Bronx, Riverdaleに住む友人

ブロンクスの北西部にリバーデールという地区がある。
その地区の閑静な住宅地に住むアレンは、友人の恋人だったアメリカ人。彼は友人よりも20才くらい年上だった。私達の父親に近い年齢である。

タイムズSQから地下鉄1番線に乗り231丁目で下車、そこからバスで15分のところにアレンの家があった。両親から受け継いだ可愛らしい2階建ての家。外見は映画「クリスマス・ストーリー」(A Christmas Story 1983 USA)の家族が住む家とよく似ている。

5~6段ある木の階段をのぼると玄関ポーチがある。正面のドアを開けると真正面に階段、右手に通路側に沿った居間、階段横の奥にキッチン、その右隣に大きめの居間がある。

2階への階段を上ると右手に小さな寝室、左手にバスルーム、いちばん奥が主寝室になっている。

1階台所の奥にあるこぢんまりとした裏庭には何の木かわからない枯れ木が数本、朽ちた枝と枯葉の絨毯。隣の家の庭からも枝葉が侵入してきている。

家のあらゆるところに書籍や書類が積み重ねられている。アレンはコンピューター・エンジニアであり、たぶん、それに関したものだと思う。

何年も前に離婚した妻の写真は1枚もないが、ひとり息子の幼い頃の写真は何枚か飾ってある。

元来とてもチャーミングな家だと思うのだが、何しろ長い間手入れをしていない。キッチンの天井は半分落ちかけている、エアコンも壊れていてお湯も出ない。洗面台のふたつある蛇口のお湯の方に赤いリボンがつけられ”No hot water”とメモが貼ってある。冬は1階のキッチンでお湯を沸かし、階段を何度も上り下りしてバスタブを満杯にして入浴する。階段に張られている絨毯も糸がほつれ危ない。とにかくあちらこちらが古びている。ホコリまみれの物で溢れている。

夏はストリート側の窓を全開、裏庭のドアを開け放し、風が通り抜ける時はホッと一息つき、そうでない時はボーッと夕方に涼しくなるのを待つ。

ある年の感謝祭のディナーはアレンがひとりで買い出しから料理、後片付けまでして招待してくれた。ゲストは彼の恋人と彼女の女友達と私の3人。

私達は何もせず、居間でわいわい会話をしながら料理ができるのを待つ。その間に何種類かのスナックと飲み物をサービスしてくれる。こんなマメな男性が妻に愛想をつかされるなんて、と思うのだが、決定的な理由はちゃんとある。

あちこちにキャンドルを灯し、殺伐とした部屋はそれなりにいい雰囲気になる。

その夜、私達は初めてアンティーチョーク(野菜)を食べた。「食べるところなんてほとんどないじゃない!」と言いながら、忙しくガクを一枚ずつ口に運んだ。その後、ローストされたターキーを食べ、デザートを満喫し、実家へ帰ったかのように、本当に何もしなかった。

庭に迷い込んできたという子猫が3匹。私たちは一匹ずつ胸に抱き、夜がふけるまで、まったり、ぬくぬくと過ごした。

その後、友人はアレンと別れ、私も次第に彼と会うことはなくなった。
冬になり12月24日の夜に映画「クリスマス・ストーリー」を見る度にアレンを思い出すのは、あの古い朽ちかけた家が思いのほか居心地が良かったからである。

アレンが両親と暮らしていた頃の温もりがどこかにのこっているような家で、あの頃日々緊張して生活していた私達は身体の芯から安心できたのだと思う。

アレンに感謝、ありがとう!

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