見知らぬ人から小さな幸せをもらい、多くの人に助けられた日々

* 土曜日のバスはいつもより道は空いているはずなのだが、その日は交通渋滞が発生。86丁目のレキシントン街からダウンタウン行きのバスに乗ったのだが、
79丁目あたりからノロノロ運転になった。

なかなか動かないバスに苛立つ人がいたかも知れない。
ハンターカレッジの手前あたりでドライバーが車内アナウンスを始めた。

「せっかくの土曜日、でも、まあ、こんな日もありますよね」
「どうですか、隣の座席の人にハローと挨拶してみませんか」
「握手をしてみませんか」「自己紹介してみませんか」

車内で笑い声が起こり、多くの人が笑顔になり、気持ちが和らいだ。
隣の人とお喋りを始めた人もいた。

それから、各バス停で人々は口々にドライバーにお礼を言いバスを降りた。

59丁目のブルーミングデールズ を過ぎたあたりからは渋滞もなくいつもの土曜日のようにスイスイと乗客を運んでくれた。

通常よりも時間がかかったけれど、気持ちの良い日だった。
ドライバーが皆をハッピーな気持ちにしてくれた。

* その日は友人の誕生日で、私はフラワー・ショップのウィンドーを眺めていた。お花をプレゼントしようと思ったのではなく、ただ通りすがりに綺麗だったから見ていたのである。

突然 ”This is for you”と差し伸べられた手に一輪の花が握られていた。
驚いて声の方を向くと私より20歳ほど年上のアメリカ人男性が笑顔で立って
いた。彼は私の手にその花を握らせ、ニコニコしながら立ち去った。

私はその透明のセロハンに包まれた一輪の花を持って友人宅へ行った。
誕生日の主は当然それが自分へのプレゼントだと思ったのだが、その花を誰にもあげるわけにはいかない。せっかくのおじさんの気持ちを裏切るような気がしたのである。

私はその花を自分のアパートへ持ち帰り、コップに入れて窓辺に飾った。

* 雪が降った数日後、まだ道の端には雪が残っている。私は短い雪靴を履いていたが、サイズが少し大きめで歩くたびにガボガボと音がする。信号が青から赤に変わりそうになり、私は走った。向こう側の歩道に着く手前で派手に転んだ。

信号で停車している何台もの車に見られたはず、まわりの人がこちらを見ている。
顔から火が出るくらい恥ずかしい。

ひとりの女性が駆け寄って来て「大丈夫?」と声をかけてくれる。天の助けと思い「大丈夫。ありがとう」と返事をする。「私もね、よく転ぶのよ。気にしないで」と彼女は去って行った。たぶん、彼女はこんな転び方をしたことはないと思う。
優しい気持ちが嬉しかった。

見知らぬ人から小さな幸せをもらい、多くの人に助けられたNY生活。

恩返しをしたいと思う日々である。

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