片言の言葉が心に沁みる
母の訃報の知らせを受けて急遽帰国することになった日の朝、前夜からほとんど寝ていない状態で車に乗り込んだ。
カー・サービスのドライバーはNYに移住して間もない様子だった。空港とターミナルの確認だけをして無言のまま青空が広がる外の景色をぼんやり眺めていた。
いくら抑えても涙がどんどん溢れ出る。ドライバーに気づかれないよう、声を押し殺して涙をぬぐう。
ドライバーが “Are you OK?” と、バックミラーでこちらを見ながら声をかけてくれた。
車に乗る時に見送ってくれた夫との別れを惜しんで泣いていると思われたかも知れない。2度、3度と続けて声をかけてくれる。
“I’m OK” と涙をこらえて応える。母の事は話せない。それを聞いた相手は困るだけだと思う。余計に気を遣わせてしまう。それに、本当の事を話したら更にもっと涙が出そうである。
「あなたの家族はここに住んでいるのですか」と尋ねると、数ヶ月前に中国から父母、妻、子供たちと移住して来たとのこと。
「みなさん、お元気?」みんな元気だと明るく大きな声で応えてくれる。
彼とそんな話しをしていたら、気持ちが落ち着いてきて涙もおさまった。
きっと何かあったのだろうと心配して懸命に気遣ってくれることが、深く響いた。苦手な言語でも心から発した言葉は相手の心に染み入る、と彼が教えてくれた。
あれから9年、彼はもうNYに慣れた頃だと思う。
ご家族の皆さんと一緒にお元気で過ごされていることを願っている。
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