気品を感じる人

東86丁目の3番街から西側にクロスタウンするバスの中。

背筋をピンと伸ばし、私の隣に座る70才代後半くらいのご婦人。
膝の上にハンドバッグを置き、その上に両手をきちんと重ねる。
唇をぎゅっと閉め、両膝と両足をしっかり揃え、まっすぐに視線を向ける。
少しの隙もない姿。

ハンドバッグも靴も高級ブランド品ではないが、よく手入れをされていることがわかる。髪の毛は後ろでひとつにまとめ、小さな帽子を被っている。

近寄りがたいほどに燐としている。彼女の中の“誇り”をみたような気がした。

近所にある大型のディスカウント・ストアー。
私は靴のコーナーで散歩用のスニーカーを探していた。

「タオル売り場はどこでしょうか?」

すっとした佇まいのご婦人が声をかけてきた。バスの中で隣に座っていた女性と同じくらいの年代である。

「ごめんない、私、知らないのですが」と答えると、

「ここで働いているのに知らないということがあるのでしょうか」

「いいえ、私はここで働いていません」

近所だったのでバッグを持たず、小さなお財布をポケットに入れただけの手ぶら姿だったため、私を従業員と勘違いしたらしい。

そのご婦人は硬直し、手を口もとに当てて、

「まあ、どうしましょう。私、なんてことをしてしまったのかしら。大変失礼致しました」と詫びた。その驚き方、丁寧な言葉に気品を感じた。

そのお二人が、公民権運動の活動家で有名なローザ・パークスさん(Rosa Parks)と重なる。

美しい佇まい、内に秘めた静かな力強さを感じたのである。

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