……
超学生:怖っ!(笑) 逆にピッカピカの新品だったりしても、それはそれで怖いですよね。「貼ると燃えちゃうんですよ……」とか言って(笑)

それにしても今回の『行方不明展』って、プロデュースの梨さんと大森時生さんをはじめとして、画家のヒグチユウコさんも参加されていたりと、かなり夢のタッグじゃないですか。どこまでいくんですか? デザフェスみたいな規模のイベントになったりして……

梨:ビッグサイトの東館とかで開催したりして。「『記憶』の行方不明は東館の4に行ってください」とか案内するようになって(笑)

超学生:もう会場自体が「The Backrooms」的な感じになって(笑)

梨:『怪文書展』『行方不明展』ときて「次は何展をやるんですか?」とよく聞かれるんですけど、私と大森時生さんがいつも話しているのは、「マッチしてますよ」と。

超学生:「マッチしている」とは?

梨:「Too muchですよ」と。今回の制作陣があまりにすごすぎて、結構上限いったなという感じがあって。これを超えるためには、それこそさいたまスーパーアリーナくらいの規模にいかなきゃいけない(笑)

超学生:チケットが4万枚以上売れているらしいじゃないですか。今回は2ヶ月ほどの開催期間ですけど、たとえば1〜2日だけに絞って、でっかい会場でやるのはどうですか?

梨:そのときは超学生さんにも参加してもらって、2階席とか設けて……

超学生:ライブじゃないですか!(笑) そのときはもう前座として、梨さんやみなさんをあっためる役として。

梨:「イシナガキクエをー!」「探していまーす!」って、コールアンドレスポンスを(笑)

超学生:(笑)。『ニコニコ超会議』とか、フェスイベントでよくあるじゃないですか。いろんなお店が出ていて、ライブブースもあるみたいな。空気感をどうしようかっていうのはありますけども。でっかい会場でやってる梨さんたち、めちゃくちゃ見たいですね。

梨:どうなるんだろう。でも実際に(会場まるごと)「The Backrooms」みたいな企画はやってみたいですね。

超学生:大体こういう展示って、すごい有名な作品や人を生で見られるとか、もともとある作品にまつわるものを見られる、というものが多いですけど、梨さんたちはこの展示のためだけの、ここだけでしか見られない新作の書き下ろしじゃないですか。それがすごいなと。

梨:展示を作っているというより、小説を書いている感じに近いですね。でかい会場でやるとしたら、それこそ映画くらいのメソッドを使わないといけないかもしれない(笑)

超学生:映画のセットを組むような……。どこだったか、渋谷のスクランブル交差点を完全再現したオープンスタジオがあるじゃないですか。あそこでやりましょうよ! 電光掲示板ジャックとかしてみたりして。
梨:嗅覚や視覚に訴えかける、かつ現地の出面という環境や創作環境って、まだまだできること、余白があると思っていて。フィクションで何かを展示するということ自体、まだフォーマットとしては確立されていないと思うんですね。

じゃぁ何をしようか、となったとき、たとえばどこかのデパートをまるまる一棟借り切るとか。もしくは都市でもいいですね。都市を借り切って、地下鉄とかから人を全員追い出して(まるごと展示物にしたり)。壁のタイルに偽装した人とかもいたり。

超学生:こっち向かって走ってきそう!(笑)

梨:そんな感じで、街ごと完全に拡張したリアルイベントとか、できたらいいなぁと思っていますね。

超学生:『水曜日のダウンタウン』の藤井健太郎さんがプロデュースした『大脱出』という番組を見たんですけど、町や村とかがまるごと舞台になっていましたね。下手したら大きなホールでやるよりも、こっちのほうが先に実現できちゃうんじゃないですか??

梨:そのときはぜひ、主題歌を超学生さんに歌っていただいて。

次に来るのは「味覚」のホラー?

超学生:そういえば以前、梨さんとフルーツパーラーで五感に関する話をしましたよね。今回は視覚、嗅覚、聴覚をカバーしているけれど、味覚がまだないって。

梨:そうですね、フルーツパフェ食べながら(笑)

味覚でホラーやりたいんですよね。こういうところに来て、チケットもぎったら、なんか座らされて、「とりあえず目つぶって口あけてください」って……

(会場、どよめきと悲鳴があがる)

超学生:一応アレルギー系のチェックはあらかじめしてもらって。そのうえで「死んでも文句は言いません」って誓約書にサインしてもらって。

梨:「では……」って(笑)

超学生:めっちゃ行きたいけど、怖いですね〜。そこから他の要素につなげるのもまた技術が必要そう。

梨:聴覚とつなげてみたり。目をつぶってるときに謎の「チャプ…… チャプ……」という音が聞こえてきたり。

超学生:さっきデパートを会場にする話が出ましたけど、たとえば試食とか実演販売をモチーフにするとか。「とりあえず食べてくださーい」って。

そういえば梨さん、生きてるものが動いている展示って、やったことありますか?

梨:それがね、ないんですよ。

超学生:TikTokで流行った「弁天様」みたいに箱の中で動いている人を見るとか。海外とかでよくあるじゃないですか。アクリルケースの中に女の人が寝ているだけとか。そういうの、梨さんの作品で見たことないなって。

梨:たしかにできたらすごく面白いですね。今回は展示の質感的にやれなかったんですけど、たとえば中身の見えない黒い大きな箱を用意して、たまに中から「カリ…… カリ……」ってひっかくような音がするものとか、できたらいいなぁと。

超学生:別に音声でもいいのに(笑)

梨:やるんだったら、本当に中に誰か入っていてほしいんですよ。何かしらのものが。

超学生:虫とか使ったものもいろいろできそうだなと思って。ゼリー状の素材に作られた蟻の巣を横から眺めるキットってあるじゃないですか。ああいうの。

オモコロの原宿さんが「『行方不明展』の会場にある香水の展示を試そうと思ったけど、みんながあまりに嗅ぐから中身が減っててボタンがプッシュできなかった」って話していたのが印象に残っていて。

梨:たまに、展示終わると3プッシュ分くらいしか残ってないときがあるんですよ。普段使いかってくらい(笑)

超学生:僕が来たときにはもうプッシュできなくて、フタを開けて嗅ぎました。時間経過とともに減っていく展示って面白いな、と昔から思っていて。

僕が前に見て好きだったのは、アメ玉かなんかが山積みになってて、観客は1個ずつそれを持ち帰って良いという展示で。最終的には0になるんだけど、実はそのアメ玉の量は、亡くなった恋人の体重を表すものだったという。面白い、と表現するのは語弊がありますけど、興味深かったですね。

生き物でもこういうこと、できそうじゃないですか? ランダム性があって。

梨:コンプライアンス的にどこまで許していただけるか、というところですけどね(苦笑)

『行方不明展』で得られた知見もそうですし、今回のようなトークライブでいろんな方とつながって得られた視座もふくめて、これらをフル活用した「『行方不明展』のさらに“その先”」みたいなものが見えたらいいなと思いますね。

超学生:お客さんから「今度はこういうものが見たい」ってリクエストはあったりするんですか?

梨:「お化け屋敷を見たい」っていうリクエストは、ありましたね。

超学生:梨さんにそれ言うって、勇気ありますね(笑)

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