マンハッタン 東86丁目

最後に住んだアパートはマンハッタンの東86丁目駅に近いレキシントン街と
3番街の間にある14〜15階建てのアパートだった。
近くにはFairway, Wholefoods の大型スーパーマーケットがあり、地下鉄は4、5、6とQライン、バスもリミテッドが停まる。
セントラルパーク迄は徒歩で10分ほど、メトロポリタン美術館、グッゲンハイム美術館、その他いくつもある。銀行、大きな書店、映画館、家電店もある。
世界各国のレストランも選択するのが難しいほどある。
とにかく便利な場所だった。

家賃は入居した2010年は1850ドルだったが、毎年家賃は上がり、
2020年には2400ドルになっていた。
現在は信じられないほどの高額な家賃になっているらしい。

10畳ほどの部屋に小さなロフトがついている。ダブルベッドがひとつ置けるくらいの大きさで、その下が奥深いクロゼットになっており、これはとても重宝した。キッチンはセパレートでかなり広く、小さなテーブルと椅子を2脚置いてもそれほど狭く感じない。バスルームも広めに出来ている。人間ひとりが横になれる広さがあった。長い廊下の壁にクロゼットがふたつ。

一人暮らしなら天国のようなその部屋に夫婦ふたりで住んだ。夫は出張の多い仕事をしていたし、出張でない時も上手にお互いのプライバシーを守る努力をして暮らした。

7階の部屋だったが、ラッキーなことに窓から見える外の景色は5〜6建ての低いビルが3ブロックほど続いている為に見晴らしが良い。向かい側のアパートに住む人の視線がなく開放的である。(現在は2ブロック先に超高層ビルが建っている)
1980年代初期に建てられた古いビルだが、理想の部屋だった。
近隣の人たちにも恵まれた。

アパートを引き上げる時、隅から隅まで綺麗に掃除をした。
バスルームとキッチンの換気口、キッチン棚の上、エアコン、ガスココンロ、換気扇、何から何まで。感謝の気持ちである。それほど大好きな部屋だった。
入居した時よりも綺麗なくらいにして、最後に部屋の確認に来た管理人さんに驚かれた。

NYに来て初めて住んだのは71丁目の2番街と3番街の間にあるアパートだった。地下鉄は77丁目のレキシントン街にある6番ライン、急行は停まらない。

ある日、いつも通り6番ラインに乗ったのに電車は77丁目を通り過ぎて86丁目まで行ってしまった。ひと駅戻るためには、いったん地上へ出なくてはならなかった。その時が初めて86丁目に足を踏み入れた時である。まだNYに慣れていない頃で街を散策する余裕もなく、すぐに通りを渡ってダウンタウン行きのホームへ降りたが、ちらっと見た86丁目の駅周辺は71丁目周辺とは雰囲気がまったく違っていた。「ひとつの小さな街」に見えた。なんだかホーミーで温かい感じがした。その時は駅前に今ほど大きなビルは建っておらず、小さなお店がいくつも連なっていた。ドーナッツ屋さん、キャンディー屋さん等が。

まさかその街に住むとは思っていなかったが、今では思い出すと懐かしい感情が
じんわりと湧いてくる。意図せず地下鉄で降り立った時のあの感情も、そのまま
覚えている。

東86丁目周辺の風景は頭の中ではなく、心の中にある。

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