小説を読みながらその街に引き込まれる

ポール・オースター ガラスの街

1985年に発表されたポール・オースターのメジャーデビュー作で、ニューヨーク三部作の第一巻。

何度もかかってきた間違い電話から、探偵になりすまし依頼を受けることになった主人公。ある裕福な若い男とその妻から、精神病院から退院してくる依頼主の男の父親を監視するように依頼され、その父親を尾行しながらマンハッタンの街の迷路へ入り込んでいく物語。

詳しく書かれた番地やストリートの名前が頭の中で道順を辿り、自分がそこを歩いているように頭の中で描く。

依頼人のアパートへ行く道順「70丁目の五番街の角でバスを降りた時も〜」
そこにはフリックコレクション美術館の白い建物がある。その白さが夏は涼しく、冬は底冷えするように感じる。

「東へ向かい、マディソンを右に折れ、1ブロック南に行ってから左へ曲がり〜」
高級ブティックのウィンドーが並ぶ69丁目とマディソンとパークの間に位置する建物、そこの5〜6部屋ありそうなアパートメントに依頼人の夫婦は住んでいる。

「72丁目とマディソンの角でタクシーを拾った」
東南の角にラルフローレンの店舗がある場所。小さな別世界に入り込んだ気持ちになる店内は重厚な木のぬくもりがある。この店の前の大通りからセントラルパークを抜けて主人公はウエストサイドへ移動する。

107丁目近辺の主人公のアパートからブロードウェイの112丁目にあるいろいろな物を売っているお店のカウンターで食事をとる主人公。4ブロック北へ歩けば116丁目にコロンビア大学がある。

グランドセントラル駅、依頼人の父が退院後にこの駅に降り立つ。ホテルまで尾行する。グランドセントラル駅からウエストへクロスするシャトルに乗り換えてタイムズSQ、そこで北方向行きの電車に乗り換えて96丁目のブロードウェイの駅へ。改札を出て地上へ出て3ブロック歩いた99丁目の角を左へ行ったところのホテルへ“その男”は入る。

1985年頃のグランドセントラル駅は、当然、現在とは違い、殺伐としていた記憶がある。その頃、私は初めて観光でNYを訪れ、駅の建物の中にあるオイスターバーで食事をした。夜の駅構内にはあまり人がいなかったが、レストランは大盛況だった。夜8時以降は地下鉄に乗るなと言われていた時代。

文章からつくり出されるイメージは現実的で、そこを歩いた時の心の迷路まで浮かびあがってくる。不思議なことに、頭に浮かぶイメージはほとんどがモノトーンで、イエローキャブの黄色だけがカラーである。

NYが恋しくなったり、迷路に入り込んでしまったら読みたくなる本の一冊。

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