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ジャズピアノのオンライン教材の問題点【連続投稿50日記念特集号】有料級【中編】

前日に引き続き、今日もジャズピアノオンライン教材の問題点を指摘する。以下のような教材はジャズ教育の本質からかけ離れ、無益・有害なものが多い。

3.フレーズや小手先テクニックを紹介する。
「ソロで使える格好良いフレーズ5つ」とか「役に立つバラードでのボイシング」とか「便利な5つのブルージーなフレーズ」と言った内容を教えている教材は疑ってかかったほうが良い。私はこういった類のレッスンビデオが大大大大の大嫌いである。何故か。理由は3つある。

1つ目は、小手先のテクニックは即興演奏をする上で全く役に立たないから。2つ目は、音楽を簡素化することによって、演奏が無機質になり、音楽の本質からかけ離れてしまう。3つ目は、ジャズの学習は本人が何を美しいと感じたか、そのプロセスを知ることであり、指導者の美的感覚を一方的に鵜呑みにする事ではないからである。

言語を学ぶプロセスを考えてほしい。自称・日本語をマスターしたとされるマイケル先生がアメリカ人日本語学習者に「今日は日本人が良く使う日本語を5つ紹介します。寿司、天ぷら、トヨタ、ワサビ、ハラキリ!!」と言ったとしよう。日本語を何も知らない人なら、その5つのフレーズを覚えただけで、何となく日本語が話せるようになった気になるかもしれないが、こんなのでは日本語を話せるようにはならない。断片的なフレーズを覚えただけでは何も役に立たない。

即興演奏とは物語である。私達ジャズミュージシャンは即興的に人々を感動させるような物語を創作しているのである。考えてみてほしい。あなたは小説家になろうとしている。人を感動させる物語を書くには何が必要だろうか。勿論豊富なボキャブラリーを蓄えておくのは必然だ。しかし、いくらクールな単語や難しい単語を知っていたところで、どのようにこれらの単語を繋ぎ合わせれば良いのか知らず、どのような状況でこれらの単語を使えばよいかを熟知していなければ何の意味もない。更に言えば、小説を書く上でもっと大事なことは、小説のストーリー展開・構成力だったり、状況に応じた適切な文章の使い方だったりするのである。官能小説で考えてみてほしい。”順子は(←名前を昭和風にした)ベッドに横たわり、ブラウスから透ける、はち切れんばかりの豊満な胸を和夫に見せ懇願するのである。”
この状況で順子が発するべきセリフは「お願い、入れて!貴方と繋がりたいの!:;(∩´﹏`∩);:」である。しかし、例えばここで「中東和平問題・日経平均株価!」と言ったら、こいつは何を言っているんだ?とムードが一気に台無しになるのである。格好良い単語を断片的に使っても、流れや、その時の状況を十分に理解していなかったら全く意味がないのである。

同様に、ジャズ学習者の多くがクールなリック(フレーズ)を知りたがる。確かにリックを勉強するのは大事だ。それは否定しない。しかし多くの学習者がリックだけに囚われ、ソロへの本質の勉強がおろそかになりがちだ。本質とは、自分がソロを通じて、いや、一曲を通じて、いや、ワンステージ、いや、その日のライブを通じて何を伝えるかである。そのために肝心な事はリックをどのように発展させるか、モティフィックアイディア(モチーフを使った考え方)を勉強したり、スペースの概念を勉強したり、その時・その時の状況で、どんなアプローチを求められているのか、バンドとどのように会話をするのか、又はソロをどのように構成するか等を勉強する事である。しかしこれらを説明するには、確かな演奏の技術や、長年の経験を身に着けていないといけない。だから多くのオンラインジャズ教育者は「ブルースで使える5つのフレーズ!」と安易なレッスンに逃げるのである。

次に2つ目の、音楽を簡素化することによって、演奏が無機質になり、音楽の本質からかけ離れてしまう。という事について深堀りしていきたい。音使いだけに着目して、そのフレーズをクールと考える事は危険である。一般的に、こういった類のレッスンをするピアニストは単純に鍵盤の音使いだけを説明するから要注意だ。

感動するフレーズとは何か。これは昨日書いた記事の内容と重複する部分もあるが、譜面上の音使いがクールだから、良い音楽が奏でられると思ったら大間違いである。音楽とはそんなシンプルに考えてはいけない。

どんなに譜面上、複雑そうなリック (例えばディミニッシュスケールを使ったフレーズや、アウトしたペンタトニックのスケール)を弾けたところで、何度も言うが、ニュアンス、タイム、フィール、タッチetcが悪ければ、ただの音の羅列である。正しい音使いをしているのだが、ニュアンスやタイムが悪いために、演奏が無機質に聞こえたり、ダサく聞こえるピアニストが多いのはこのためだ。

それとは反対に、一見簡単そうな音使い、極端な話、ドレミファソでも人を感動させたりすることが出来るのである。これは使う状況やニュアンスや、フィール、タイムが良ければ音楽的になるからだ。Keith Jarrettを例にとって考えてみよう。本当はAt The Dear Head Inn のBye Bye Blackbirdが著者は好きなのだが、Youtubeには無かった。聴いて頂けたら分かるが、彼は楽譜の音使いという観点からは特に難しい事はしていない。至ってシンプルだ。だがKeithの凄さは、完璧なピアノタッチと、レガート奏法、そしてピアノを管楽器のようにまるで呼吸しているかのような抑揚をつけて弾く事だ。またピアニッシモの中で微妙なニュアンスをつけるのが上手い。ジャズのリックでは8分音符のフレーズが多いが(シュビドゥビィ♪と言った感じ)4分音符のフレーズも目立つのである「ド・レ・ド・ド♪といった感じ」(←伝わるかな・・・・(・_・;))つまり譜面上ではシンプルだが、どのようにそれらの音符を音楽として扱うかで、感動させることが出来るのである。

繰り返すが、音楽はどの鍵盤を押さえるかではない。自分の出す音をどのように感じ、どのように処理するかだ。「ラミ#ドファ♭ソレレミ#ファシ」が難しくてクールとは限らないし、「ドミソ」が容易で退屈とは限らないのである。

3つ目は、ジャズの学習は本人が何を美しいと感じたか、そのプロセスを知ることであり、指導者の美的感覚を一方的に鵜呑みにするのではないからである。

英語のリスニングを勉強している時の事を考えてほしい。早くて何を言っているのか分からない英会話を何度も聞きなおし、会話の前後や、あるいは文法から単語を推測したりすることがある。色々考えたが結局分からず、正解を見たら、あー何だそんな事言っていたのか、知っていたよ。と思う事がある。そういった経験があると、そのフレーズや表現は二度と忘れないだろう。

ジャズでもCDを聞いていて、素晴らしいと思う瞬間を採譜したいと思う事があるだろう。一体どうやっているんだろうと思い、鍵盤の前に座り、何度もCDをプレイバックして、そのフレーズやハーモニーを割り出そうとする。分からない時は、理論的に考えてハーモニーを割り出したりする。そのようなプロセスを経て習得したコードやフレーズは長期記憶に残るし、そのフレーズやハーモニーを弾けるようになってから、レコードを聴くと、何だ大したことやっていないじゃないかとレコードの聴き方が変わったりする。それは自分がそのハーモニーやフレーズを習得したから、その音の新鮮さがなくなるからである。

そう、この過程がジャズの学習において大事なのである。自分が美しいと思ったフレーズを割り出そうとする過程において習得したスキルがバニラエッセンスのように蓄積されていくのである。

そして、自分が格好良い、美しいと思ったフレーズやハーモニーをコピーする過程で、どうして自分はこのフレーズやハーモニーが格好良い、美しいと感じたのか?それは、和声なのか、リズムなのか、ピアノタッチなのか、色々な事に思いを馳せる事が重要なのである。誰か知らんが、その辺のおっさんが(言い過ぎ?(;´・ω・))勝手にクールだと思ったフレーズ5つを譜面読みながら、ただ鍵盤に手を置いて音を出しただけでは何も得るものはない。

先に知識として、色々なボイシングの種類やスケールを知っておくことは大事だ。知識があると、CDを聴いた時にそのフレーズや、ボイシングを割り出すことが出来るからだ。ボイシングのタイプ、スケールを理論として理解しておく、つまり【概念】は大事だが、特定のボイシングやフレーズを知る事は【概念】を理解する事ではない。

【続く】

写真:筆者が2週間前に投稿したYoutubeのビデオである。このようなフレーズだけを紹介するのはダメな教材の典型である。従って著者はこのビデオを教材として扱っていない。このビデオはコメディーに分類されている。

P.S 予想以上に長くなってしまったので(;´・ω・) 今日を中編として明日で完結する事にした 笑 今日も読んでくれてありがとう(*^▽^*) 

ジャズピアニスト 二見勇気Youtube - Yuki Senpai
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Twitter - 天才ピアニストゆうこりん ❤

プロフィール
1987年4月6日埼玉県春日部生まれ。3歳からヤマハ音楽教室でピアノを始める。クラシックピアノを大場啓子氏、國谷尊之氏、松本美都子氏に師事。ジャズピアノを今泉正明氏、石井彰氏に師事。高校を卒業と同時にプロ活動を開始。都内を中心に活動する。2012年にオスカーピーターソントリビュートアルバム 「バンザイオスカー」を発売。JAPANタイムズに掲載される。2013年にニューヨーク州立ラガーディアコミュニティーカレッジに入学。勉学に励む傍ら、ニューヨークのジャズシーンで活動する。2015年にニューヨークのミュージシャンと録音した第二のリーダーアルバム「Moonlight Serenade」を発売。日本ツアーを大成功に終わらせる。2016年にニューイングランド音楽院に入学。活動の拠点をボストンに移す。これまでジェリーバーガンジー氏、フランクコールバーグ氏、ミゲルゼノン氏に師事し、クラシックピアノをブルースブルベイカー氏に師事する。2017年にボストン・スイング・トリオを結成。ブカレストインターナショナルコンペティション2017でベストバンド賞を受賞する。これまでにヨーロッパ、中国、韓国、アメリカ、日本各地で公演を行う。また2018年と2019年の中国ソロピアノツアーでは70公演、50都市以上を周り大成功に収める。現在インディアナ大学でジャズ科補助教員をしながら Jacobs School of Musicのマスタープログラムに在籍中。ピアノをLuke Gillespie氏に師事。童貞ニート33歳。







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